本事件では被告人の弁護士は、はま寿司(F社)から転職してきた元社長がかっぱ寿司(被告会社)へ不正に持ち込んだ本件各データの有用性を否定するために以下のような主張を行っています。なお、元社長の裁判では、本件各データの秘密管理性、有用性、非公知性についての争いはなく、本件各データの営業秘密性が認められています。
①本件各データについて、いずれも、回転寿司業界においては、他社商品を参照する余地がない、仕入価格にも変動がある、F社において用いられる食材は連結親会社が仕入れており、その仕入価格が記載されていない。②原価等情報データについて、原価を検討するに当たり必要な情報が記載されていない。③仕入れ等情報データについて、仕入価格は規格等によって異なる、回転寿司業界において、仕入先は広く知られており、他社の仕入価格を基準に交渉することはできない。
すなわち、弁護士による主張は、本件各データはカッパ社の業務に用いることができないため有用性はない、とのような主張であると思われます。
上記の有用性に対する被告側の主張と同様の主張が被告側から行われることは稀にありますが、裁判所がこのような主張を認めた例はありません。本事件でも裁判所は以下のようにして被告側の主張を認めずに、本件各データは有用性があると判断しています。
しかしながら、有用性の要件については、当該情報が、営業秘密を保有する事業者の事業活動に使用・利用されているのであれば、基本的に営業秘密としての保護の必要性を肯定でき、当該情報が公序良俗に反するなど保護の相当性を欠くような場合でない限り充足され、当該情報を取得した者がそれを活用できるかどうかにより左右されない。このほか、被告会社の弁護人は、本件各データは被告会社にとっての有用性がないと主張するが、この主張は、その前提とする法解釈が採用できないものである上、被告会社内の一部の者において、実際に本件各データや、原価に関するF社との対照表が共有されたことと整合しない。被告会社の弁護人の主張は当を得ない。
本事件の特徴的なことは、被告会社内において本件各データを使用して作成されたデータが共有されています。仮に被告会社において本件各データを事業に用いることができないとするならば、本件各データの共有が行われるばずがありません。このため、本件各データが被告企業において共有してという事実が本件各データの有用性を被告会社自ら認めていることに違いないでしょう。
また、本事件では、元社長の有罪が既に確定しているので、ここで本件各データを営業秘密ではないとする判決はあり得ないようにも思えます。とはいえ、営業秘密を不正に持ち出した元社長と営業秘密が不正に持ち込まれた被告企業とのように立場が違っていても、裁判所における有用性の判断にブレがないことを確認できたという点では、弁護士の主張は意義のあるものとも思えます。
なお、弁護士は、本件各データに対する秘密管理性についても否定する主張を行っていますが、これも裁判所は認めていません。本件各データの非公知性については、さすがにこれを否定する主張はされませんでした。
弁理士による営業秘密関連情報の発信