本事件の原告は太陽光パネルや蓄電池の販売を業とする株式会社です。被告は原告の元従業員であり、令和5年3月31日に原告を退職し、その後原告の競合他社に転職しています。
そして、被告は、令和5年7月2日頃、営業活動を行った顧客P3に「現場調査依頼書」の上部(氏名、生年月日、住所、電話番号等)を記入してもらった上でその提出を受け、その頃、本件顧客に対し、「P3様邸経済効果シミュレーション」の用紙を用いて、太陽光パネル及び蓄電池設置の経済効果や費用等について説明を行っています。
そして、原告は、「現場調査依頼書」及び「シミュレーションシート」のフォーマット(本件情報2,3)が原告の営業秘密であると主張しています。
これに対し、裁判所は以下のように判断しています。
ア 秘密管理性について被告の原告在籍当時における「現場調査依頼書」及び「シミュレーションシート」の管理状況を明らかにする証拠はない(原告自身、上記の管理状況を裏付けるものとした甲第9号証の写真につき、被告の原告在籍当時のものではない旨述べている。)。また、仮に、被告の原告在籍当時も甲第9号証の写真と同様の状況であって、上記の棚に注意書きの書面が掲示されていたとしても、上記の棚はいわゆる開放棚であり、書類が棚板の上にむき出しの状態で置かれていて、施錠管理等はされていない上、営業担当者のみならず、原告の従業員であれば誰でもアクセス可能であったことがうかがわれる(営業担当者のみがアクセスできる場所に設置されていたことを認めるに足りる証拠はない。)。加えて、原告が主張するような、棚に備え置かれた資料の数を管理する措置が講じられていたことも認めるに足りない。しかも、「現場調査依頼書」(甲2の1)には「(お客様控)」との記載があり、「シミュレーションシート」(甲2の2)は、営業担当者の顧客に対する説明の際、トークだけでなく視覚的にも原告のサービスを分かりやすく認識させ、顧客を誘引することができるものであることからすると、これらの書面は、顧客(契約締結に至った者に限らない。)の手元に残ることが予定されたものであると認められる。また、これらの書面の内容について秘密にすることを顧客に求めているとは認められない。以上のことからすると、被告が原告に在籍していた当時、原告において、本件情報2及び本件情報3につき、当該情報に接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していたと認めることはできない。
上記のように裁判所は、本件情報2,3の秘密管理性を認めていません。具体的には、「現場調査依頼書」及び「シミュレーションシート」が棚に保管されていたとしても、施錠管理はされておらず、誰でもアクセス可能であったという理由です。
さらに、「現場調査依頼書」や「シミュレーションシート」は顧客の手元に残ったり、顧客に見せていたという理由により秘密管理性が認められませんでした。
営業秘密は、社内での秘密管理よりも、社外の顧客に開示等した場合の秘密管理の方がより厳密に判断されています。すなわち、顧客等に対する秘密保持契約の有無です。顧客に対して秘密保持契約を締結せずに開示等した場合には、社内で秘密管理していたとしても当該情報の秘密管理性が認められなくなる可能性があります。
本事件では、社内での秘密管理性、社外に対する秘密管理性の両方が認められていないことになります。
なお、本事件では「現場調査依頼書」及び「シミュレーションシート」の内容は何れも一般的なものであること、上記のように顧客の手元に残ることが予定されていたものであるとして、非公知性も認められていません。
弁理士による営業秘密関連情報の発信




