<営業秘密関連ニュース>

2023年12月7日
・患者の個人情報持ち出し 相沢病院の元職員に有罪判決「病院の信用を損なわせる悪質な行為」(日テレNEWS)
・松本 患者情報を不正に持ち出した罪 病院の元職員に有罪判決(NHK)
・患者の個人情報持ち出し…転職先に勧誘、紹介料得る 相澤病院元職員に執行猶予付き有罪(FNNプライムオンライン)
・相沢病院の患者情報漏えい事件、元職員被告に有罪判決 長野地裁松本支部(信濃毎日新聞デジタル)
・相澤病院からデータ持ち出した元職員に有罪判決(長野朝日放送)
2023年12月6日
・ホンダ、従業員逮捕は事実-アルプスA元社員かは明らかにせず (Bloomberg)
・逮捕の中国籍男はホンダ社員 自動車データ持ち出し容疑 (産経新聞)
・逮捕の男はホンダ社員、警視庁 自動車データ持ち出し容疑 (47NEWS)
2023年12月5日
・退職した元従業員の逮捕について(アルプスアルパイン株式会社)
・営業秘密持ち出し疑い、元社員逮捕 大手アルプスアルパインから(毎日新聞)
・営業秘密の設計データ持ち出し容疑 元社員の中国籍男逮捕―自動車関連先端技術・警視庁(JIJI.COM)
・電子部品大手からデータ持ち出し 営業秘密領得の疑いで男逮捕(47NEWS)
・中国籍の男、営業秘密の設計データ持ち出し 警視庁公安部が容疑で逮捕(産経新聞)
・アルプスアルパイン元社員を逮捕 データ不正持ち出し容疑で公安部(朝日新聞)
・営業秘密持ち出し疑い、ホンダへ転職 中国籍の男を逮捕(日本経済新聞)
・アルプスAの元従業員、不正競争防止法違反の容疑で逮捕(Bloomberg)
・営業秘密の設計データ持ち出した疑い、中国籍の男を逮捕…転職先の大手自動車メーカーで利用か(読売新聞)

2019年12月20日金曜日

工場見学と営業秘密における非公知性喪失について

取引会社の社員や消費者を対象に工場見学を行う企業もあるかと思います。
工場内で営業秘密に係る技術を実施していた場合に工場見学が行われると、当該技術の非公知性は失われるのでしょうか?

このような場合の参考になる裁判例が、フッ素樹脂ライニング事件 (大阪地裁平成10年12月22日判決 平成五年(ワ)第八三一四号)です。

この事件は、フッ素樹脂シートライニングを行うためのホットガンのノズルの形状が営業秘密(本件ノウハウ)であると原告が主張しているものです。被告は原告の元従業員等であり、原告企業を貸借後に同業他社である被告企業を設立したり、当該被告企業に就職しています。

そして、被告らは、原告においてはノズルを作業員各自が管理し、作業が終了していても特に定められた保管場所に収納していたわけではなく、しかも、当該ノズルを使用して原告工場内あるいは納品先で作業をする際、工場見学者や納品先社員が作業を見学し、ノズルを間近に見たりすることもできたと主張し、本件ノウハウの非公知性を否定しています。

しかしながら、裁判所は以下のように判断して、本件ノウハウの非公知性を認めています。
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原告はノズルの保管ロッカーを定めていたし、溶接作業を原告工場の見学者や納品先の社員に見せていたとしても、ノズル自体さほど大きいものではないのであるから、これら部外者においては、市販品を加工していること自体は理解できても、具体的にどの部分にどのような加工をしたかを知ることは困難であったと推認される。
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要するに、工場見学が行われたとしても、見学者が具体的に知ることができないノウハウ(情報)は非公知性は保たれていると判断されるかと思います。

一方で、生春巻き製造機事件(知財高裁平成30年11月2日判決平成30年(ネ)第1317号 大阪地裁平成30年4月24日判決平成29年(ワ)第1443号)のように、工場見学において製造方法を説明したり、写真撮影を許可した挙句に、見学者との間で秘密保持契約を結ばない場合には、当然、工場見学で積極的に公開したノウハウは非公知性を喪失することとなります。

フッ素樹脂ライニング事件で判示されているように、工場見学により必ずしも営業秘密でいうところの非公知性を失わないとしても、やはり、部外者に対して何を開示するかは慎重になるべきでしょう。
多くの企業が工場見学に対する対応は行っているかと思いますが、必要に応じて、見学者に見せない場所や工程を定めたり、秘密保持契約(誓約)にサインを求めたりすることは当然行うべきです。


ちなみに、特許法における新規性が喪失する場合には公然実施をされた発明が含まれます(特許法29条1項2号)。
ここで、公然実施について審査基準には下記のようにあります。

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「公然実施をされた発明」とは、その内容が公然知られる状況(注 1)又は公然知られるおそれのある状況 (注 2)で実施をされた発明を意味する(注 3)。
(注 1)「公然知られる状況」とは、例えば、工場であるものの製造状況を不特定の者に見学させた場合において、その製造状況を見れば当業者がその発明の内容を容易に知ることができるような状況をいう。
(注 2)「公然知られるおそれのある状況」とは、例えば、工場であるものの製造状況を不特定の者に見学させた場合において、その製造状況を見た場合に製造工程の一部については装置の外部を見てもその内容を知ることができないものであり、しかも、その部分を知らなければその発明全体を知ることはできない状況で、見学者がその装置の内部を見ること、又は内部について工場の人に説明してもらうことが可能な状況(工場で拒否しない)をいう。
 (注 3)その発明が実施をされたことにより公然知られた事実がある場合は、第29条第1項第1号の「公然知られた発明」に該当するから、同第2号の規定は発明が実施をされたことにより公然知られた事実が認められない場合でも、その実施が公然なされた場合を規定していると解される。
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この審査基準の記載を参照すると、工場見学において特許法の新規性が喪失する場合と、工場見学において営業秘密の非公知性が喪失する場合とでは、特許法の新規性喪失の方がより厳しい判断基準(上記(注2))となっているように思えます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信