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2018年2月1日木曜日

不正アクセスって多いんですね。

企業等に対する不正アクセスによる顧客情報、個人情報の流出が普通のニュースになっている今日この頃です。

近年の大きな事件では、ベネッセの個人情報流出事件。
これは、不正競争防止法21条1項3号ロ、4号の刑事罰が適用され、東京高裁で懲役2年6カ月、罰金300万円が確定しています。
あれほど、大きな事件でしたが、その後、犯人に対する罰則がどの程度であったのかは、皆さんあまり知らないようです。
まあ、事件発生が2014年7月、刑が確定したのが2017年3月ですから、多くの人の関心も薄れるでしょう。

先日は、580億円分もの仮想通貨が不正アクセスにより流出した事件が起き話題になっています。
その他にも、不正アクセス等のキーワードでニュースをチェックすると、大小様々な不正アクセスや個人情報の流出に関する事件が起きていることに驚かされます。
感覚的には、国内だけでも毎週のように何かしらの不正アクセスに関するニュースがあります。水面下では、この何倍もの不正アクセスが各企業で頻発してるんでしょうね。

ちなみに、外部からの不正アクセスによって営業秘密を不正取得すると、不競法第2条第1項第4号違反になりますし、刑事罰でも罰せられる可能性が高いかと思います。


ところで、不正アクセスがこれだけ多いと、不正アクセスを防止するためのセキュリティサービスも多くあるようです。
「不正アクセス」でニュースをチェックすると、セキュリィティサービスに関するニュースも多数ヒットします。
不正アクセス対策は、多くの企業で行う必要があることなので、当然市場も大きいでしょう。

ここで、不正アクセス対策のニュースを見ていると、新しい対策のアイデアを各企業が公開し、そのアイデアを製品に導入して販売しています。
不正アクセス対策の製品では、このアイデアであるアルゴリズムが肝であり、その優秀さをアピールする必要があるかと思います。

不正アクセス対策の製品は導入されているアルゴリズムを公知にしないと、実質的に製品のアピールにならず、製品を販売できないのではないかと思います。
そう、このようなアルゴリズムは、おそらくブラックボックス=非公知とすることができないかと思います。

おっ、営業秘密っぽい話になってきましたよ。
もう、不正アクセスの話はほとんど関係ありません。

上述のように不正アクセス対策の様な事業は、営業活動のためにアルゴリズムをある程度公開しないといけないかと思います。そうであるならば、このアルゴリズムを秘密管理したとしても、非公知性を失っているので営業秘密とはならない可能性が高いと思います(公開の程度にもよると思いますが)。

もし、営業活動で公開するアルゴリズムを知的財産として守りたいのであれば、特許権の取得を検討するべきかと思います。営業活動を開始する前に、アルゴリズムを特許出願するのです。
営業活動でアルゴリズムを自ら公開するので、特許公報で公開されても実害はないかと思います(公開の程度にもよると思いますが)。
可能ならば、営業活動を行う前に特許権を取得し、優れた技術をアピールすることも良いでしょう。

一方、営業活動のためにアルゴリズムを公開したとしても、プログラム(ソースコード)までは公開しないかと思います。
また、ソースコードそのもので特許権を取得してもその権利範囲は非常に狭いものとなる可能性が高いため、ソースコードを特許出願をしても他社に当該ソースコードを開示するデメリットの方が大きくなるので、一般的にソースコードで特許出願することは適切ではないかと思います。
そうであるならば、ソースコードを秘密管理することは必要な措置かと思います。

すなわち、営業活動のためにアルゴリズムを公開するような事業において、アルゴリズムは営業秘密とせずに特許権の取得を目指し、ソースコードは営業活動で公開することもせずに営業秘密として管理するという方策が考えられます。

このように、事業活動に応じて特許出願するのか、営業秘密として管理するのかが決定されるかと思います。例えば、アルゴリズムを営業活動等で公開する必要が無い場合には、特許出願せずに営業秘密として管理してもいいでしょう。
このような判断は、特に企業の知財部で行われるのでしょう。

そう、知財部の方は技術情報に対して特許出願ありき、又は営業秘密管理ありきではなく、どのような管理が適切であるかを十分に検討する必要があります。
すでに上記のような判断は、漠然とかもしれませんが、どこの知財部でも行われているかと思います。しかしながら、営業秘密管理しようとしても有用性・非公知性の観点から、営業秘密管理がそぐわない技術情報もあります。
無意味となりかねない営業秘密管理を行わないためにも、特に企業の知財部の方々は営業秘密についての理解を深める必要があるかと思います。

2018年1月25日木曜日

INPITの支援事例を参考に考える営業秘密ビジネスモデル

先日、INPITの知的財産相談・支援ポータルサイトの営業秘密・知財戦略において、支援事例が紹介されました。
HP:営業秘密・知財戦略 支援事例のご紹介

上記紹介では、10社ほどの支援事例の内容が簡単に紹介されています。
詳細については上記HPをご覧いただきたいのですが、大まかにまとめると支援の流れは以下のようなものでしょうか。

1.営業秘密の概要を説明するセミナー
2.企業内の経営層(担当者)と意見交換
3.問題点の洗い出し
4.営業秘密管理ルールの策定
5.実行

本支援事例は、INPITの知的財産相談・支援ポータルサイトへ相談を寄こした企業に対するものですから支援、すなわち営業秘密に関するコンサルティングを行うことまでが決定済みの案件かと思います。

しかしながら、ビジネスとなると「1.営業秘密の概要を説明するセミナー」を行ったとしても、その後に至るかどうかは分かりません。

となると、「1.営業秘密の概要を説明するセミナー」でどのような内容を話すべきかが重要かと思います。それでは、「1.営業秘密の概要を説明するセミナー」として何を話すのか? それは、依頼者の担当部署によって変わるかと思います。

例えば、弁理士のいるような知財部の方が依頼者であれば、より専門的な話、特許との違いの再確認や判例を交えたような説明をする方が良いかもしれません。また、営業秘密についてほとんど知識がないものの漠然とした危機感をお持ちの方、例えば経営層や経営層に近い方に対しては、より基礎的な説明を行うべきでしょうか。 さらに、営業部門の方からの依頼もあるかもしれません。そのような場合には、営業活動における意図しない営業秘密の漏えいや取引企業を介して知ってしまった他社の営業秘密への対応等を交えて説明をすることが喜ばれるかもしれません。


次の「2.企業内の経営層(担当者)と意見交換」、「3.問題点の洗い出し」については、並行して行われる作業かもしれません。

その企業にとって、どのような情報を営業秘密として管理するべきなのか?、既にある程度の営業秘密管理がなされている場合には不十分な点は何か?等を聞き出すかと思います。当然、意見交換の際には問題点の洗い出しを意識する必要があるかと思います。
このとき、聞き漏らしがないように予めチェックシートを用いると良いのではないでしょうか?支援事例では、具体的にどのような作業を行っていたのかが気になります。

また、「1.営業秘密の概要を説明するセミナー」、「2.企業内の経営層(担当者)と意見交換」、「3.問題点の洗い出し」は同日に行うことが好ましいかもしれません。
別の日に行うのであれば、「1.営業秘密の概要を説明するセミナー」を行うときに、「2.企業内の経営層(担当者)と意見交換」や「3.問題点の洗い出し」も行うことを前提とすることが好ましいでしょう、可能ならばですが。
企業によっては、取り敢えず営業秘密に関する知見を得たいという目的で「1.営業秘密の概要を説明するセミナー」だけを依頼する場合もあるかと思います。
もしそのようなご依頼だけでも、私としてはうれしいのですが、営業秘密に関するビジネスとしてはその後につながるほうがより好ましいですよね。

次の「4.営業秘密管理ルールの策定」、これは理想論過ぎてもいけませんよね。
依頼者側が”うーん”と唸ってしまい、コンサル側はシドロモドロになってしまったら最悪です。
依頼企業において、できること・できないことを明確にするべきかと思います。人員や予算の関係、さらにはその業界や対顧客との関係等でできないこともあるでしょう。
できない理由は「2.企業内の経営層(担当者)と意見交換」や「3.問題点の洗い出し」で出てくるかと思います。

また、状況によってはルール策定に関して複数年計画を立てても良いかもしれません。
営業秘密管理ルールの策定は依頼企業によっては今までなかった概念を導入することになるかもしれませんし、営業秘密の概念の浸透に時間がかかるかもしれません。
そのような場合、色々なことを行う必要があるかと思われ、1年程度では実現できないかと思います。依頼企業の人員にも限りがありますし。
そうであるならば、1年目は必須の作業、例えば情報の秘密管理から行い、2年目以降に秘密管理規定の作成や修行規則の改定、管理システムの導入等を行うといった、複数年計画を立てる必要があるでしょう。

「5.実行」、これは依頼企業に行って頂くわけでしょうが、可能ならば外部監査のようにコンサル側が進捗状況等を確認しても良いかもしれません。当然、「4.営業秘密管理ルールの策定」は実行可能なものを策定しなければならず、絵に描いた餅とならないようにするべきでしょう。

また、「5.実行」には営業秘密管理について従業員に周知する作業が入っているかと思います。
私は何度か本ブログでも書いているように(当然とも考えられますが)、営業秘密の漏えい防止には従業員への教育が欠かせないと考えています。
いかに素晴らしい営業秘密管理のルールやシステムを作ったとしても、営業秘密に対するアクセス権限を有している人が漏洩させることがあれば意味はありません。
このため、アクセス権限を有していたとしても、その営業秘密は会社のものであることや、営業秘密の漏えいが執行猶予無しの実刑にもなり得る重罪であることを全従業員に認識してもらう必要があります。

さらに、上記支援事例において気になることは、秘密管理する情報に対するアドバイスです。
以前のブログでも述べているように、特に技術情報に関しては、裁判所において有用性や非公知性の要件を満たさないと判断される場合があります。すなわち、営業秘密とすることに適さない技術情報があります。

参考ブログ記事
営業秘密の3要件:有用性 -特許との関係-
営業秘密の非公知性と特許の新規性との違い

このような説明はなされているのでしょうか?
とは言っても、有用性や非公知性の判断は終局的には裁判でなされるものであるため、企業側が必要と思うのであればどのような情報でも営業秘密として管理するべきだと思います。
しかしながら、可能性としては説明するべきかと思いますし、そのような説明をすることで特許や意匠等の権利取得という選択も検討の俎上にあがるかと思います。

ここで私が重要と考えることは、入り口が営業秘密のコンサルティングだとしても、技術情報に関しては営業秘密とすることが前提ではなく特許等の権利取得も含め、その技術情報に適した管理手法の提案だと思います。
そして、弁理士だからこそ、営業秘密化と特許出願等を含めた情報管理の方策を立てることができるのではないかと考えます。

2018年1月15日月曜日

産業ソーシャルワーカーと営業秘密

先日、知人の誘いで産業ソーシャルワーカー協会の公開講座に行きました。
はじめは、弁理士という仕事とは関係なさそうだけど、何かの知見が得られるかもしれないという程度の気持ちでした。

しかし、営業秘密と絡めると、産業ソーシャルワーカーは営業秘密(企業秘密)の漏えい防止の一助になるかもしれないと思いました。

私は産業ソーシャルワーカーの仕事を十分に理解しているわけではありませんが、産業ソーシャルワーカー協会ホームページの「産業ソーシャルワーカーとは」を参照すると以下のようなお仕事の様です。
「産業ソーシャルワーカーとは、働く個人が抱える問題に向き合い、さまざまな関係者と連携しながら、解決のための行動の第1歩を踏み出すまで伴走する相談の専門家です。働く人々のワークライフに貢献し、企業の生産性向上にも寄与するもので、企業に所属するか、もしくは契約を結ぶ形で、個人の相談にあたります。」

そして、上記ホームページには「働く個人に対する価値」の一つとして「・ワークライフに関わる様々な問題を解決しストレスを軽減させる」が挙げられ、「企業に対する価値」の一つとして「・事件や事故の予防」が挙げられています。

ここで、「組織における内部不正防止ガイドライン」を参照すると、企業秘密の漏洩は主に内部不正によるものです。
そして本ガイドラインには、「内部不正防止の基本原則」として以下のことが記載されています。
・犯行を難しくする(やりにくくする): 対策を強化することで犯罪行為を難しくする
・捕まるリスクを高める(やると見つかる): 管理や監視を強化することで捕まるリスクを高める
・犯行の見返りを減らす(割に合わない): 標的を隠したり、排除したり、利益を得にくくすることで犯行を防ぐ
・犯行の誘因を減らす(その気にさせない): 犯罪を行う気持ちにさせないことで犯行を抑止する
・犯罪の弁明をさせない(言い訳させない): 犯行者による自らの行為の正当化理由を排除する

そして、上記「・犯行の要因を減らす」ことの対策として「欲求不満やストレスを減らす 公正な人事評価、適正な労働環境、円滑なコミュニケーショ ンの推進 」というものがあります。また、営業秘密を漏えいさせる理由として、他者からの要求や売却目的もあります。このため、犯行の要因となり得るものは、個人的な悩み、特に人間関係や、金銭問題も含まれるのではないでしょうか?

であるならば、産業ソーシャルワーカーの働きによって、企業秘密の漏洩という事件を減らすことに繋がるのではないのでしょうか?


ここで、営業秘密の漏えいに関して信用銀行顧客情報流出事件があります。この事件は、ほとんど知られた事件ではないと思いますが、この事件は、刑事事件にもなっており、一審(名古屋地裁平成28年7月19日)で懲役1年6月及び罰金150万円とされた事件です。一審で執行猶予が付いていないことに驚きですが、二審(名古屋高裁平成28年12月12日)では懲役2年及び罰金150万円、執行猶予4年となっています。
この事件は、一審の判決文を参照すると、被告人であるパート従業員Cが「情交関係にあったGの心を繋ぎ止めたい、あるいは将来への金銭上の漠然とした不安から報酬も得たいと考え、Gの求めに応じ、2回にわたり、D信用金庫の営業秘密となる顧客情報を領得してGに開示したものである。」というものです。そして、どうもこのパート従業員Cには子供が居たようです。

思うに、ここでD信用金庫に産業ソーシャルワーカーが居て、パート従業員Cが犯行の前にこの産業ソーシャルワーカーにプライベートな相談もしていたらどうだったでしょう?私が参加した公開講座での説明では、産業ソーシャルワーカーは、社内における従業員の相談だけでなく、金銭問題や家族のこと等プライベートな問題を相談できる人が居ない従業員の相談に乗り、解決策を一緒に考えるとのことでした。

そして、パート従業員CがGから顧客情報の持ち出しを要求されているとの相談を産業ソーシャルワーカーにできていたら?さらに、産業ソーシャルワーカーが「顧客情報等の企業秘密の漏えいは不正競争防止法によって犯罪であることが明確に規定されているので、そのようなことを行ってはいけない」とのアドバイスができていたら?
もし、パート従業員Cが、顧客情報の持ち出しが漠然と悪い事だと思っていても、そのようなこと会社に他の従業員に相談できるわけがありません。しかしながら、守秘義務を有している産業ソーシャルワーカーが居たならば、相談できたかもしれません。

また、ベネッセ顧客情報流出事件でも、東京地裁平成28年3月29日判決文を参照すると「被告人は,妻の出産に関する高額の医療費等の支払に窮し,その支払に充てる金を工面するために本件各犯行に及んだ旨述べる。」とあります。この被告人(犯人)の供述が事実であり、もし、産業ソーシャルワーカが犯人の悩みの相談を受けていれば、もしかしたら、このような重大な犯罪を未然に防止できていたかもしれません。
ちなみに、ベネッセはこの事件の被害者でありながら、個人情報を流出させた企業でもあるため、本犯行の対策費として200億円もの金額を計上しています。また、犯人は、執行猶予無しの懲役2年6か月及び罰金300万円の刑となっています。

また、佐賀銀行営業秘密流出事件でも、福岡地裁平成29年10月16日判決文を参照すると被告人は,多額の借金をしていた共犯者Cから脅されるなどしてやむを得ず犯行に関与した」とあります。この事件も犯人のプライベートな金銭問題から端を発し、他者からの要求により、営業秘密を漏えいさせて自身が犯罪者となってしまったようです。

個人的な問題、特に金銭的な問題や家族の問題は社内の人間に相談し難い事、できない事です。しかも、信用金庫顧客情報流出事件や佐賀銀行営業秘密流出事件では、他者からの要求により顧客情報を漏えいさせています。このようなことは、会社の人間、同僚や上司等には絶対に相談できるものではありません。誰に相談していいかもわかりません。そして、誰にも相談できないまま、相手の要求に応じるまま営業秘密を漏えいさせた結果、犯罪者になってしまったのかもしれません。

さらに思うに、営業秘密を漏えいさせた人たちは、犯罪性志向の高い人ではなく、我々と同じような普通の人だと思います。いや、営業秘密を流出させる人は会社に普通に勤めている普通の人達がほとんどだと思います。
そして、このような人たちの相談に乗れる立場となれる人々は産業ソーシャルワーカーではないかと思いました。

このように、産業ソーシャルワーカーが営業秘密に関する知識を少し持っているだけで、もしかすると、企業秘密の漏えいという重大な事態を未然に防ぐことができるかもしれないと考えます。

また、産業ソーシャルワーカーが必要とする営業秘密に関する知識も必要最小限で良いと思います。企業秘密を漏えいさせると、不正競争防止法の適用を受け、懲役10年以下、罰金2000万円の刑事罰を受ける可能性があり、実際に実刑を受けている人もいること、例えば、ベネッセ事件がその典型である事、この程度の知識で十分かと思います。

さらに、匿名での相談も受け付ける活動もされているとのお話でした。そうであるならば、顧客情報の持ち出しを要求されている、とのような相談も産業ソーシャルワーカに行い易い環境が作れるのではないでしょうか?

そして、このようなに産業ソーシャルワーカーが企業秘密の漏えい防止に対策になり得ることは、産業ソーシャルワーカーを導入する企業にとってもメリットの大きい事ではないかと思います。
さらに、もし、そのような相談が産業ソーシャルワーカーが受け付けた場合、守秘義務を超えない範囲で、その事実を企業にフィードバックすることで、企業は企業秘密の漏えいが起きた可能性を知り得、企業秘密の漏えい対策に役立てることができるかもしれません。

営業秘密(企業秘密)は漏えいすると、その事実を消すことはできません。たとえ犯人を捕まえたとしても、漏洩した営業秘密が点々流通する可能性もあります。
このため、当たり前ですが営業秘密は漏えいさせないことが一番です。そのための対策として、産業ソーシャルワーカーも一翼を担えるのではないかと感じましたし、営業秘密漏えいの防止という観点からも産業ソーシャルワーカーの活動に期待したいです。

2017年12月25日月曜日

営業秘密と秘密保持契約(秘密保持義務)その2

前回のブログでは、原告が被告に攪拌造粒機の主要部分の製造を委託し、その図面等に関して秘密保持契約を原告と被告との間で締結していたものの、裁判所は、攪拌造粒機がリバースエンジニアリング可能であることを理由に図面は非公知性を満たさずに営業秘密性を否定し、さらに、秘密保持契約の内容からして「秘密保持義務の対象」=「不正競争防止法における営業秘密の定義と同様」とも判断し、当該図面は秘密保持義務の対象でもないと判断したことを紹介しました。

ここで、本事件における秘密保持の条項(下記第35条)は、表現に微差があるものの、秘密保持義務の対象から除外する情報を定めた項目も含めて一般的なものと思われます。

---------------------------------------------------------------------------------
「第35条(秘密保持)
1)乙は,この基本契約ならびに個別契約の遂行上知り得た甲の技術上および業務上の秘密(以下,機密事項という。)を第三者に開示し,または漏洩してはならない。但し,次の各号のいずれかに該当するものは,この限りではない。
〔1〕乙が甲から開示を受けた際,既に乙が自ら所有していたもの。
〔2〕乙が甲から開示を受けた際,既に公知公用であったもの
〔3〕乙が甲から開示を受けた後に,甲乙それぞれの責によらないで公知または公用になったもの。
〔4〕乙が正当な権限を有する第三者から秘密保持の義務を伴わず入手したもの。
乙は,機密事項を甲より見積作成・委託・注文を受けた本業務遂行の目的のみに使用し,これ以外の目的には一切使用しない
(略)
乙は機密事項‥(略)‥を厳に秘密に保持し,本業務の遂行中はもとより,その完成後も甲の文章による承諾を得た者以外には,一切これを提供あるいは開示しない。
---------------------------------------------------------------------------------

そうすると、本事件のように、秘密保持契約を締結しても、実質的に意味をなさない契約も多数存在する可能性があるのではないでしょうか?
そうであるならば、上記のような一般的と思われる秘密保持の条項は見直す必要があるかと思います。しかしながら、一般的とされている条項そのものを修正するには抵抗を感じるとも思われます。


そこで、秘密保持契約に対して例外の例外を設けることが考えられます。すなわち、「秘密保持義務の対象から除外する情報」の例外です。
具体的には、本事件では、販売された攪拌粒製造機がリバースエンジニアリング可能であることをもって非公知性が失われているとされているため、秘密保持契約では例外の例外として、製品を特定して(本事件の例では攪拌流製造機)「製造販売した製品をリバースエンジニアリングすることで得られる情報は公知公用の情報とはみなさない。」とのような項目を設けることが考えられます。
また、秘密保持義務の対象を具体的に特定し(本事件の例では図面)、かつそれに対して、「製造販売した製品がリバースエンジニアリングされたとしても、図面に記載の情報が公知公用の情報となったとはみなさない」することも考えられます。


このように、本事件から学べることは、リバースエンジニアリングによって当該情報の営業秘密性どころか、秘密保持契約すら有効でないと裁判所が判断する可能性があるということです。
他社と秘密保持契約を締結する企業は、秘密保持契約に関係する製品等が公知となる可能性を十分に考慮し、秘密保持契約を結ぶ必要があるかと思います。
すくなくとも、「秘密保持義務の対象」=「不正競争防止法における営業秘密の定義と同様」と判断されるような秘密保持契約は結ばないことを心掛け、「秘密保持義務の対象」>「不正競争防止法における営業秘密の定義と同様」と判断可能な秘密保持契約にする必要があります。

一方で、本事件のように自社の秘密情報を製造委託先に開示する必要がある場合、そもそも、自社製品の製造委託先を一社にせずに、例えば、部品毎に分けて複数社で製造させ、一つの外注先に自社製品の情報が集中しないようにする必要があるかと思います。

原告も、例えば、攪拌造粒機の容器、蓋、メインブレード、クロススクリュー及びそれらの周辺装置を複数社に分けて製造委託しておけば、今回のような事態には陥らなかったと思います。また、部品は製造委託するものの、最終組み立ては自社で行う等してもよかったのではないでしょうか。

自社製品の情報を守るために、また、本事件のように製造委託先がその後競合他社とならないように、このような措置を取っている企業は多いかと思います。
製造委託先を一社にする場合に比べて、管理コスト等は増加するかと思いますが、より確実に自社情報を守るためには必要な措置かと思いまます。


以上の様に、企業は自社の秘密情報を他者に開示する場合は、その秘密情報が当該他社に意図しない形で使用されないように、また、使用された場合にその使用に対する責任を問えるように十分な対策を立てる必要があるかと思います。
そういった意味で、本事件は非常に参考になるのではないでしょうか。

2017年12月21日木曜日

営業秘密と秘密保持契約(秘密保持義務)その1

自社の営業秘密を他社に開示する場合、当然、秘密保持契約を結ぶことになるかと思います。
ここで、自社が営業秘密であると考える情報をどこまで秘密保持契約で守ることができるのでしょうか?さらに、秘密保持契約を結んだとしても、当該他社の経済活動をどこまで制限できるのでしょうか?
すなわち、秘密保持契約はどこまで有効なのでしょうか?最近よく分からなくなります。
ちなみに、私は秘密保持契約に関する業務の経験はないので、教科書的な知識しか持ち合わせておりません。実務経験に乏しいため分からないのかもしれませんが・・・。

関連するブログ記事:営業秘密と共に秘密保持義務も認められなかった事例

今回は、上記ブログ記事でも紹介した判例(攪拌造粒機事件:大阪地裁平成24年12月6日判決)をもとに秘密保持契約(秘密保持義務)について考えてみました。

この事件は、以下のような経緯がある事件です。なお、下線は私が付したものです。

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原告は、昭和54年ころから、被告に対し、原告が開発し、現在も製造、販売を続けている攪拌造粒機の主要部分(容器、蓋、メインブレード、クロススクリュー及びそれらの周辺装置)の製作を委託し、このような原告製品の製作委託関係は長らく続き、平成16年7月1日以降は本件基本契約下で継続していたが、平成21年8月31日をもって原告と被告との取引関係は終了した。
被告は、原告製品の製作を委託されていた期間中、原告が作成した原告製品に係る設計図面(以下「原告製品図面」という。)の開示を受け、これに基づいて原告製品を製造していた。
その後、被告は、平成21年9月30日、フロイント産業株式会社(以下「フロイント」という。)から、攪拌造粒機の製造委託を受けた。被告は、この製造委託のもと、別紙物件目録1記載の攪拌造粒機(以下「被告製品」という。)のうち、GM-MULTI(10/25/50)及びGM-10の試作品を製作してフロイントに納品し、フロイントは、平成22年6月30日から同年7月2日まで東京ビックサイトで開催された展示会において、上記試作品を出展した。
被告は、その後、フロイントからの委託を受けて被告製品を製造することとなったが、答弁書作成時(平成23年5月10日)までの間、フロイントは、平成23年4月に被告から納入を受けたGM-25を1台販売したのみである。
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要するに、原告は被告に攪拌造粒機の主要部分の製造を委託していたが、原告と被告との取引関係が終了した後、被告は独自に攪拌造粒機の製造・販売を開始し、原告にとって競合他社になったようです。
このことは原告にとってみたら、被告に攪拌造粒機の製造を長年委託し、その製造ノウハウを被告が得た後に被告が競合他社になったのですから、釈然としない思いはあるでしょう。気持ちはわかりますし、このような事例は多々あることかと思います。

なお、上記「本件基本契約」には、以下のような秘密保持の条項があります。
---------------------------------------------------------------------------------
「第35条(秘密保持)
1)乙は,この基本契約ならびに個別契約の遂行上知り得た甲の技術上および業務上の秘密(以下,機密事項という。)を第三者に開示し,または漏洩してはならない。但し,次の各号のいずれかに該当するものは,この限りではない。
〔1〕乙が甲から開示を受けた際,既に乙が自ら所有していたもの。
〔2〕乙が甲から開示を受けた際,既に公知公用であったもの
〔3〕乙が甲から開示を受けた後に,甲乙それぞれの責によらないで公知または公用になったもの。
〔4〕乙が正当な権限を有する第三者から秘密保持の義務を伴わず入手したもの。
乙は,機密事項を甲より見積作成・委託・注文を受けた本業務遂行の目的のみに使用し,これ以外の目的には一切使用しない
(略)
乙は機密事項‥(略)‥を厳に秘密に保持し,本業務の遂行中はもとより,その完成後も甲の文章による承諾を得た者以外には,一切これを提供あるいは開示しない。
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ちなみに、この事件は、不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為だけでなく、被告製品又はその構成部品を製造,販売することに対する特許権侵害、原告製品図面に係る複製権又は翻案権の侵害でも訴えていますが、その全てが認められていません。


本事件に対する裁判所による営業秘密性の判断ですが、裁判所は、まず、非公知性を判断しています。

すなわち、原告は、原告製品図面に記載された原告主張ノウハウが、営業秘密に該当する旨主張しました。
しかし、裁判所は、「原告主張ノウハウは、別紙ノウハウ一覧表記載のとおり、いずれも原告製品の形状・寸法・構造に関する事項で、原告製品の現物から実測可能なものばかりである。そして、このような形状・寸法・構造を備えた原告製品は、被告がフロイントから攪拌造粒機の製造委託を受けた平成21年9月30日よりも前から、顧客に特段の守秘義務を課すことなく、長期間にわたって販売されており,さらには中古市場でも流通している(乙3,乙5の1~3,乙7)。そのため,原告主張ノウハウは,被告がフロイントからの製造委託を受ける前から,いずれも公然と知られていたというべきであり、「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)には該当しないといえる。」 とし、非公知性を否定しています。
ちなみに、裁判所は「原告主張ノウハウは、いずれも原告製品の形状・寸法・構造に帰するものばかりであり、それらを知るために特別の技術等が必要とされるわけでもないのであるから、原告製品が守秘義務を課すことなく顧客に販売され、市場に流通したことをもって、公知になったと見るほかない。」とも言及しています。
このように、裁判所は、原告製品は所謂リバースエンジニアリンが可能であることを理由に、原告製品図面を営業秘密とは認めないことになりました。

では、秘密保持義務違反はどうでしょうか?

これについて、裁判所は以下のようにして秘密保持義務違反を否定しています。
本条における秘密保持義務の対象については、公知のものが明示で除外されている(本件基本契約35条1項〔2〕及び〔3〕)。そして、被告は、原告の「技術上および業務上の秘密」(本件基本契約35条1項本文)について秘密保持義務を負うと規定されているが,その文言に加え、被告の負う秘密保持義務が本件基本契約期間中のみならず、契約終了後5年間継続すること(本件基本契約47条2項)に照らせば、原告が秘密とするものを一律に対象とするものではなく、不正競争防止法における営業秘密の定義(同法2条6項)と同様、原告が秘密管理しており、かつ、生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な情報を意味するものと解するのが相当である。 このように本件基本契約上の秘密保持義務についても、非公知で有用性のある情報のみが対象といえるため、前記4で論じたことがそのまま当てはまるところ、被告に上記秘密保持義務違反は認められないというべきであり、原告の上記主張は採用できない。」と判断しています。
すなわち、裁判所は、本事件において「秘密保持義務の対象」=「不正競争防止法における営業秘密の定義と同様」と判断しているようです。


ここで、私が疑問に思うことは、秘密保持義務の対象は「非公知で有用性のある情報のみ」であるため、原告製品が守秘義務を課すことなく顧客に販売されていることを理由として、原告製品図面は秘密保持義務の対象ですらない、と裁判所が判断していることです。

すなわち、顧客に守秘義務を課すことなく流通させた製品の図面に記載されたノウハウは、営業秘密性がないどころか、秘密保持義務の対象にすらならない可能性があるということでしょうか?(本事件では営業秘密を図面であると主張せずに、図面に記載されたノウハウとしていることが少々気に掛かりますが・・・。)
また、その製品が中古市場で流通するようなものであるならば、たとえ顧客に守秘義務を課したとしてもやはり非公知性は失われることになるので、守秘義務にどこまで意味があるものか分かりません。守秘義務を課した顧客が製品を中古市場に売ったとして、顧客に対して守秘義務違反をどこまで追求できるでしょうか?

このように、上記事件から読み取れる私の解釈が正しければ、 リバースエンジニアリングが可能な機械部品のような製品の図面(図面に記載されたノウハウ)はそもそも秘密として守れない可能性が高いということでしょうか?なんだか釈然としません。

確かに、リバースエンジニアリングが可能であることを理由に営業秘密としての非公知性が否定された判決はこの事件の他にもありますが、秘密保持義務の対象にすらならないとする裁判所の判断は果たして正しいのでしょうか?

このような裁判所の判断が趨勢であるならば、製品の製造委託のために他社へ図面を開示する場合にその図面に対する秘密保持契約を結んだとしても、市場に流通している製品であるならば、その秘密保持契約は意味をなさず、当該他社はその図面を用いて自由に当該製品を自由に製造販売することができる可能性があるということでしょうか?


そもそも、裁判所による「原告が秘密とするものを一律に対象とするものではなく、不正競争防止法における営業秘密の定義(同法2条6項)と同様、原告が秘密管理しており、かつ、生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な情報を意味するものと解するのが相当である。」との判断、すなわち、「秘密保持義務の対象」=「不正競争防止法における営業秘密の定義と同様」との判断は妥当なものなのでしょうか?

一般的に、不正競争防止法で定義されている営業秘密は、法的な定義のない機密事項や企業秘密といったものに比べて狭い概念のものです。
この原告は、被告との間で秘密保持契約を結ぶにあたり、その対象が「不正競争防止法における営業秘密の定義と同様」のものという認識があったのでしょうか?おそらくそこまでの認識はなかったと思います。また、被告も同様ではないでしょうか?
そうであるならば、裁判所は、秘密保持義務の対象を「不正競争防止法における営業秘密の定義と同様」のものよりも広く解釈し、そのうえで、被告の行為が秘密保持義務違反であったか否かを判断しても良かったのではないかと思います。

とはいうものの、秘密保持の条項(上記「第35条」)を素直に解釈すると、「秘密保持義務の対象」=「不正競争防止法における営業秘密の定義と同様」との裁判所の判断も当然のこととも思われます。

では、どうすればいいのでしょうか?

2017年12月18日月曜日

佐賀銀行事件の刑事事件判決

佐賀銀行から営業秘密である顧客情報が元行員によって流出された事件がありました。

ブログ
佐賀銀行の営業秘密流出事件
過去の営業秘密流出事件 <佐川銀行営業秘密流出事件(2016年)>

ニュース
2017年10月16日 毎日新聞「佐賀銀侵入:共謀の元行員に懲役6年 福岡地裁判決」
2017年10月16日 産経WEST「佐賀銀行の元行員に懲役6年 支店の現金窃盗事件で共犯者に情報提供、福岡地裁判決」

この事件において営業秘密を流出させた元行員の刑事事件判決が10月16日に言い渡されました。
判決は懲役6年でした。
営業秘密の流出も関係する刑事事件としては、最も重い判決かと思います。

しかしながら、上記ブログ記事等をご覧いただければ分かるように、そもそもこの事件は、いわゆる営業秘密流出事件とは少々異なっており、窃盗団が絡んだ事件でした。
このため、量刑の理由が下記のように多岐に渡っており、懲役6年というのも、当然、営業秘密の流出だけのものではないと考えられえます。

(量刑の理由)
〔1〕同銀行の顧客名簿を第三者に不正に交付し(第1【不正競争防止法違反】)
〔2〕共犯者と共謀し,金庫破りの目的で勤務先の銀行の支店に侵入し(第2【建造物侵入】)
〔3〕顧客から預かった現金を横領し(第3【横領】)
〔4〕共犯者と共謀し,社員寮の同僚の部屋から別の支店の鍵等を盗み(第4【住居侵入,窃盗】)
〔5〕それらを利用して同支店に侵入して現金を盗んだ(第5【建造物侵入,窃盗】)


判決文では「量刑を検討する上で中心となる〔5〕の建造物侵入,窃盗は,もとより被害額が5430万円と相当に高額な重大事案である。」と述べられています。なお、営業秘密に関しては「〔1〕の不正競争防止法違反も,被害銀行で最も厳格に管理されていた顧客情報のうち,預金額が1億円以上の顧客らの情報を〔2〕と〔5〕の共犯者に流出させており,悪用の危険性は高かったといえる。現に預金を引上げた顧客もいる。」と述べられています。

ここで、佐賀銀行事件における営業秘密の流出は、営業秘密の売買を目的としたり、転職に伴い営業秘密を持ち出すといった経済犯罪的なものではなく、窃盗に使用する目的であり、その目的がより凶悪犯罪に近いものかと思います。
すなわち、営業秘密の流出は、要件を満たせば当たり前かと思いますが、このような凶悪犯罪にも適用されるような行為であるということでしょう。

一方で、逆のパターンもあるかもしれません。
例えば、前職企業で返還義務のある営業秘密とされる社内資料を借りていたにもかかわらず、転職の際にそれを返還することなく、転職先企業に持ち込むんだような場合、窃盗罪でも刑事告訴される可能性もあるのではないでしょうか?

今回の事件から学べることは、このような事件でも不競法が適用されたことによって、営業秘密の流出が増々犯罪行為として認識され易くなるということかもしれません。
例えば、社内セミナー等において、営業秘密の流出が窃盗団のような犯罪にも要件を満たせば適用されるような行為であることを説明することで、従業員の方に営業秘密を流出させることが犯罪であることをより強く認識してもらえるかもしれません。

2017年12月15日金曜日

営業秘密保護や先使用権証明のための文書管理システムとは?

しばらく前に、ある企業の文書管理システムのセミナーに行きました。
営業秘密保護や先使用権証明に関する技術の知見を得ることがセミナー参加の主たる目的です。

営業秘密保護や先使用権証明のためには、書類の電子化やサーバ管理といった技術的な要素も重要になるかと思います。
いかにして書類を効率良く管理し、かつ企業秘密(営業秘密)を守るか?

参加させて頂いたセミナーは、セミナー主催企業の製品紹介ですが、文章電子化システムの技術動向を知らない私にとってはかなり参考になりました。
そして、その製品を実際に操作させて頂いたのですが、直感的に使い易いなという印象。
良くできている文書管理システムだと思いました。

で、肝心の営業秘密保護や先使用権証明のための技術としてどのようなものがあるのか?ということですが。

先使用権証明のために利用できる機能として(セミナーではそのような直接的な説明はありませんでしたが。)、やはりタイムスタンプ機能ですね。オプションでしたが。
文書データにタイムスタンプを押す設定をしているフォルダにデータを入れると、ユーザが意識することなく自動でタイムスタンプを押してくれるようです。

また、読み取った文書データから自動で日付を読み取り、日付毎のフォルダに自動で割り振ってくれる機能もあります。
この機能は、先使用権証明というよりも文書管理機能としての側面が強いものですが、先使用権証明のためには、他社の特許出願の日が基準となりますから、先使用権を主張しなければならない事態に陥った場合に、必要な書類を効率良く見つけ出すためには重要な機能かもしれません。
しかし、当たり前ですが、書類に日付が入っていることが前提ですね。
書類に日付が入っているのであれば、先使用権証明のためのタイムスタンプは大きな意味を持たないような気もします。

一方で、先使用権証明のためならば、日付毎ではなく技術毎に必要書類を管理する方が良いのでしょうか?しかしながら、侵害を疑われる技術を想定することは略不可能ですよね。先使用権証明のために書類をまとめ確定日付を付与したとしても、その書類を使うことは無く、実質的に無駄な作業になるという意見も聞きます。


次は、企業秘密(営業秘密)の保護に関する機能として良いと思った機能です。

一つは、アクセス権限のないフォルダやデータを画面上に表示させない機能。
私が知らなかっただけで、この機能は一般的なのでしょうか。
すごく単純な管理システムでしたら、単にフォルダ等にアクセス制限をするだけですが、それではフォルダ名等からその内容が推察される可能性があります。
勘のいい人ならば、そのフォルダにどのような情報が入っているのか分かるでしょうし、アクセス制限がされていることによってそれが重要な情報であることも分かってしまいます。
アクセス権限がない人には、“当該情報の存在すら知られない”ことは重要かと思います。

また、一つのデータの内容の一部にアクセス制限をかけることができる機能もありました。
具体的には、文書データの内容の一部にマスキングを行い、アクセス権限がない人には見れないようにする機能です。これは良い機能だと感じました。
一つのデータの中にも必要以上に閲覧させたくない情報が含まれる場合は多々あるかと思います。
この様な場合、閲覧させたくない情報にマスキングを行い、アクセス権限がある人のみがマスクしていないデータの閲覧が可能になります。

私が体験させて頂いたシステムは、アクセスログ管理がもう少し充実している方が好ましいと感じました。
何時どのユーザがどのフォルダやデータにアクセスしたのか、アクセスの頻度は通常と同じか、多量にデータをダウンロードしていないか、等が簡易に監視・報知する機能が充実しているといいですね。

ここで、このセミナーに参加して思ったこと、それは、「文書データ管理の機能も充実し、企業秘密保護の機能も充実しているシステムって無いのではないか?」ということ。
当たり前ですが、メーカーが得意とする分野に機能の充実度が偏るかと思います。
文章データ管理、企業秘密保護の両方が得意なメーカーってあるのでしょうか?

しかしながら、今後、書類のデジタルデータ化が一層促進され、それに伴い、企業秘密保護も重要度も増々高まると思います。
そうすると、文章データ管理機能、企業秘密保護機能の両方が充実したシステムも必然的に開発、販売されることになるかと思います。

今度は展示会等に行って様々な企業の文書管理システムに関する情報収集をしても面白いかもしれません。

2017年12月12日火曜日

特許権侵害と営業秘密の漏えいにおける個人の責任の違い

不正の目的で営業秘密を流出させ、その営業秘密を流出先企業が使用した場合、その営業秘密を流出させた個人も責任を問われる場合が多々あります。
これは、営業秘密が技術情報である場合、特許権侵害と比較するとかなり異なることです。

例えば、転職者が前職企業の営業秘密を持ち出し、転職先企業で開示し、転職先企業がこの営業秘密を使用した場合、この転職者は民事的責任及び刑事的責任を問われる可能性があります。民事的責任としては、転職先企業と共に営業秘密を流出させた個人が高額(数千万円から億単位)な損害賠償を請求される可能性もあります。また、これとは別に刑事告訴された場合、実刑となる可能性もあります。

一方、転職者が前職企業が権利者である特許権を転職先企業に教え、転職先企業がこの特許技術を使用しても、この転職者は民事的責任及び刑事的責任を問われる可能性はほぼないでしょう。
まれに、特許権侵害においても個人が被告となり損害賠償請求の対象とされる場合があるようですが、そのような場合は侵害行為を行った企業の代表取締役であったり、個人事業主である場合のようです。
そして、特許権侵害においては、刑事事件になることはまずありません。


特許権侵害が刑事事件とならない理由は、特許制度に無効審判があるためのようです。すなわち、特許権の侵害があっても、無効審判によって当該特許権が無効となった場合、その侵害行為=侵害事件そのものがなかったことになるので、警察が特許権の侵害を刑事事件として取り扱い難いということのようです。
一方、営業秘密に関しては、漏洩された情報が営業秘密の3要件を満たしている場合には、その事実がその後覆る可能性は低いと考えられ、そもそも営業秘密の領得等の行為が窃盗等に類する犯罪行為であるため、警察も刑事事件として取り扱い易いようです。

このように、例えば同じ技術を営業秘密とした場合と特許権とした場合とでは、その侵害が生じた際における個人の責任が全く異なります。

そもそも、特許権侵害は、当該特許権の内容を個人が他社に教えることはそもそも違法ではなく、特許権の侵害行為は個人だけで行う場合が少なく、企業として行う場合がほとんどです。一方、営業秘密の漏洩は、当該営業秘密を個人が他社に教えることも違法であり、秘密管理がなされているために、その漏洩を行った個人が特定されるからでしょう。営業秘密を漏えいさせた個人を特定できたのであれば、被害企業がその個人に法的責任を負わせることは当然のことと思われます。

以上のように、特許権侵害で個人、特に一会社員の責任が追及される可能性はほとんどないと考えられる一方、営業秘密の漏えいに関しては個人の責任が追及される可能性があります。
もし、営業秘密の漏えいの法的責任を特許権侵害と同じように考えている人がいたら、要注意です。

2017年12月8日金曜日

タイムスタンプの導入施策から考えるルール作り

近年、特許における先使用権や営業秘密に対する日付証明のためにタイムスタンプの導入が進められています。

技術情報を営業秘密とすることと、先使用権は関連していると考えられています。
技術を営業秘密とすると、当然、特許出願を行わないのですから、自社で営業秘密とした技術が他社によって特許権として取得される可能性があります。
そして営業秘密とした技術を自社実施した結果、この他社から特許権の侵害といわれる可能性があり、実際に侵害行為に該当するのであれば、その抗弁として先使用権の主張を行うことが考えられます。

ここで、過去のブログ記事「タイムスタンプを使う目的 」でも書いたように、個人的には、先使用権の日付証明のためにタイムスタンプを用いることは、その手間や管理コストを考えると費用対効果的にどうなのか?とも思っていたりもします。

上記のことは私個人の考えであり、必ずしも正しいとは思っていません。
今後、先使用権が争点になるような特許権侵害訴訟等において、タイムスタンプの有効性が認められたらこの考えを180°改めることになりますし、できるのであれば、タイムスタンプによる日付証明は行ったほうが良いでしょう。



とはいうものの、私はタイムスタンプの導入サービスを行っている企業のセミナーに何度か行っています。

そのセミナーで、「タイムスタンプを導入しようとした場合に実際にタイムスタンプを押す作業を行うことになる現場の方々からの反発は無いか?」という質問をしたことがあります。
その答えは、予想通り反発があるそうです。そして、その反発に対しては「説明」して納得してもらうこととのことでした。

そりゃ、毎回書類にタイムスタンプを押すことになる特に技術系の方は面倒ですよね。
作成した書類等をタイムスタンプを押すための所定のフォルダに入れるだけかもしれませんが、それを毎回行う、そして行ったか否かの確認も行う、会社によってはタイムスタンプを押した書類の報告も行う?
そもそもタイムスタンプを押すタイミングは何時?どの書類にタイムスタンプを押すの?タイムスタンプを押す場合に上長の許可が必要?報告が必要?
導入する方は良いかもしれませんが、実際に作業を行う方は大変。
新たなルールに則って新たな作業を進めなければなりません。
しかも、「先使用権」という聞き慣れない、意味も良く分からないことのために??

ここで、営業秘密についてある企業の方とお話しさせていただいたときに、営業秘密の視点での情報管理等についてその方が「新たなルール作りが必要だね」との趣旨をおっしゃいました。
このとき、私は「新たなルール」という意識はなかったんですね。

我々のような知財を仕事にしている者にとっては、営業秘密に関する施策やタイムスタンプに関する施策は「新たなルール」という意識は低いかもしれません。どちらかというと実施して当然のこととも思えます。
しかしながら、知財に詳しくない従業員の方にとっては、自分の業績として認められるようなことでもなく、事務仕事が増えるだけ。面白いことでもありません。
特に、知財に関しては中間部門であり、会社にとっても直接的には利益を生み出し難いものですしね。

タイムスタンプの導入や営業秘密に関する施策等、新たなルールを作る場合に、それを従業員の皆さんにあまり意識させずに実現する良い方法があればいいのですが・・・。

2017年12月4日月曜日

厚生労働省「派遣元事業者のための就業規則の作成の ポイント」から気づくこと

就業規則について調べていたら、下記のような
派遣元事業者のための就業規則の作成の ポイント - 厚生労働省
というものを見つけました。
これには、「守秘義務、機密情報保持」という項目があり、詳しく解説されています。

ここで、ベネッセの事件のように、派遣社員が営業秘密を漏えいさせたことがあります。
派遣先企業は、このようなことを防止するためにも派遣社員との間で守秘義務契約等を結ぼうとすることがあります。
しかしながら、上記資料の18ページに「機密情報保持契約は、基本的に、派遣先と派遣元事業者の間、及び派遣元事業者と 派遣労働者の間で取り交わされるものです。」とあるように、基本的に派遣先と派遣社員との間で交わされるものではないようです。

このため、この資料では、派遣元事業者の就業規則における守秘義務等の例として、以下のように記されています。

(守秘義務)
第○条 派遣スタッフは、業務上知り得た秘密を他に漏らしてはならない。また、雇用契約終了後についても同様とする。

(機密情報保持)
第○条 派遣スタッフは、会社及び派遣先事業者等に関する情報の管理に十分注意を払うとともに、自らの業務に関係のない情報を不当に取得してはならない。
2 派遣スタッフは、退職に際して、自らが管理していた会社及び派遣先事業者等に関 するデータ・情報書類等を速やかに返却しなければならない。

(守秘義務)
第○条 派遣スタッフは、業務上知り得た情報や、取引先、顧客その他の関係者、会社・ 派遣先の役員・従業員等の個人情報を正当な理由なく開示したり、利用目的を超えて取扱い、又は、漏洩してはならない。会社を退職した場合においても同様とする。
2 派遣スタッフは、会社の定めた規則を遵守しなければならない。
3 会社は、必要に応じて、会社の機密情報にかかる秘密保持に関する誓約書を提出させることがある。
4 会社の業務の範囲に属する事項について、著作・講演・執筆などを行う場合は、あ らかじめ会社の許可を受けなければならない。
5 会社の機密情報とは次のものをいう。
1)会社が業務上保有している顧客の個人情報(メールアドレス、氏名、住所、電話番号等)
2)会社の取引先に関する情報(取引先会社名、住所、担当者名、取引商品等)
3)会社の企画及び商品内容に関する情報(進行中の企画内容、システムの仕様等)
4)会社の財務及び人事に関する情報
5)会社との事業提携に関する情報(提携先会社名、住所、条件等)
6)子会社及び関連会社に関する上記各号の事項  
7)その他、会社が機密保持を必要として指定した情報


ここで、前回のブログ「モデル就業規則の見直し 副業容認と営業秘密 」でも紹介した厚生労働省:モデル就業規則には、機密情報(秘密情報、営業秘密)に関する規定として、「懲戒事由」に「 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。」と記載されているだけであり、この派遣元事業者のための就業規則の作成の ポイントほど詳しくは記載されていません。
この違いは、この2つの就業規則を作った担当者の違いもあるのでしょうが、派遣社員が派遣先の機密情報を取り扱う可能性を考え、より詳細に作り込まれていると考えられます。

しかしながら、会社の機密情報(営業秘密)を漏えいしてはいけないことは、派遣社員であろうと従業員であろうと同じです。
そのため、派遣元事業者のための就業規則の作成の ポイントにおける守秘義務、機密情報保持の項目は、派遣事業者でない企業の就業規則においても非常に参考になるものではないでしょうか?

また、「弊社には秘密にする情報はないですよ。」と考えている方も居るかと思います。
果たしてそうでしょうか?上記例示のように、秘密情報と考え得るべき情報は種々あるかと思います。

私は秘密情報が全くない企業は存在し得ないと考えます。就業規則を見直すことによって、自社の秘密情報が何であるかを考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。

2017年11月22日水曜日

営業秘密の不正取得と株価との関係

営業秘密の不正取得は当該企業に対する株価にも影響する可能性が有ります。

例えば、2017年の8月4日(金)にフューチャーから民事訴訟の提起を報道されたベイカレント(マザーズ)は、下記表1に示すように、週明けの7日(月)にはストップ安となるまで値を下げています。出来高も非常に多くなっていることを鑑みると、ベイカレントの株主の多くが敏感に反応したことを示していると思います。
ベイカレントとフューチャーとの民事訴訟の報道は、大手企業の営業秘密に関する報道に比べて扱いが小さかったと思いますが、株価は大きく反応しています。

参照:過去の営業秘密流出事件
参照:ヤフー「ベイカレント---一時ストップ安、フューチャーが損害賠償求め民事訴訟

表1

始値
高値
安値
終値
出来高
2017年8月8日
1,631
1,678
1,623
1,663
697,200
2017年8月7日
1,782
1,830
1,619
1,619
1,779,500
2017年8月4日
2,082
2,132
2,069
2,119
116,200
2017年8月3日
2,118
2,134
2,075
2,100
196,600

このように、民事訴訟の報道が株価に大きく影響していることが分かります。営業秘密の不正取得で訴訟を提起されることは、悪材料以外何者でもないでしょうから値を下げることは当然といえば当然です。
一方、フューチャーはこの訴訟提起によって株価は影響を受けていないようです。


また、日本ペイントの元執行役員が菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出し、菊水化学で開示・使用した事件に関して、下記表はこの事件が報道された前後における菊水化学(東証2部)の株価変動です。
表2は、菊水化学の役員(日本ペイントの元執行役員)が逮捕された報道(2016年2月16日)があった前後の株価です。
表3は 、日本ペイントが菊水化学に対して民事訴訟を提起したリリース(2017年7月14日)がなされた前後の株価です。

逮捕報道があった翌日は、株価は終値で前日の12余り下落しています。出来高も前日の75倍にもなっており大商いだっだと考えられます。
出来高に関しては、19日になっても16日の14倍以上のままですから、この逮捕報道に対して株価の反応が非常に大きかったように思えます。

また、民事訴訟のリリースがあったときは、逮捕報道ほどではないですが、市場は反応していると考えられます。株価の変動は3%減なので通常の変動幅内とも考えられますが、出来高が4倍近いことを鑑みると、民事訴訟のリリースに反応した株主も多かったように思えます。

参照:過去の営業秘密流出事件
表2

始値
高値
安値
終値
出来高
2016年2月19日
408
409
399
400
53,600
2016年2月18日
416420395401159,700
2016年2月17日
404419402405284,300
2016年2月16日
4584684424603,800
2016年2月15日
4554554304468,100

表3

始値
高値
安値
終値
出来高
2017年7月19日
43543943243521,500
2017年7月18日
44144443343542,300
2017年7月14日
44745044544712,100
2017年7月13日
44945144444913,200

このように、営業秘密を不正取得した企業の株価は、その報道等がされた翌日には株価が下落しています。
この下落は、短期的なものであり、しばらくすると持ち直しているようですが、株価的にも決して良いことではありません。
また、菊水化学のように逮捕報道の後に民事訴訟の報道がなされると、一つの事件で2度に渡り株価下落の要因となり得ます。

また、マザーズに上場しているベイカレントと東証2部に上場している菊水化学を比較すると、ストップ安にまでなったベイカレントのほうがより市場が敏感に反応しているとも考えられます。ベイカレントの事件のほうが報道の扱いが小さかったにもかかわらずです。

この理由は、新興市場に上場している企業のほうが企業規模も小さいため、当該企業の経営や業績に与える影響が大きいと判断した人が多かったと考えられるためではないでしょうか?
一方、企業規模が大きいと、営業秘密の不正取得による影響が相対的に小さいため、株価の下落幅が小さい買ったとも考えられます。
そうすると、新興市場に上場しているような企業規模の小さな企業ほど、営業秘密の不正取得、すなわち他社営業秘密の流入を防ぎ自社が加害企業とならないようにする対策を取らないと、万が一の場合に株価にも大きな影響を与えかねないとも考えられます。

2017年11月20日月曜日

営業秘密とする情報の特定

たびたびこのブログでも述べていますが、営業秘密とする情報は明確に特定されなければなりません。例えば、文章やリスト、図面等で営業秘密とする情報を特定します。
営業秘密とする情報を明確に特定できないと、秘密管理もできるわけがありません。

しかしながら、営業秘密を特定しないまま、訴訟に臨む原告もいます。
それも、少ない数ではなく、それなりの割合でいます。
おそらく、原告は、気持ち優先で訴訟を起こしているのではないでしょうか?
その結果、原告が不正に取得されたとする営業秘密が特定できないと裁判所に判断され、当然ながら、秘密管理性、有用性、非公知性の判断もないまま原告敗訴となります。

このようなことに陥らないためにも、営業秘密とする情報は予め明確に特定し、秘密管理しなければなりません。
そもそも、営業秘密とする情報を特定しないと、その情報が不正に取得されたか否かも分かりません。


ここで、営業秘密として情報を管理することの付随的な効果として、自社が保有する情報の整理及び再認識ができる、ということがあると思います。
特に今から営業秘密管理について取り組もうとする企業にはその効果が大きいと考えます。

もしかすると、「自社には営業秘密なんてないよ」と思っている人もいるかもしれません。
しかしながら、他社に知られたくない情報を持っていない企業はあるのでしょうか?
営業秘密として管理しない情報は、裏を返すと「誰もが自由に持ち出して構わない情報」とも解釈できるかもしれません。
例えば、自社の顧客情報は?これを競合他社に知られても良いのでしょうか?
見積もりは?他社から製品や材料等を購入する場合の購入情報は?
自社製品の図面は?化学系や食品系の製造製品の材料配合は?
自社が培ってきたノウハウは?

どの企業も、何かしら他社に知られたくない情報が必ずあるはずです。
そのような情報の中には、他社に対する優位性を示す情報も含まれている可能性が高いと思います。
特に、技術系の会社では、自社が有する技術情報を今一度見直すことによって、他社よりも優れていると考えられる情報があるはずです。
そのような情報は、営業秘密として管理するべきではないでしょうか?
営業秘密とする情報の洗い出しを行うことによって、自社の強みが再認識するきっかけとなるのではないでしょうか。
 

2017年11月17日金曜日

面白かった記事 競業避止義務と営業秘密の流出防止

営業秘密に関する面白かった記事がありました。
うかつに転職したら訴訟沙汰に! 「競業避止義務」と「職業選択の自由」の境界線」という記事であり、筆者の橋本愛喜さんは、自身も町工場の経営をされていたようですね。

記事の内容は町工場の従業員の退職に関し、有能な従業員に対する競業避止義務についてですが、当然、営業秘密も絡む話です。
一見ありがちな話題ですが、実際に町工場の経営をされていた方の記事なので、経営者の悩みを感じ取ることができるかと思います。

私もそうですが、営業秘密だの何だの言っている人の多くは会社経営をしたことはないかと思います。だからこそ、客観的な意見を言えるのかもしれませんが、教科書的な理想論ばかりで実際の現場では出来ないことを言ってしまいがちかなとも思います。

例えば、競業避止義務契約についてはどうでしょうか。
営業秘密等の漏洩防止策の一つとして、就業規則等で競業避止義務を従業員に課しても、その従業員が競合他社へ転職した場合に何ができるのでしょうか?
転職先企業に対してその元従業員を解雇させることもできないし、退職金を返還させるにしても、そのために訴訟を起こす手間や費用が大きすぎペイしないでしょう。しかも、訴訟を起こしたとしても認められない場合も多々あります。
そうすると、営業秘密の漏洩防止のために、競業避止義務を従業員に課すことは現実的ではないとも考えられます。
上記記事からは、そのような経営者の悩みを感じ取れます。


さらに、従業員個人が有する技能、町工場なら例えば溶接や板金、塗装等の技術は、文言等で表すことは難しいことが多く、このため営業秘密として特定し難いと考えられます。そして、この有能な技能を自社で培った従業員が競合他社へ転職することは、経営者なら何とかして阻止したいでしょう。

しかしながら、いきなり前言撤回ですが、個人の技能は本当に営業秘密とできないのでしょうか?
その技能が、例えば、特定の装置の特定の使い方(入力する設定値等)に基づくものであったり、複数の装置の組み合わせ方に基づくものである場合には、その装置の使い方や組み合わせ方を営業秘密とできるかもしれません。
装置そのものは当然公知のものと考えられますが、特定の使い方は公知でないかもしれません。その装置のメーカーも想定していない使い方によって、想定していた以上の能力を装置が発揮する場合もあります。
このような場合には、装置の特定の使い方や組み合わせ方を営業秘密として管理することによって、退職者である個人の技能にある意味制限をかけることもできるのではないかと考えます。

すなわち、自社が有する技術に関して、今一度見直すことは重要かと思います。
自社の技術が離職者と共に他社に流出することをどのように防ぐか?
営業秘密として管理できる技術は秘密管理し、それを離職者に認識してもらい、技術流出を可能な限り防ぐことを検討してはいかがでしょうか?

2017年11月15日水曜日

ビジネスを行う上で意外と重要?不競法2条1項10号

不競法の平成27年度改正において、2条1項10号が追加になりました。
この規定は、営業秘密侵害品が広く流通している可能性があることから,米国等の諸外国の制度を踏まえ,営業秘密侵害品の譲渡等の規制を行うことにより営業秘密侵害に対する抑止力を向上させることを意図し,平成 27 年改正で新たに創設 された規定です(経済産業省:逐条解説 不正競争防止法)。

この改正後の10号の条文は、下記のものです。

「第四号から前号までに掲げる行為(技術上の秘密(営業秘密のうち,技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)を使用する行為に限る。以下この号において「不正使用行為」という。)により生じた物を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為(当該物を譲り受けた者(その譲り受けた時に当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず,かつ,知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)が当該物を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為を除く。)

ここで、上記条文で特に重要だと思う部分は、下線部分の括弧書きの内容です。
この下線部分で規定されていることは、営業秘密侵害品の譲渡を受けた者が、営業秘密の侵害があったことを知って又は重過失により知らずに、その営業秘密侵害品をさらに譲渡等(販売等)した場合、この者も営業秘密の不正使用となります。
換言すると、営業秘密侵害品の譲渡を受けた者であっても、当該製品に営業秘密の侵害があったことに対して善意無重過失である場合には、その者は営業秘密の不正使用にはなりません。

ここでいう重過失とは、経済産業省:逐条解説 不正競争防止法には、「例えば,自社の取り扱う商品について,保有者の営業秘密の内容や侵害の状況等が具体的 に記載された上で営業秘密侵害品である旨を指摘する警告状を受理したにもかかわらず,何ら 調査を行わないままに当該商品の譲渡を行う場合,重過失が認められる可能性があるものと考 えられる。」とあります。


他社が製造販売したものを、さらに他者に販売するような小売業において、この条文は重要かと思います。また、自社の製品に、他社が製造販売した機器を組み込んで販売する業種もこの条文は意識する必要があると思われます。

他社の製品が特許侵害品であるか否かは、その製品を購入した企業が自身で特許調査を行うことで判断できます。しかしながら、他社の製品が営業秘密侵害品であるか否かは、その製品を購入した企業が自身で調査することはまず不可能です。営業秘密は非公知のものなので当たり前ですね。

では、他社から製品を購入し、さらにそれを販売する企業(以下「製品購入企業」といいます。)はどうするべきか、購入する製品が他社の営業秘密を不正使用していないことの誓約を取るべきでしょう。このような誓約を当該製品の売買契約書等に含ませることが考えられます。

なお、経済産業省:逐条解説 不正競争防止法には、「この悪意又は重過失の主観要件は,裁判等においては,原告(被害者)側で主張・立証す べき請求原因事実である」とあります。
このことからすると、製品購入企業が、もし営業秘密侵害品を購入し、販売したとしても、実際に営業秘密の不正使用について悪意・重過失でないならば、上記誓約を取る必要もないかと思います。もし、裁判となっても、悪意・重過失の立証は原告(被害者)が行うべきものであり、製品購入企業が本当に悪意・重過失でないならば誓約の有無に関係なく、その原告は、製品購入企業の悪意・重過失を立証できるわけがないのですから。

しかしながら、取引企業との間で、随時このような営業秘密に関する誓約等を取り付けることで、自社は営業秘密に関する意識が高いということのアピールにもあるかと思います。
個人や企業において、未だ営業秘密に対する意識が低いところが多々あるかと思います。そのような企業と取引を行うと、もしかすると自社が不要な争いに巻き込まれるかもしれません。
おかしな表現かもしれませんが、取引企業に対して営業秘密の教育を行うといった意味でも、随時、営業秘密に関する誓約を取ることは意味のある事かと思います。
そして、それが結果的に自社を守ることになるかと思います。

2017年11月3日金曜日

営業秘密は弁理士にとってブルーオーシャン?

営業秘密に関するサービスが弁理士にとって新しい業務となり得ると私は考えています。
まあ、今更言わなくても、このようなブログをやったりセミナーを開催していますからね。

そもそも特許出願(実用新案、意匠含む)とは何でしょうか?
知的財産ですね。
しかし、もっと根源的なことを考えると、情報管理の一態様ではないでしょうか?
そして、営業秘密も知的財産の一つであり、情報管理の一態様ではないかと私は考えます。
では、弁理士としては、特に技術情報管理の一態様として、「特許出願」又は「営業秘密」の何れかとすることをクライアントに提案できると思います。
いまさら言わなくても、技術を「特許出願」を実行の有無の相談(コンサル)ならば多くの弁理士が行っていると思います。さらには、当該技術のどこまでを明細書に記載するかしないかの判断も弁理士ならば行っているはずです。

では、特許出願を行わなかった技術情報に対するケアを行っている弁理士はどの程度いるのでしょうか?
特許出願を行わなかった技術情報は、場合によっては「営業秘密」として管理するべきものではないでしょうか?
そして、「営業秘密」として管理する技術情報は、それを特定できるように文章化等の視認化が必要です。この技術情報の文章化は弁理士が最も得意とする業務ではないでしょうか?


上記グラフに示すように、国内の特許出願件数は右肩下がりである一方、企業の研究開発費はリーマンショック前にまで回復しています。
少々乱暴な考え方ですが、この特許出願件数の最大値と今の特許出願件数との差が営業秘密として管理するべき技術情報の数であるとも考えられます。
さらにいうと、特許出願件数が最大であった2001年前後よりも今の方が企業の研究開発費が多いのですから、営業秘密として管理するべき技術情報の数は、特許出願件数の差よりもさらに多いとも考えられるかもしれません。
そして、この特許出願されていない技術情報はどのように守られているのでしょうか?

おそらく、今後日本国内の特許出願件数は、増加することなく、ある程度まで減少し続けるのではないでしょうか。
そうなれば、企業としては、「特許出願を行わなかった技術情報をどのようにして守るか」という課題がより顕在化するはずです。
この課題に対しては、技術情報を「営業秘密」として管理する以外に答えはないと思います。

そして、「情報管理」というキーワードの元に技術情報を「特許出願」又は「営業秘密」の何れで管理するかという課題に対して、特に技術情報の特定(文章化)も含めると、確実に対応できる業種としては弁理士が最適であると考えます。
さらに、昨今の営業秘密漏えいに対する企業の意識が高まっている状況や、オープン&クローズ戦略なる言葉が唱えられ始めているいる現在、上記の需要は高まっていると考えます。

しかしながら、このようなサービスは、未だ行われていないのではないでしょうか?(私が知らないだけですでに行っている人もいるかもしれませんが。)

そうであるならば、営業秘密に関する業務は、特に弁理士による業務はブルーオーシャンなのではないかと思います。
いや、弁理士等の資格を有している者がこの業務に有利であるとも考えると、ブラックオーシャンかもしれません。


そう信じて、がんばりましょう。
実際には色々な難しさを感じる今日この頃です。

2017年10月16日月曜日

ちょっと驚いたこと。

たまに、自分のブログに関するキーワードでGoogle検索を行ったりします。
自分の書いたブログ記事がどの程度検索で上がってくるかということを知りたいがためです。
キーワードは、「営業秘密+何か」です。

例えば「営業秘密+農業」で検索すると私のブログ記事である「農業分野における営業秘密」がトップに現れます。
これは、私の記事が多くの人に見られているのではなく、記事の内容からして、単に関心を持っている人が少なく、私のブログ記事へのアクセス数が相対的に高いだけだと思います。

一方、「営業秘密+3要件」で検索すると、2ページ目に私のブログ記事が現れます。これは、営業秘密の3要件に関しては関心が高い人が多いためであり、私のブログ記事へのアクセス数が相対的に低いことを示していると理解しています。

ところで、「営業秘密」だけで検索すると私のブログがヒットしないんですよね。
これについては、営業秘密に関するビジネスを模索している現状においては、何か対策するべきなんでしょう。


以上のことを踏まえて、驚いたことというのは、「営業秘密+流入」で検索すると、私のブログ記事がトップに来ています。
しかしながら、上記のように、これは私のブログ記事に人気があるということではないと思います。
単に「営業秘密の流入」ということに関心を持っている人が少ないということだと思います。

私は営業秘密に関するリスクとして、流出と同様に、いや、事が起きた場合には流出よりもリスクが高いものが流入だと考えています。
前回のブログで挙げたように、最悪の場合は営業秘密の流入が起きた事業からの撤退のあり得るからです。
特に近年は転職率も高くなり、経験者として採用される転職者の中には、新しい職場で早く結果を出したいがために、前職企業の営業秘密を持ち出して転職先で使用する人がいる可能性は想像に難くありません。

ところが、「営業秘密+流入」で検索すると私のブログ記事がトップに来るということは、営業秘密の流入に関するリスクを意識している人が少ないということだと思います。
営業秘密の流入に関しては、私だけが述べているのではなく、多くの営業秘密の専門書等にも記載されています。

営業秘密の流入に関して、関心が薄い企業さん等は改めて営業秘密の流入リスクについて考えてみてはいかがでしょうか?

2017年10月9日月曜日

過去の営業秘密流出事件

過去の営業秘密流出事件における刑事罰が適用された事件の主なものです。
表が見難い場合はクリックしてください。


2020.8.15更新

さらに過去に起きた営業秘密の流出事件のうち、ニュース報道が行われたものをまとめました。
インターネットに公開されているニュース報道等のリンクのまとめです。
 興味のある方は↑上のページ「過去の営業秘密流出事件」からどうぞ。

「過去の営業秘密流出事件」では、ニュース報道のリンクだけではなく、当該企業のリリースもピックアップしています。
これによって、営業秘密が流出した被害企業(原告企業)や、その営業秘密が流入した企業(被告企業)の対外的な対応の一端が分かるかと思います。
何もしない企業や、頻繁にリリースを発表する企業、流出した営業秘密の内容等によっても様々かと思います。
また、各事件がどのように報道されているのかもわかるかと思います。



古い事件や新しい事件でも既に当該記事が削除されてている場合もあり、リンク先の記事も早晩削除されるかもしれませんが・・・。しかし、当該企業のリリースは比較的長く残るのではないでしょうか。

営業秘密の流出は、流出先の企業が被害者であるにもかかわらず、それが個人情報を含むものであったりすると、一転して加害企業のような取り扱いになる可能性もあります。
また、他社の営業秘密が流入した企業は、それが転職者による持ち込みである場合等、自社に過失が無くても報道により社名が出てしまう可能性もあります。
過去の事件は、自社に万が一のことが生じることを想定する場合に参考になるかもしれません。

2017年10月4日水曜日

調達購買の人こそ知るべき営業秘密

営業秘密が不用意に漏れる部署はどこでしょうか?
前回のブログでは、営業の方から漏れる例を挙げました。
他にはないでしょうか?
ということで、営業があれば、その対極ともいえる調達購買の方は?

私は調達購買が他社の営業秘密に触れる可能性が高い部署の一つだと思っています。
そう、他社の営業担当者から、その会社の営業秘密を知る可能性があります。
ということは、調達購買が、他社の営業秘密を異なる他社へ流出させる可能性もあります。
図で表すと、↓こんな感じです。

S社を介してA社の営業秘密とB社の営業秘密とが行き来してしまっています。
実際にこういうことはあるようです。
S社の調達購買担当者が口の軽い人で、知的財産に対する知識等もない場合にこのようなことになるでしょう。
上記の図のように、両社の営業秘密が行き来しない場合もあり、例えば、A社の営業秘密がB社に流出する一方、B社の営業秘密は流出しないといったこともありえます。
S社を介して他社の営業秘密が行きかった結果、最悪の場合、S社にトラブルを生じさせる可能性があります。

このような状況は、A社やB社にとっても当然好ましくはありません。
A社やB社はどうするべきでしょうか?

対策の一つとしては、営業秘密が技術情報であればS社に開示する前に特許出願をすることです。
特許出願は営業秘密とは対極にあるとも思えますが、特許を取得すれば他社に対抗できるので当然有効な手段です。

営業秘密のまま開示するのであれば、S社との間で秘密保持契約を結ぶことです。
しかしながら、S社がクライアント企業である場合等には秘密保持契約を結ぶことを提案することが憚れるかもしれません。
そういう場合には、S社に渡す資料等に㊙マークを付す等し、かつ口頭でも他社に開示しないことを伝えるべきかと思います。
資料に㊙マークが付されていると、その資料を入手した企業、例えば、S社を介してA社の資料を入手したB社は、その資料を使用することを躊躇するかと思います。

他社に営業秘密を開示する場合には、その営業秘密が開示先企業から流出することを前提として対応するべきかと思います。
そして、調達購買担当者は、自身の口から他社の営業秘密を開示してしまう可能性を意識する必要があります。

2017年10月2日月曜日

営業の人こそ知るべき営業秘密

営業秘密が不用意に漏れる部署はどこでしょうか?
ここでいう不用意とは、不当な利益を得る目的や企業に損害を与える目的等の不法行為でななく、「不注意」という意味です。

まあ、挙げようと思えば、どこでもあるかもしれませんが、その一つはやはり営業部門からではないでしょうか?

営業の方は、当然ながら、自社の情報を顧客(他社)に与えます。
その情報の与え方は、適切でしょうか?必要以上の情報を与えてはいないでしょうか?
与えた情報は、自社の営業秘密ではないでしょうか?
営業秘密であるならば、それが営業秘密であることを顧客に認識させているでしょうか?
顧客は、営業秘密に対する取り扱いについて理解しているでしょうか?


ここで、面白いと言っては失礼ですが、営業時における顧客への情報の与え方を間違った判例を紹介します。
この事件は、東京地裁平成26年11月20日判決(平成25年(ワ)第25367号)であり、結論から言うと、情報を被告に開示した原告は負けています。

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事件の概要としては、原告は被告の元従業員であり、原告は、かねてからベトナム国内でのバルブ製造業務への関与を希望していました。
そして、原告は、被告からベトナムのバルブメーカーであるミン・ホア社への案内を依頼され、被告担当者とともにミン・ホア社を訪れて、被告がベトナム国内で販売するバルブをミン・ホア社で製造することについて、同社担当者と打合せをしました。このとき、原告は、被告がベトナム国内で製造、販売するバルブの設計図を作成し、同日、本件設計図のデータを添付した電子メールをミン・ホア社や被告の担当者らに送信しました。なお、原告が本件設計図の作成について被告から報酬を受けた事実はありません。被告は、その後、ベトナム国内においてバルブ(以下「被告製品」という。)の製造、販売を開始しました。

原告の主張としては、被告は原告の設計ノウハウを無断で利用して被告製品の販売収益を上げるという不正の利益を得る目的で、入手した本件設計図を使用して被告製品を製造、販売しているというものです。

これに対して裁判所は、「被告がベトナム国内で販売するバルブをミン・ホア社で製造することについて、同社担当者と打合せをしたこと、その際、原告が上記バルブの図面を作成する話が出て、原告は,同月16日、その頃までに作成した本件設計図を電子メールに添付してミン・ホア社や被告の担当者らに送信したこと、原告は、同月28日の被告担当者との打合せの際、被告担当者に対し、本件設計図をそのまま、あるいは変更を加えて自由に使用してよい旨を述べたことが認められる。これらの事実によれば、原告は、被告がベトナム国内で製造、販売するためのものとして、本件設計図を作成し、被告に交付したのであるから、本件バルブは、被告にとって「他人の商品」に当たるとは認められない。」 と判断しています。

そして、結論として、裁判所は「原告は、本件設計図の自由な利用を被告に許したものといえるから、被告が本件設計図に基づいて被告製品をベトナムで製造,販売しているとしても、被告に同号の「不正の利益を得る目的」があるということはできず、本件設計図が営業秘密に当たるか否かにかかわらず、被告の行為は、不正競争を構成しない。」としています。
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おそらく、原告は、被告を介して、ミン・ホア社からバルブの設計や製造に関する仕事の依頼がくることを期待して、自身が作成した設計図を被告と原告に渡し、自由に使っていいと言ったのでしょう。そうしたら、被告がこの設計図を使ってベトナムでバルブの製造をしてしまった・・・。

原告は、営業目的とはいえども、自身の営業秘密を気前良く開示し、使用許可まで与えてしまって、それを被告に対して営業秘密の不正使用だと言っても裁判所は認めなかったということです。
この裁判所の判断は妥当なものであると考えられます。

しかし、ここまで極端なことはなくても、自社の情報を秘密とすることなく取引先に開示してしまった営業の人はいるのではないでしょうか?
その結果、リップサービスのつもりで行ったことが、後々自身の予想しなかったことに発展するかもしれません。
その場合、後からその開示は無かったことにしたくても、それはできません。

営業の方も、当然、自社の営業秘密の触れる機会が多いと思います。
そのため、営業を行う際に、常に営業秘密について意識する必要があると思います。
営業のどの段階で、どこまで営業先に話すのか?
営業秘密を話していないか?
営業秘密を話した方が受注の可能性が高まるのであれば、何を話すのか?
その際、営業先は秘密保持をしてくれるのか?秘密保持契約を取り付けられるのか?

営業秘密の観点から、営業先で話して良い事、悪い事を今一度見直しては如何でしょうか?

2017年9月27日水曜日

営業秘密と共に秘密保持義務も認められなかった事例

裁判において当該情報が営業秘密に該当しないとされ、さらにその秘密保持義務違反も認められなかった事例があります。

これは、大阪地裁平成24年12月6日判決(大阪地方裁判所平成23年(ワ)第2283号)です。
この事件は、被告が訴外フロイントから攪拌造粒機の製造委託を受け、これを製造・販売した製品が原告の特許権を侵害していると共に、被告製品には、原告から被告に示された原告製品図面中の営業秘密が被告からフロイントに不正に開示された上、使用されていると、原告が主張しているものです。

なお、原告は、被告に対し、原告が開発した製品やその部品等の製作を委託しており、その際、原告と被告は、取引基本契約書を交わし、本件基本契約には以下のような条項がありました。
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第35条(秘密保持)
1)乙は,この基本契約ならびに個別契約の遂行上知り得た甲の技術上および業務上の秘密(以下,機密事項という。)を第三者に開示し,または漏洩してはならない。但し,次の各号のいずれかに該当するものは,この限りではない。
〔1〕乙が甲から開示を受けた際,既に乙が自ら所有していたもの。
〔2〕乙が甲から開示を受けた際,既に公知公用であったもの
〔3〕乙が甲から開示を受けた後に,甲乙それぞれの責によらないで公知または公用になったもの。
〔4〕乙が正当な権限を有する第三者から秘密保持の義務を伴わず入手したもの。
2)乙は,機密事項を甲より見積作成・委託・注文を受けた本業務遂行の目的のみに使用し,これ以外の目的には一切使用しない。
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この秘密保持契約について、営業秘密に関係しそうな項目は、〔2〕,〔3〕でしょうか。しかし、〔2〕,〔3〕について、秘密保持契約には通常含まれている項目あると考えられます。


本事件において原告は、原告製品図面が営業秘密であると主張していますが、裁判所は原告製品図面は営業秘密ではないと判断しています。
さらに、原告は、被告が原告製品図面を訴外フロイントに開示したことが、秘密保持義務に違反すると主張しています。
これに対して、裁判所は下記のように判断し、秘密保持義務違反であることも否定しています。

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5 争点4(本件基本契約上の秘密保持義務違反)について
 原告は,被告が原告製品図面をフロイントに開示したとした上,そのことが,本件基本契約35条の規定する秘密保持義務に違反するものである旨主張する。
 そこで検討するに,まず本条における秘密保持義務の対象については,公知のものが明示で除外されている(本件基本契約35条1項〔2〕及び〔3〕)。そして,被告は,原告の「技術上および業務上の秘密」(本件基本契約35条1項本文)について秘密保持義務を負うと規定されているが,その文言に加え,被告の負う秘密保持義務が本件基本契約期間中のみならず,契約終了後5年間継続すること(本件基本契約47条2項)に照らせば,原告が秘密とするものを一律に対象とするものではなく,不正競争防止法における営業秘密の定義(同法2条6項)と同様,原告が秘密管理しており,かつ,生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な情報を意味するものと解するのが相当である。
 このように本件基本契約上の秘密保持義務についても,非公知で有用性のある情報のみが対象といえるため,前記4で論じたことがそのまま当てはまるところ,被告に上記秘密保持義務違反は認められないというべきであり,原告の上記主張は採用できない。
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上記裁判所の判断は、原告製品図面が営業秘密と認められないのであれば、営業秘密の要件(有用性、非公知性)と同様の要件である上記本件基本契約からすると、当然に原告製品図面も秘密保持義務の対象とはならないとのことのようです。
本件基本契約35条1項〔2〕及び〔3〕が営業秘密の定義(非公知性、有用性)と同じであるとすることに少々疑問はありますが・・・。

このように本事件では、本件基本契約35条1項〔2〕及び〔3〕等を含む秘密保持義務契約を原告と被告とが結んでいたがために、原告製品図面が営業秘密と認められないことに引きずられ、原告製品図面の開示も秘密保持義務違反とは認められないことになりました。

まさに、原告にとっては泣きっ面にハチであり、秘密保持契約がその意味をなさない状態となったわけです。

この事件を鑑みると、契約書、特に秘密保持契約において、秘密保持の対象とする情報(以下「秘密保持対象情報」といいます。)を相手方に提供する側は、秘密保持契約において秘密保持対象情報を営業秘密として捉えられないようにする必要性を感じます。

もし、秘密保持対象情報=営業秘密とすると、上記判決のように、当該情報が営業秘密でないとされると、たとえ相手方が秘密保持対象情報を開示しても、それが不法行為であるとは認められないことになってしまいます。

ではどうすればいいのか?
単純には、上記〔2〕,〔3〕のような項目を契約に加えないことかと思います。
しかしながら、秘密保持契約の参考書等には、秘密保持の例外として、当然のようにこのような項目を加えることが記載されているんですよね・・・。

それが無理な場合は、決して漏えいされたくない情報に関しては、それを明確に特定し、その情報に関しては上記〔2〕,〔3〕の例外から除外するといったような工夫が必要ではないでしょうか。
一番重要なことは、秘密保持対象情報が漏洩された場合に、この秘密保持対象情報が営業秘密ではないとされても、秘密保持契約に基づいて不法行為が認められるようにすることかと思います。