2017年10月30日月曜日

転職者から他社の営業秘密を取得すること

私は弁理士や異業種の方と交流する席で、よく営業秘密の話をします。
これにより、営業秘密の話題には多くの人が興味を持っていることが分かる一方、
多くの人が営業秘密について十分に理解していないことも分かります。

営業秘密は、言葉としては多くの人が聞いたことがあるでしょうが、それを満たすための3要件や刑事罰の規定等、専門的なことが深く関わってくるため、多くの人が十分に理解していないことは当然のことだと思います。
だからこそ、ビジネスチャンスがあるのだと思うのですが。

営業秘密について話すと時々驚かれること、それは「転職者が前職の営業秘密を転職先に持ち込んではいけない」ということです。
すなわち、競合他社から転職者を受け入れるということの目的に一つには、その競合他社が保有している秘密情報を取得することもあるのではないかということです。

確かに、そのような目的意識を持つ企業もあるでしょう。
その結果、刑事事件になり転職者の受け入れ企業も刑事罰の対象となった事件が、「過去の営業秘密流出事件」にも挙げている<自動包装機械事件(2015年)>です。

この事件は、被告企業が、競合他社の元従業員4人を転職者として受け入れ、この競合他社の営業秘密を持ち出させた事件です。
この事件は、元従業員2人が執行猶予付きであるものの懲役刑及び罰金刑が確定しています。また、この被告企業も1400万円の罰金刑が言い渡されています。
そして、この転職者と転職先企業である被告企業は、競合他社から民事訴訟も起こされています。


一昔前(不競法で営業秘密の刑事罰が規定された平成15年以前)であるならば、転職先企業が転職者に対して、前職企業の営業秘密を持ち込ませるようなことは少なからずあったと思います。
しかしながら、現在では転職者を介した不正な営業秘密の取得は、その転職者だけではなく、転職先企業も民事的責任及び刑事的責任を追及されることになります。

このように、企業は、転職者を介して競合他社の営業秘密を取得するという目的を持ってはいけません。もし、そのような目的も持っている企業があるならば、即刻やめるべきです。

その一方で注意が必要なことは、取得してはいけないものは「営業秘密」であって、「営業秘密」ではない、転職者が有している技術や知識、経験は、転職先企業が取得してもよいし、当然、転職者も転職先で開示・使用してもよいということです。

このために、転職者は、自身が知っている前職企業の営業秘密を正しく把握し、それを転職先で開示・使用しないことを心掛ける一方で、自身が取得している情報等のうち、何が前職企業の営業秘密でないかも正しく認識する必要があります。

また、転職先企業は、転職者の前職企業の営業秘密を開示・使用しないことに注意を払い、間違っても前職企業の営業秘密の開示・使用を求めてはいけません。もし、転職者が転職先企業からそのようなことを求められたら、それが犯罪であることを転職先企業に説明し、絶対に開示等してはいけません。万が一、転職先企業の求めに応じて転職者が、前職企業の営業秘密を開示等すると、逮捕される可能性もあるかもしれないからです。

以上のように、一昔前と現在とでは、営業秘密に対する考え方、法整備が異なっています。
このことを転職者と企業は正しく認識すべきであると思います。それが結果的に、転職者自身や転職先企業自身を営業秘密に関するトラブルから守ることになります。