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2024年1月10日
・no+eに新しい記事「営業秘密とする技術情報の特定」を投稿しました。
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2019年4月11日木曜日

営業秘密に関する民事訴訟の受理件数推移

下記グラフは営業秘密に関する民事訴訟の受理件数の推移を示したグラフであり、作成者は私です。

このグラフは、判決が出された訴訟の受理件数であるため、和解に至った訴訟や取り下げ又は放棄された訴訟の件数は含まれていません。従って、実際の受理件数はこれよりも多いはずであるため、毎年の受理件数の実数を示したものではありませんが、訴訟件数のおおまかな推移は分かるかと思います。


このグラフは、判決が出された訴訟の受理件数であるため、判決が出ていない訴訟は当然カウントされていません。2016~2018年の一審の受理件数が少ない理由はこのためであり、これらの年、特に2017,2018年に受理された訴訟は未だその多くが判決にまで至っていないと考えられます。
しかしながら、大まかな傾向としては、一審の2013~2015年の受理件数とそれ以前の受理件数とから判断するに、営業秘密に関する訴訟件数は増加傾向にあるとも考えられます。

上記グラフのように判決ベースではあるものの営業秘密に関する訴訟の件数は多くて20件弱です。この件数をどのように見るかは人それぞれがと思いますが、下記に2017年の特許権侵害等の第一審新規受理件数を示します。この数は、この資料を参考にしています。
下記件数は、未だ判決に至っていないものや和解等に至った訴訟も含む件数です。そうすると、営業秘密に関する訴訟は実用新案権や意匠権の侵害訴訟の件数よりも多いですね。

特許権侵害:158件
実用新案権:5件
意匠権侵害:9件
商標権侵害:83件

また、営業秘密侵害訴訟において一審で原告の請求が認容(一部認容含む)された割合は、判決数を母数とすると約22%であり、原告の請求は認められ難いとも考えられます。
しかしながら、判決文を読むと、原告が営業秘密を特定できておらず営業秘密の三要件すら裁判所が判断していない訴訟も少なからずあります。これは営業秘密とは何であるかを原告側が理解していなかったとも思われ、今後営業秘密に対する理解が広まるとこのような訴訟が減り、勝訴率が高くなると思われます。

さらに、営業秘密に対する関心度は増加傾向にあるかと思います。それは刑事事件に関する統計からは明確に見て取れます。
・参考ブログ記事:営業秘密侵害の検挙件数統計データ
そうすると、当然民事事件の件数も今後増加する傾向に至るでしょうし、営業秘密に関する新たな知見を与える判決も多く出るようになるでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年3月14日木曜日

ー判例紹介ー プログラムに対する営業秘密侵害と著作権侵害について

プログラム(ソースコード)に対する不法行為として、原告が被告に対して営業秘密侵害と共に著作権侵害を提起した裁判例が複数存在します。なお、アルゴリズムについては、ソースコードとは異なり、著作権法10条3項3号にあるように著作物としては認められていません。
ここでは、営業秘密侵害と共に著作権侵害も争った裁判例のうち、字幕制作ソフトウェア事件(東京地裁平成30年11月29日判決 事件番号:東京地裁平成27年(ワ)16423号)を紹介したいと思います。

字幕制作ソフトウェア事件は、原告の従業員であったA又はBが原告の営業秘密である字幕制作ソフトウェア(原告ソフトウェア)を構成するソースコードプログラム(本件ソースコード)及びそのファイル「Template.mdb」を正当な権限なく原告から持ち出して被告会社に開示し、被告会社が本件ソースコード等を不正に取得又は使用したと原告が主張したものです。

本事件では、本件ソースコードのうち一つまたは複数のソースコードと被告ソフトウェアの複数のソースコードとを比較するために、300組のソースコードのペアについて、その一致点の有無等を鑑定人が判断し、共通性や類似性が疑われる個所を抽出しました。そして、鑑定人が、類似箇所について原告ソフトウェアを参照せずに被告らが独自に作成することが可能であるか否かにつき判断し、その結果に基づいて原告ソフトウェアの不正使用の有無が判断されました。
その結果、裁判所は、原告と被告のソースコードにおいて不自然な類似箇所が複数存在することをもって、被告による原告ソースコードの不正使用を認めました。


さらに字幕制作ソフトウェア事件では本件訴訟に先立って、著作権侵害訴訟(以下「先行訴訟」という。)が提起されています。この先行訴訟は、字幕制作ソフトウェア事件の原告が、被告ソフトウェアは原告の著作物であるプログラム(本件ソースコード)を複製又は翻案したもので原告の著作権を侵害するものであると主張したものです。

この先行訴訟では、一審(東京地裁平成25年(ワ)第18110号)で原告の請求が棄却されており、原告は同判決を不服として控訴(知財高裁平成27年(ネ)第10102号)しましたがこれも棄却されています。
具体的には、控訴審では「被控訴人プログラムが控訴人プログラムにおいて創作性を有する蓋然性の高い部分のコードの全部又は大多数をコピーしたことを推認させる事情は認められない。」として棄却しています。

一方、営業秘密侵害を争った字幕制作ソフトウェア事件では、上述のように、被告による本件ソースコードの不正使用が裁判所によって認められています。
このように著作権法違反を認めない一方で営業秘密侵害を認めた字幕制作ソフトウェア事件からは、営業秘密侵害における不正使用の範囲は著作権侵害の複製又は翻案の範囲よりも広い概念であると考えられます。

すなわち、著作権侵害を認められるためには「創作性を有する蓋然性の高い部分のコードの全部又は大多数をコピー」した場合ですが、営業秘密の不正使用と認められるためには「ソースコードに不自然な類似性や共通性が見られる」ことで足り、ソースコードを営業秘密として管理していたならば、当該ソースコードに対する著作権侵害が認められなくても営業秘密侵害が認められる可能性があると考えられます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年2月21日木曜日

ー判例紹介ー 営業秘密性が否定されたアルゴリズムに基づくソースコードの営業秘密性

アルゴリズムは、コンピュータによる処理手順を示したものであり、例えばフローチャート等によって表現されます。そして、ソースコードは、アルゴリズムに基づいて記述されます。このため、営業秘密性が否定されたアルゴリズムに基づいて作成されたソースコードは営業秘密性、特に非公知性を有するのでしょうか。

これを判示したものとして、知財高裁平成28年4月27日判決の接触角計算プログラム事件が挙げられるかと思います。本事件は、ソースコードと共にアルゴリズムも原告保有の営業秘密であるとしてその被告による不正使用を争った事件です。このブログでも何度か紹介したものです。

本事件において原告(被控訴人)は、原告の元従業員等であった被告(控訴人X)等が被告会社(控訴人ニック)を設立し、原告ソースコード及び原告ソースコードに記述された原告アルゴリズムを不正使用して被告旧接触角計算(液滴法)プログラム(以下「被告旧プログラム」ともいう。)と被告新接触角計算(液滴法)プログラム(以下「被告新プログラム」ともいう。)を作成したと主張しました。

ここで原告アルゴリズムは、表紙に「CONFIDENTIAL」と記載され,全頁の上部には「【社外秘】」と記載されたハンドブック(以下「本件ハンドブック」という。)に記載されているか,あるいは,記載されている事項から容易に導き出すことができる事項であると裁判所によって認定されています。

しかしながら、裁判所は「本件ハンドブックは,被控訴人の研究開発部開発課が,営業担当者向けに,顧客へのソフトウエアの説明に役立てるため,携帯用として作成したものであること,接触角の解析方法として,θ/2法や接線法は,公知の原理であるところ,被控訴人においては,画像処理パラメータを公開することにより,試料に合わせた最適な画像処理を顧客に見つけてもらうという方針を取っていたことが認められ,これらの事実に照らせば,プログラムのソースコードの記述を離れた原告アルゴリズム自体が,被控訴人において,秘密として管理されていたものということはできない。」として原告アルゴリズムの秘密管理性を認めませんでした。

また、裁判所は「原告アルゴリズムの内容の多くは,一般に知られた方法やそれに基づき容易に想起し得るもの,あるいは,格別の技術的な意義を有するとはいえない情報から構成されているといわざるを得ないことに加え,一部ノウハウといい得る情報が含まれているとしても,(略),原告アルゴリズムを,営業担当者向けに,顧客へのソフトウエアの説明に役立てるため携帯用として作成した本件ハンドブックに記載していたのであるから,被控訴人の営業担当者がその顧客に説明したことによって,公知のものとなっていたと推認することができる。」として原告アルゴリズムの非公知性も認めませんでした。


一方、原告アルゴリズムとは異なる管理を行っていた原告ソースコードに対して、裁判所は次のように判断してその営業秘密性を認めていました。

すなわち裁判所は「原告プログラムが完成した平成21年7月当時,開発を担当するプログラマの使用するパソコンにはパスワードの設定がされ,また,被控訴人は,完成したプログラムのソースコードを研究開発部のネットワーク共有フォルダ「RandD_HDD」サーバの「SOFT_Source」フォルダに保管し,当該フォルダをパスワード管理した上で,アクセス権者を限定するとともに,従業員に対し,上記管理体制を周知し,不正利用した場合にはフォルダへのアクセスの履歴(ログ)が残るので,どのパソコンからアクセスしたかを特定可能である旨注意喚起するなどしていたことに照らすと,原告ソースコードは,被控訴人において,秘密として管理されていたものというべきである。」として秘密管理性を認め、また、「原告プログラムは,理化学機器の開発,製造及び販売等を業とする被控訴人にとって,その売上げの大きな部分を占める接触角計に用いる専用のソフトウェアであるから,そのソースコードは,被控訴人の事業活動に有用な技術上の情報であり,また,公然と知られてないものである」として有用性及び非公知性を認めました。

このように、本事件では、原告アルゴリズムはその営業秘密性を認められなかったものの、原告アルゴリズムを記述した原告ソースコードの営業秘密性は認められました。
すなわち、下位概念であるソースコードが適切に秘密管理等されていたならば、その上位概念であるアルゴリズムの営業秘密性の有無にかかわりなく、その営業秘密性は認められることを示唆していると思われます。

また、本事件で注目すべきことは、原告アルゴリズムと原告ソースコードが別々に管理されていたということです。もし、原告ソースコードが原告アルゴリズムと同様に本件ハンドブックに記載されていたら(ソースコードをハンドブックに記載することはあまり考えられませんが。)、原告ソースコードの秘密管理性も認められず、原告ソースコードの営業秘密性は裁判において否定されたかもしれません。
このように、関連する技術に関する複数の技術情報は、管理の手間は増加するかもしれませんが、一つにまとめて管理するよりも別々に管理する方が不測の事態を避けるためにも良いかと思われます。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年1月18日金曜日

ー判例紹介ー 技術的に特徴のないプログラムの営業秘密性

技術的に特徴のないプログラム(ソースコード)は、営業秘密として認められるのでしょうか?
すなわち技術的に特徴のないソースコードは、既知のソースコードの組み合わせであり、非公知性や有用性がないと解釈できるかもしれません。

このようなことに対して判断が行われた裁判例として、Full Function事件(大阪地裁平成25年7月16日 平成23年(ワ)第8221号)があります。
この事件は、原告の元従業員であった被告P1及び被告P2が原告の営業秘密である本件ソースコード等を被告会社に対し開示し、被告会社が製造するソフトウェアの開発に使用等したと原告が主張した事件です。
この事件において、原告が開発して販売しているソフトウェア(原告ソフトウェア)は、原告が購入したエコー・システム社の販売管理ソフトウェアであって、ソースコードを開示して販売される「エコー・システム」に原告独自に機能を追加して顧客に応じてカスタマイズをしたものであり、開発環境及び実行環境としてマジックソフトウェア・ジャパン社のdbMagic(以下「dbMagic」という。)を使用するものであす。そして、dbMagicで使用可能な原告ソフトウェアのソースコードが、原告が営業秘密であると主張している本件ソースコードです。

このような事実のうえで原告は、本件ソースコードの非公知性に対して次のように主張しました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ア)公知情報の組合せであっても,当該組合せが知られておらず,財産的価値を有する場合は,非公知性がある。
(イ)本件ソースコードは,市販のエコー・システム(甲22)のソースコードを基に作られているが,以下のとおり,非公知性がある。
a 原告ソフトウェアは,エコー・システムにはない生産管理に関する機能等も有するなどエコー・システムよりも機能が追加されている。本件ソースコードのうち,上記追加機能に対応する部分は,それ自体非公知である。
b また,本件ソースコードは,エコー・システムのソースコードを長期間にわたりカスタマイズしたもので,全体が非公知である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、被告は「本件ソースコードは,エコー・システムのソースコードを基に,顧客に応じてカスタマイズされたものである。」として非公知性がないことを主張しました。


これに対して裁判所は「一般に,このようなシステムにおいては,個々のデータ項目,そのレイアウト,処理手順等の設計事項は,その対象とする企業の業務フローや,公知の会計上の準則等に依拠して決定されるものであるから,機能や処理手順に,製品毎の顕著な差が生ずるものとは考えられない。そして,機能や仕様が共通する以上,実装についても,そのソフトウェアでしか実現していない特殊な機能ないし特徴的な処理であれば格別,そうでない一般的な実装の形態は当業者にとって周知であるものが多く,表現の幅にも限りがあると解されるから,おのずと似通うものとならざるを得ないと考えられる。原告自身も,原告ソフトウェアに他社製品にないような特有の機能ないし利点があることを格別主張立証していない。」とのように述べており、原告ソースコードの非公知性が低いような心証であることをうかがわせています。
しかしながら、これに続いて裁判所は「イ そうすると,原告主張の本件ソースコードが秘密管理性を有するとしても,その非公知性が肯定され,営業秘密として保護される対象となるのは,現実のコードそのものに限られるというべきである。ウ そうすると,本件ソースコードは,上記趣旨及び限度において,営業秘密該当性を肯定すべきものである。」とのように判断し、原告主張の本件ソースコードの非公知性を肯定しました。
これは原告による「本件ソースコードは,・・・全体が非公知である。」との主張を認めたものと思われます。
このように、複数の公知のコードが組み合わされたソースコードであっても、全体として公知でなければ、営業秘密としての非公知性は認められると考えられます。

では、このような全体として非公知であるとして営業秘密性が認められたソースコードに対する不正使用の範囲はどのようなものでしょうか。
本事件において、被告による不正使用について原告は「ア 被告P2は,被告ソフトウェアの開発に当たって,本件ソースコード(プログラミングの設定画面)を参照し,原告ソフトウェアのテーブル定義,パラメータの設定,そこで行われているプログラムの処理等の仕様書記載情報を読み取り,当該情報を基に,被告ムーブの担当者にVB2008によるプログラミングを指示して,被告ソフトウェアを開発した。」と主張しました。

しかしながら裁判所は、「本件において営業秘密として保護されるのは,本件ソースコードそれ自体であるから,例えば,これをそのまま複製した場合や,異なる環境に移植する場合に逐一翻訳したような場合などが「使用」に該当するものというべきである。原告が主張する使用とは,ソースコードの記述そのものとは異なる抽象化,一般化された情報の使用をいうものにすぎず,不正競争防止法2条1項7号にいう「使用」には該当しないと言わざるを得ない。」とのように判断し、被告による不正使用については認めませんでした。
このように、全体として非公知であるとして営業秘密性が認められたソースコードに対する不正使用の範囲は非常に狭く、具体的には「そのまま複製した場合や,異なる環境に移植する場合に逐一翻訳したような場合」に限られると解されます。このような不正使用の範囲はプログラムに対する著作権侵害と同様の範囲とも考えられます。

すなわち、ソースコードを営業秘密として管理するにあたり、当該ソースコードの技術的な特徴の有無を判断し、当該ソースコードの不正使用の範囲がどの程度となり得るのかも理解することが望ましいと思われます。また、ソースコードに技術的な特徴があるのであれば、当該ソースコードのアルゴリズムも営業秘密として管理するべきでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年1月10日木曜日

ー判例紹介ー 他社のミスにより得たプログラムを使用したら営業秘密侵害?

他社のミスにより得た他社のプログラムを使用したら営業秘密侵害となる可能性はあるのでしょうか?このような判断がなされた裁判があります。
この事件は、大阪地裁平成28年11月22日判決の貸金返還請求事件(事件番号平成25年(ワ)第11642号)です。

本事件は、原告会社が被告会社に対し、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権として、元金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める一方、被告会社は、原告会社が被告会社の営業秘密であるソフトウェア(被告作成ソフト)を取得し使用するなどの不正競争をしたと主張したものです。このため、通常の営業秘密侵害事件とは異なり、被告会社が営業秘密保有企業です。

まず、本事件における営業秘密侵害に関連する経緯は、訴外会社が宮城県警から請け負ったシステム開発を原告会社が下請けし、原告会社が被告会社に対してソフトウェアの開発の依頼を予定し、被告会社は原告会社からこの発注を受ける前提で被告作成ソフトの開発を行っていました。
しかしながら、被告会社は、納入するソフトウェアのソースコードの開示と著作権の譲渡を原告会社から求められたため、被告会社は原告会社からのソフトウェア開発を受注しないとの決定をしました。

ところが、被告会社の従業員は、原告会社から貸与されたパソコン上に被告作成ソフトのファイルを残したまま、パソコンを原告会社に返却したようです。
そして、原告会社は、この被告作成ソフトを使用して、受注したシステムを開発しました。


ここで、被告会社の従業員が原告会社のパソコン上に被告作成ソフトのファイルを残していた事実は、被告作成ソフトの秘密管理性又は非公知性が否定される可能性が考えられます。

しかしながら、これに対して裁判所は「原告会社のパソコンに被告作成ソフトが残されていたのは,被告会社の何らかの過失によるとしか考えようがないから,被告会社が積極的に開示しようとしたものではない以上,上記のような一回限りの出来事をもって,被告作成ソフトの秘密管理性に影響を及ぼすものとはいえない。」とのように判断しました。
このように裁判所は、原告会社のパソコンに被告作成ソフトが残されていたという過失は重要視しませんでした。

一方で裁判所は「そもそもソフトウェアのソースコードは,一般に非公開とされている」ことを前提とすると共に、被告作成ソフトのソースコードの開示と著作権の譲渡が原告会社から求められたために、被告会社が原告会社からの受注を断るという経緯を重要視し、「上記経緯に照らし,被告作成ソフトのソースコードを原告らのみならず第三者が知る手段を持っていなかったことも明らかであるから,被告作成ソフトは非公知であり,秘密として管理されていたものといえる。」と判断しました。その結果、原告企業による被告作成ソフトの不正使用が認められました。

このように本事件では、被告作成ソフトに対する秘密管理意思を被告会社は原告会社に対して直接的に示していないものの、その経緯から秘密管理意思を認めています。

この事件のように、他社の意図に沿わない形で自社が入手した当該他社の情報、すなわち他社から流入した情報(営業秘密)を使用することには相当な注意が必要です。
このため、他社の情報を入手した場合は、その入手経緯を十分に確認する必要があります。
例えば、Eメールの誤送信によって入手する可能性もあるでしょう。この判決に沿って考えると、Eメールの誤送信によって入手した営業秘密であっても、送信先企業における秘密管理意思が伺い知れるにもかかわらず、送信先企業の許可なく使用すると営業秘密侵害となる可能性があります。

ちなみに、原告会社は「被告作成ソフトは,宮城県警で行われた平成24年9月28日のデモンストレーションの際は何とか起動したものの,Web化されておらず,多数の問題点を指摘された。その後改修を加えて平成25年1月に何とか納入したものの,同年3月から5月にかけても改修し続けたが,結局完成させることができなかった」とも主張し、有用性を否定しました。これが事実であれば、原告会社は、訴訟までに至った被告作成ソフトの使用にはメリットがなかったのかもしれません。しかしながら、このようなことにかかわらず、原告会社の行為は営業秘密の不正使用と認定されました。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年11月14日水曜日

ー判例紹介ー 被告の記憶に残る顧客情報の不正使用を認めた裁判例

被告の記憶に残る原告の顧客情報の不正使用を認めた裁判例を紹介します。
これは、大阪地裁平成30年3月15日判決(平27(ワ)11753号)です。

この事件は、採尿器具を販売している会社である原告が、原告の元代表取締役である被告P1及び被告P1が関与して採尿器具の販売を始めた被告旭電機化成株式会社に対し、原告の顧客情報の不正使用等に基づいて当該顧客情報を使用した営業活動の差し止め・損害賠償請求等を求めたものです。
なお、被告P1は、原告の設立当初からその代表取締役の地位にありましたが、平成25年2月の株主総会で退任しています。

そして、本事件において、裁判所は原告主張の顧客情報に対する秘密管理性、有用性、非公知性を認め、裁判所は被告による当該顧客情報の不正使用等の判断を行いました。

ここで、原告は、原告の得意先番号82及び207、得意先番号3及びその販売先である得意先番号3-1、得意先番号45、得意先番号239及び245-4への営業活動が被告P1による顧客情報の不正使用によるものであると主張しました。
これに対して被告は、原告の代表取締役を退任するに際し,原告の顧客情報が記録された記憶媒体又はこれを印字した紙媒体を持ち出しておらず、尿検査を実施している病院等や医療器具卸業者等をインターネットでピックアップした上で顧客獲得のために網羅的な営業活動を行っており、原告の顧客情報を使用して営業活動をしたわけではない、と主張しています。


そして、裁判所は顧客情報の使用についてまず以下のように示しています。
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被告P1は原告の代表取締役であり,自ら営業も担当していたから,少なくとも主要な顧客についての情報の概要は記憶していたと推認される。そして,被告P1との関係では,このような記憶情報についても秘密管理性があると認められることは前記のとおりであり,また,それらの情報は,被告P1が原告の業務を遂行する過程で接したものであるから,原告から「示された」ものであると認めるのが相当である。したがって,被告P1が,記憶中の原告の顧客情報を不正目的で開示し,又は使用した場合には,営業秘密の不正開示・不正使用を構成するというべきである。しかし同時に,被告P1が,原告の顧客との様々な関係から,原告の顧客であることを離れた個人的な情報としても当該顧客の情報を保有している場合があり得るのであって,そのような個人的な情報を使用した場合まで,営業秘密の不正開示・不正使用ということはできない。また,被告らが原告の顧客に対して営業活動をしたとしても,網羅的な営業方法の結果,その対象者の中に原告の顧客が含まれていたにすぎない場合には,やはり営業秘密の不正開示・不正使用ということはできない。
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上記のように、裁判所は顧客情報の不正使用の判断基準として以下の①~③のことを示していると解されます。
①記憶の中の顧客情報も当該顧客情報が営業秘密であれば、それを不正目的で開示、使用した場合は不競法違反になる。
②原告の顧客であることを離れた個人的な情報として当該顧客の情報を保有している場合には、このような個人的な情報の使用は不競法違反とならない。
③網羅的な営業方法の結果、その中に原告の顧客が含まれていたにすぎない場合は、不競法違反とはならない。

そして裁判所は、被告P1による原告の顧客情報が記録された記憶媒体又はこれを印字した紙媒体を不正開示ないし不正使用したとは認められないとしたものの、被告P1の記憶に残る原告の顧客情報の開示及び使用の可能性について判断を行っています。
具体的に裁判所は「被告らが営業対象としたと原告が主張する個々の顧客ごとに,被告P1の記憶に残る原告の顧客情報を開示及び使用したことによるものであるといえるのか,そうではなく,被告らが主張するような網羅的な営業活動の結果によるものであるとか,被告P1と原告の従前の顧客との間の個人的な関係等によるものであるなどといえるのかを個別に判断する必要がある。」とし、被告による営業活動に対して原告の顧客情報の不正使用があったか否かを、被告の営業先毎に個別に判断しています。

なお、原告は、被告による顧客情報の不正使用として、原告製品であるピー・ポールⅡの使用や販売を把握した上で被告が顧客に対して営業活動を行っていたと主張しています。
従って裁判所は、原告の商品であるピー・ポールⅡを使用していることを把握せずに、被告が営業活動を行った営業先に対しては、網羅的な営業活動又は個人的な繋がりによる営業活動であり、原告の顧客情報を使用していない営業活動であると判断しています。
この結果、裁判所は、得意先番号82及び207について原告の顧客名簿に関する不正開示行為及び不正使用行為に該当すると認めました。

このように、本判決は、被告の記憶に残る営業秘密である顧客情報の不正使用を認めたものです。
記憶に残る営業秘密の不正使用はその立証が非常に困難かと思います。しかし、本判決では、被告との個人的な繋がりによる顧客の情報、網羅的な営業活動によりたまたま混入した顧客の情報を原告主張の営業秘密の不正使用から排除し、そのうえで残った顧客の情報を原告の営業秘密の不正使用であるとした裁判所が判断したものであり、そのアプローチが非常に面白いものだと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年10月14日日曜日

ー判例紹介ー 営業情報に係る営業秘密の帰属

前回のブログでは技術情報に係る営業秘密の帰属を争った判例を紹介しました。

今回は、営業情報に係る営業秘密の帰属を争った判例の紹介です。
この判決は医薬品顧客情報流出事件(大阪地裁平成30年3月5日判決)であり、今年の3月になされたものであり、地裁判決とは言え最近の判決なので参考になるかと思います。

本事件では、被告ら3名(明星薬品を退職して八光薬品を設立及び入社)は、自らが顧客情報を集積していたのであって、明星薬品を退職するまで明星薬品とともに被告ら3名も顧客情報の保有者であったと主張しました。

この主張に対して、裁判所の判断は、以下のようなものであり、当該顧客情報は被告らに帰属せず、明星薬品に帰属していたと判断しています。
・被告ら3名は、明星薬品の従業員として稼働していた者であり、明星薬品の営業として顧客を開拓し、医薬品等の販売を行うことによって明星薬品から給与を得ていた。被告ら3名が営業部員として集めた情報は、明星薬品に報告され、明星薬品の事務員がデータ入力して一括管理していた。
・実際に顧客を開拓し、顧客情報を集積したのは被告ら3名であっても、それは、被告ら3名が明星薬品の従業員としての立場で、明星薬品の手足として行っていたものにすぎないから、被告ら3名が集積した顧客情報は、明星薬品に帰属すべきといえる。


ここで、「営業秘密-逐条解説 改正不正競争防止法」(1990年) には、営業秘密の帰属についての判断基準の例として下記(1)~(3)等の要因を勘案しながら判断することが示されています。
(1)企画、発案したのは誰か
(2)営業秘密作成の際の資金、資材の提供者は誰か
(3)営業秘密作成の際の当該従業員の貢献度

すなわち、本事件では裁判所は、被告三人が顧客情報を集積したことを認めたものの、顧客情報に関して従業員の貢献度(上記(3))を勘案せず、上記(1),(2)に相当すると考えられる事実を勘案してその帰属を判断したと解されます。

このように、営業情報については、たとえ、その作成にあたり従業員の貢献度が高かったとしても、当該営業情報は従業員に帰属するとは認められにくく、その帰属は会社に帰属すると判断されやすいとも思われます。
一方で、技術情報に係る営業秘密については、前回のブログで紹介した判決では、「被告が一人で考案した技術情報は当該被告に帰属」するとの判断がされる可能性を示唆しているとも思われます。

このように、技術情報と営業情報とでは、たとえ当該情報を作成した従業員の貢献度が高くても、その帰属に対する判断が異なる可能性があるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年10月8日月曜日

ー判例紹介ー 技術情報に係る営業秘密の帰属

営業秘密も特許を出願する権利等のように帰属の問題があります。
しかしながら、帰属について争った民事訴訟の判例も少なく判然としないところがあります。
また、営業秘密の帰属について認識が薄い企業も多いのではないでしょうか。

参過去ブログ記事:
 営業秘密の帰属について「疑問点」  
 営業秘密の帰属について「示された」とは?

ここで、技術情報に係る営業秘密の帰属について、一応の裁判所の判断を示した判例を紹介します。この判決では、当該営業秘密は企業に帰属すると判断されています。

この判例は、フッ素樹脂ライニング事件(大阪地裁平成10年12月22日判決)です。営業秘密の判例としては、古い部類に入るものかと思いますが、営業秘密の帰属を理解するにあたり参考になるかと思います。

まず、本事件では、被告A(個人)び被告B(個人)は、原告会社を退職した後に、被告会社の取締役に就任しました。被告会社らは、本件ノウハウに秘密性が認められたとしても、本件ノウハウは被告Bが一人で考案し、実用化したものであるから、その権利は被告Bに帰属すると主張しました。


これに対し、裁判所の判断は次のようなものです。
本件ノウハウの確立等に当たって被告Bの役割が大きかったとしても、それは原告会社における業務の一環としてなされたものであり、しかも、同被告が一人で考案したものとまで認めるに足りる証拠はないから、本件ノウハウ自体は原告会社に帰属するものというべきであり、被告B個人に帰属するものとは認められない。

ここで、裁判所は「同被告が一人で考案したものとまで認めるに足りる証拠はない」と認定していますが、この認定は、裏を返せば、本件ノウハウが被告一人で考案した証拠があれば、本件ノウハウは被告に帰属する可能性を示唆しているとも思われます。
その場合、被告が本件ノウハウを社外に持ち出しても、被告に関しては不競法違反にならない可能性も考えられます。

この判例を考慮すると、少なくとも発明に関しては創出の貢献度の高い従業員に対して、契約によりその帰属を従業員から所属企業に移転させることが必要です。
企業によっては、既に、特許を受ける権利の移転と共に、営業秘密の帰属の移転も就業規則やその他の規則で定めているところもあるかと思いますが、今一度帰属の移転を定めているか否かの確認は必要でしょう。

また、帰属を移転しただけでは、秘密管理性は認められません。そのため、当該従業員に対して、秘密保持契約を交わす等により、その発明に対する秘密管理意思を当該従業員に明確に認識させる必要がります。

なお、契約によって帰属を移転したとしても、当該従業員が当該営業秘密を不正に持ち出しても不競法違反にはならずに、秘密保持契約違反の責任のみを負うと判断される可能性もあります。しかしながら、この従業員を経由して取得した当該営業秘密を使用した他社等は、不競法違反(二条1項八、九号違反)の責任を負うことになります。

今後、人材の流動性はますます高まることは確実です。企業は、営業秘密に対して理解を深め、万が一を考慮した対策を取る必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月11日月曜日

ー判例紹介ー 被告の営業秘密を裁判の証拠資料に用いること

被告の営業秘密を裁判の証拠資料に用いることの是非が裁判所で判断された件がいくつかあります。 過去にもこのブログでそのような判例を紹介したことがあります。 

参考過去ブログ:営業秘密を裁判の証拠資料とすることは”使用”にあたるのか? 

ここで、このような判断がされた別の裁判例を紹介します。
これは、東京地裁平成26年6月20日判決の職務発明対価請求事件です。 事件名のように、「被告の従業員であった原告が,被告に在籍中,被告の業務範囲に属し,かつ原告の職務に属する「選択信号方式の設定方式」に関する発明をし,これの特許を受ける権利を被告に承継させたとして,被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法(以下,単に「法」という。)35条3項に基づく相当の対価の一部として,5億円及びこれに対する催告の日の翌日である平成22年5月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める」という事案です。

本事件において被告は、下記のように主張しています(下線は筆者が付したものです。)。
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(1)原告が提出した書証のうち,甲6の1ないし3(中略)は,いずれも違法収集証拠であるから,証拠の排除を求める。
(2)上記各書証はいずれも,被告が社内でその原本を秘密情報として管理している文書(以下「本件社内文書」という。)の写しであり,原告が被告在職中に入手したものである。原告は,被告の就業規則(31条:退職者の責任,33条:機密漏洩の禁止)及び企業秘密管理規定(22条:退職・退任時の文書の取付け)などに基づき,被告が秘密裡に管理する文書についての社外への持出し,記載内容の開示,漏洩を禁じられていた。また,原告は,退職に当たり秘密保持誓約書に署名押印し,かつ,業務上作成した文書等を会社に返還した旨の退職者チェックリストを提出した。したがって,原告は,本件社内文書の記載内容について法律上秘密保持義務を負っており,かつ本件社内文書の写しを在職中社外に持ち出すことができず,退職時には被告に対し返還する法律上の義務を負担しているのである。
 よって,上記各書証は,原告がそれを所持し提出することが適法であって,上記義務に反しないことを証明しない限り,違法に所持し又は収集された証拠に当たるから,証拠能力を有しないというべきである。
(3)また,被告は営業秘密を厳重に管理し,従業員に対して秘密保持義務を何重にもわたって課し,退職時にも書類を返還済みであるとの誓約書を提出させて,営業秘密管理の実効性を担保しているにもかかわらず,原告は,書類を全て返還済みであるとの誓約書を提出するという詐術により被告を錯誤に陥れてこれらの書類の返還を免れて社外に持ち出したのであり,このような行為は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号にいう不正競争に該当し,また,証拠収集の方法として社会的に見て相当性を欠くことは明らかである。原告がこのような不当な行為により社外に持ち出した営業秘密に係る文書を,職務発明対価請求のためという大義名分の下,自己の利益を図るために使用する行為は違法であり,不競法において営業秘密の保護が規定されている趣旨を没却する。
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これに対して裁判所は、「原告が被告の社内規則や自らの被告に対する書面による明示的な誓約に反して,本件社内文書を被告から持ち出し,あるいは被告に返還せずに,退職後も所持していることは,原告が,被告の従業員として労働契約又は信義則によって負担する,被告に対する法律上及び契約上の義務に違反するものであることは明らかというべきである。」とのように、原告による本件社内文書の所持は被告に対する法律上及び契約上の義務に違反することを認めています。

しかしながら、さらに裁判所は以下のように判断し、被告による証拠排除の申し立てを認めませんでした。
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(3)しかしながら,民事訴訟においては,証拠能力の制限に関する一般的な規定は存在せず,訴訟手続を通じた実体的真実の発見及びそれに基づく私権の実現も民事訴訟の重要な目的というべきであるから,訴訟において当事者が提出する証拠が,当事者間の訴訟外の権利義務関係の下で法律上,契約上若しくは信義則上の義務に違反して入手されたものといい得るとしても,それゆえにその訴訟上の証拠能力が直ちに否定されるべきものであるとはいえず,当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて採取されたものであるなど,それを民事訴訟において証拠として用いることが民事訴訟の目的や訴訟上の信義則(民訴法2条参照)に照らして許容し得ないような事情がある場合に限って,当該証拠の証拠能力が否定されると解するのが相当である。
 本件においては,上記のとおり,原告が本件社内文書を持ち出して,退職後も所持していることは,法律上及び契約上の義務に違反するものであって,被告に対する背信行為というべきものであるが,他方で,本件社内文書は,いずれも原告が被告における自己の業務に関連して接することができ,その業務の過程で入手し得たものと考えられること,それら本件社内文書が不競法2条6項に規定する「営業秘密」の成立要件を充たす文書であるか否かは必ずしも明らかでなく,また,原告は上記社内文書を法律上正当な権利の行使である職務発明対価請求訴訟の書証として利用しているにすぎないこと,本件社内文書のような使用者側の保有する特許権のライセンス契約等に関する社内文書は,職務発明対価請求訴訟において,一般的に請求の基礎となる事実関係の解明に重要な書類であり,職務発明対価請求訴訟は,本来企業と従業員若しくは元従業員との間の訴訟であるから,上記のような社内文書においても,閲覧制限の申し立てをし,当事者間で秘密保持契約を締結したりするなどすれば,上記社内文書が不用意に外部に流出することはないにもかかわらず,本件において,被告は上記社内文書等を書証として提出することを拒んでいること,以上の事情をも考慮すると,原告が被告在職中に入手した本件社内文書を本件訴訟において自己の有利な証拠として用いることは,いまだ著しく反社会的なものであるとまで断じることはできず,民事訴訟の目的や訴訟上の信義則に照らしても全く許容し得ないものとまでいうことはできない。
 よって,原告が提出した本件社内文書に係る書証につき証拠能力がないと断ずることはできず,したがって,被告の証拠排除の申立ては理由がない。
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このように本判例からは、被告の営業秘密であってとしても、原告が法律上正当な権利の行使である訴訟の書証として利用しするにすぎない場合には、当該書証は証拠能力を有しており、たとえ被告が証拠排除の申し立てをしても認められないと考えられます。
また、自社の営業秘密が訴訟の書証とされる被告側は、必ず当該営業秘密に対して閲覧制限の申し立てを行う必要があります。もし、閲覧制限の申し立てを行わないと当該営業秘密は裁判の証拠として開示されたことをもって、非公知性を失っていると判断される可能性が高いと考えられます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年3月26日月曜日

技術情報を取引先へ開示する場合の注意事項

技術系の企業において、自社独自の技術情報を取引先へ開示する場合は多々あるかと思います。この取引先とは、顧客企業であったり、下請け企業であったり、協力企業であったり様々でしょう。
そして、自社独自の技術情報を取引先へ開示することによって、当該技術情報が取引先から他社へ流出したり、取引先で許可なく使用されたりするリスクがあります。自社独自の技術情報を取引先へ開示する企業は、このようなリスクを回避するために、予め特許出願等を行うことで当該自社技術を守ったりします。

しかしながら、特許出願しても権利化が困難な技術やそもそも公開したくない技術は、特許出願を行うことなく、取引先へ開示されたりします。その際には、取引先との間で秘密保持契約を締結する場合が多いでしょう。

しかしながら、秘密保持契約を締結して安心できるわけでは全くありません。たとえ、秘密保持契約を締結したとしても、当該技術情報が取引先から漏えいすることは多々あります。
前回のブログで紹介した営業秘密使用差止等請求事件(東京地裁平成29年7月12日判決、知財高裁平成30年1月15日)もそのような事例の一つです。

参考過去ブログ:
他社が秘密としている技術情報を入手した場合について(不競法2条1項8号)
不競法2条1項8号に関する興味深い判例



個人的には、上記判決は非常に重要だと思っています。
まず、この判決で驚いたことは、「本件各文書のConfidentialの記載のみをもって,被控訴人において,本件各文書の取得に当たって,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務があったとまではいえない」という裁判所の判断です。この判断は、表現は異なるものの、地裁の判断を支持したものです。
すなわち、通常の営業活動で「マル秘」マーク等の秘密管理意思を伺わせるような記載がある他社の情報を取得したとしても、それだけをもってして取得企業は「重大な過失」を犯したことにはならないようです。

このことは、営業秘密保有企業にとっては当惑することかと思います。
何せ、上記判決に係る事件では、営業秘密とする各文書の開示先である取引会社と秘密保持契約を交わした上に、各文書に「Confidential」との記載をしているわけです。このため、原告企業は、当該文書を取得した他社(被告企業)が当該文書を不正開示行為されたものである考えることは当然であるとも思えます。
しかしながら、裁判所は「Confidential」との記載のみでは、当該文書を取得した他社は、その取得に「重大な過失」は無いとの判断です。

では、営業秘密保有企業は、どうすればよいのでしょうか?
営業秘密の開示先企業と秘密保持契約を交わしたところで、当該契約が守られる確証はありません。もし、当該営業秘密が開示先企業から漏えいしたとしても、現実的には、契約不履行を追及することは難しいかもしれません。特に、開示先企業が営業秘密保有企業の顧客である場合はなおさらです。

ここで、裁判所は「本件各文書のConfidentialの記載のみをもって」と述べています。では、「のみ」ではなかったらどうでしょうか?
例えば、「Confidential」と共に、「本文書は●●年●●月に秘密保持契約を締結したうえで、A社からB社へ開示された文書です。」とのような注意記載がされていたらどうでしょうか?
流石に、このような他社の文書を取得した企業は、上記判決でいうような「不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務がある」と言えるのではないでしょうか?
裏を返すと、ここまでの記載をしないと、営業秘密を取得した他社に対して「重大な過失」を問えないかもしれません。

しかしながら、このような注意記載をしたとしても、当該営業秘密を漏えいさせる者が当該記載を削除して、他社へ漏えいする可能性も考えられます。例えば、当該注意記載を余白部分に行った場合は、デジタルデータを加工することによって簡単に当該注意記載を消すことが可能かと思います。注意記載がない営業秘密を取得した他社は、やはり「重大な過失」はないとなるでしょう。

そのようなことを防ぐために、文書の内容に重なるように「透かし」によって上記注意記載を行い、当該記載を悪意を持って消去できないようにするべきではないでしょうか。
当該注意記載と文書の内容とが重なっていると、当該注意記載を消そうとする場合には、文書の内容の一部も消してしまう可能性が高いかと思います。また、文書の内容の一部を消さないように、当該注意記載を消すことはそれなりの手間がかかるでしょう。
本判決が出た以上、このような対応を行わないと営業秘密を取得した他社に対して、「重大な過失」を問えない可能性が高いかと思われます。

また、上記のような注意記載がなされた他社の文書等を取得した企業は、「不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務がある」ということになります。
もし、この「注意義務」を果たさない場合、当該企業は不正競争防止法2条1項8号違反で責任を問われる可能性が生じます。
従って、もし、上記注意記載のような表記のある他社の文書等を第三者から開示された場合、当該文書の取得をその場で断って取得しない等の対応が必要になるかと思います。

一方で、秘密管理意思を示すような記載すらない他社の情報については、それが重要な情報であっても、その取得は不正競争防止法2条1項8号でいうところの重大な過失があったと判断される可能性は低いかと思います。

このように、不正競争防止法2条1項8号における「重大な過失」について、今回の判決で指針のようなものは得られたかと思いますが、営業秘密の保有者の立場、他社の営業秘密の取得者の立場から考えさせられることが多々あるかと思います。

2018年3月23日金曜日

他社が秘密としている技術情報を入手した場合について(不競法2条1項8号)

企業活動を行っていると、他社が秘密としている可能性のある情報を手に入れる場合があります。
そして、手に入れた他社の情報が営業秘密である場合、不正競争防止法2条1項8号違反となり、不正行為となる可能性があります。

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不正競争防止法2条1項8号
その営業秘密について不正開示行為(・・・)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
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実際に、不競法2条1項8号違反となる場合は、例えば他社からの転職者が転職企業で当該他社の営業秘密を開示し、当該転職企業が当該営業秘密を使用する場合です。

私は他社の営業秘密の流入は、他社の特許権の実施と同様に十分に注意を要することだと考えています。もし、流入した他社の営業秘密を使用等すると、不競法2条1項8号違反となり、損害賠償や使用の差し止めとなる可能性があるためです。

ところが、企業は、転職者による他社の営業秘密の持ち込みだけでなく、通常の企業活動によっても他社の営業秘密と思われる情報を入手する場合があります。
そのような事例を争った判例が、東京地裁平成29年7月12日判決の営業秘密使用差止等請求事件です。

参考過去ブログ:不競法2条1項8号に関する興味深い判例

本事件は、原告が台湾企業及び中国企業に対して「CONFIDENTIAL」との記載がある本件文書を秘密保持契約を締結して開示したにもかかわらず、被告が何らかの方法で当該本件文書を入手し、特許権侵害訴訟の証拠として提出したので、被告による本件文書の取得・使用は不競法2条1項8号違反であると原告が主張したものです。すなわち、本事件は、不競法2条1項7号違反等は伴わずに、不競法2条1項8号違反単独で争われています。
そして、本事件は、地裁判決において被告の行為は不競法2条1項8号違反ではないと裁判所によって判断されました。地裁判決の詳細は、上記過去ブログをご覧ください。


その後、原告が控訴することで本事件は知財高裁で争われ、その判決が平成30年1月15日になされました。結論から述べると、知財高裁でも一審が支持され、控訴人(一審原告)の敗訴となっております。

以下が知財高裁判決で私が重要と考える内容です。
知財高裁判決では、不競法2条1項8号における「重大な過失」を下記のように定義しています。
「不競法2条1項8号所定の「重大な過失」とは,取引上要求される注意義務を尽くせば,容易に不正開示行為等が判明するにもかかわらず,その義務に違反する場合をいうものと解すべきである。」

そして、上記「注意義務」について本知財高裁判決では、「被控訴人が,本件情報の記載された本件各文書を取得するに当たって,本件各文書の内容がそれを被控訴人が自社の製品に取り入れるなどした場合に控訴人に深刻な不利益を生じさせるようなものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務が発生することを根拠付ける要素の1つとなり得る。これに対し,本件各文書が通常の営業活動の中で取得されたものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務の発生を妨げる事実に該当すると解される。」(下線は筆者による)と述べています。

すなわち、秘密情報の保持企業を秘密保持企業とし、当該秘密情報を取得した企業を取得企業とすると、以下のようなことになると考えられます。
1.秘密情報の内容が、当該秘密情報の取得企業が自社の製品に取り入れるなどした場合に秘密保持企業に深刻な不利益を生じさせるようなものであることは、取得企業に対して不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務が発生する。
2.秘密情報が取得企業の通常の営業活動の中で取得されたものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務の発生を妨げる。

本事件は、上告の有無は今のところ不明ですが、これが確定するとこの知財高裁の判決は「重大な過失」に対する重要な規範になり得るかと思います。

さらに、本知財高裁判決において裁判所は「被控訴人が,本件各文書を取得するに当たり,本件各文書のConfidentialの記載以外に,本件各文書の保有者から,本件情報を秘密情報として扱うように指示されたり,秘密保持契約の締結を求められたり,あるいは,報酬や利益と引換えに本件各文書を得たなど,本件情報が秘密情報であることを疑うべき事実があったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件各文書のConfidentialの記載のみをもって,被控訴人において,本件各文書の取得に当たって,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務があったとまではいえない」とも述べています。

すなわち、取得した他社の秘密情報に「Confidential」の記載があったとしても、それのみをもって、取得企業に当該秘密情報が不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き、取引上の注意義務を生じさせるものではない、と本知財高裁判決では判示されています。
この判断は、営業秘密が漏えいした企業にとって、相当厳しいものだと思えます。

さらに、上記「2.」に関して控訴人(原告)は、「被控訴人が本件各文書の入手ルートを明らかにできないと主張していることから,本件各文書が通常の営業活動によって取得されたものではないことは明らかである」とも主張しています。
これに対して、裁判所は「被控訴人が本件各文書の入手ルートを明らかにしないことをもって,本件各文書が通常の営業活動によって取得されたものではないことが推認されるとはいえない。」と判断しています。
このことは、他社の営業秘密を何らかの方法で取得した被告企業は、裁判においてその入手ルートを開示して積極的に当該営業秘密の取得が通常の営業活動によるものであることを主張立証する必要はないようです。当然ですが、入手ルートが通常の営業活動でないことは、原告側が立証しなければならず、このことは原告にとって非常に困難な事ではないでしょうか。

ちなみに、本知財高裁判決では、上記「1.」に関して「短尺ランプの本数については,仮に一定の有用性が認められるとしても,被控訴人に知られてしまうだけで控訴人が深刻な不利益を被る情報とまではいえず,控訴人の主張は採用できない。」と判断し、「1.」に関する注意義務の発生を認めていません。


以上のことから、本知財高裁判決をかみ砕くと、他社の秘密情報を取得した企業は、たとえ当該情報に秘密管理を示す簡便なマークが記されていても、当該秘密情報を自社が使用することで他社に深刻な不利益を生じさせないし、当該秘密情報が通常の営業活動で取得されたものであれば、「重大な過失により知らないで営業秘密を取得」したことにはならない、ということかと思われます。


本判決によって、他社の秘密情報を取得した企業にとっては、不競法2条1項8号の適用範囲がより明確になり、他社の秘密情報を取得が違法行為であるか否かの判断が行い易くなるかと思われます。
一方で、通常の営業活動によって営業秘密が他社に渡ってしまった場合、当該営業秘密の保持企業は、当該他社に対して不競法2条1項8号単独で違法行為であると主張しても、そのための要件が厳しく、違法行為の主張が認められ難いとも思えます。

2017年12月28日木曜日

不競法2条1項8号に関する興味深い判例

地裁の判決であるものの、不正競争防止法第2条第1項第8号に関する興味深い判決があります。

なお、不競法2条1項8号は下記のような条文です。
「その営業秘密について不正開示行為(・・・)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為」

ここで、興味深い判決とは、東京地裁平成29年7月12日判決の営業秘密使用差止等請求事件です。

この事件は、被告が原告の営業秘密である本件情報につき、不正開示行為であること若しくは同行為が介在したことを重大な過失により知らないで取得し、使用するなどしたので、被告の上記行為は、不競法2条1項8号所定の不正競争に該当するとして、同法3条1項に基づく本件情報の使用及び開示の差止め、同条2項に基づく本件情報が記録された文書及び記録媒体の廃棄、並びに同法14条に基づく謝罪広告の掲載を求める事案です。

本件情報である本件文書1,2は、各丁に「CONFIDENTIAL」との記載があり、原告製品の中国での販売について代理店契約を締結していた台湾企業に対し、中国企業である●●向けの資料とし、原告が電子データをメールで送信しています。
そして原告と台湾企業との代理店契約には秘密保持条項が設けられており、さらに、原告は、本件各文書の開示に先立ち、台湾企業及び中国企業との間でも秘密保持契約を締結していました。

なお、被告は、平成27年に原告製品の製造、販売等をすることが被告の特許権の侵害に当たるとして、原告を相手方とする2件の特許権侵害訴訟を提起し、仮処分命令申立てをし、原告製品の動作、構造等を特定する証拠又は疎明資料として、本件各文書を裁判所に提出しています。

そして、原告は、「本件各文書を秘密保持契約を締結した取引先にしか開示していないから、これらを被告が取得する過程で、守秘義務違反による不正開示行為が介在したことは明らかであるところ、被告は原告と競業関係にあり、自社での営業秘密管理体制に照らし、また,本件各文書のConfidentialの記載から、本件各文書の取得時に不正開示行為を認識することは容易であったはずであるから、被告には,不競法2条1項8号所定の重大な過失があり、同号所定の不正競争が認められる」と主張しています。

要するに、原告は台湾企業及び中国企業に対して「CONFIDENTIAL」との記載がある本件文書を秘密保持契約を締結して開示したにもかかわらず、特許権侵害訴訟の証拠として被告が本件文書を提出したので、被告による本件文書の取得・使用は不競法2条1項8号違反であると主張しているようです。

被告が取得した本件文書を特許権侵害訴訟の証拠として提出することが営業秘密の使用にあたるか否かはさておき、本件文書は「CONFIDENTIAL」との記載があり、通常では手に入らないと思われる競合他社の情報であるため、被告による本件文書の取得は、「不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、」に該当すると考えることは当然であるととも考えられます。


では、裁判所の判断はどうだったのでしょうか?

まず、裁判所は結論として、「被告が本件各文書を取得する過程で不正開示行為が介在したと仮定したとしても,以下のとおり,被告が不正開示行為であること又は不正開示行為が介在したことを重大な過失により知らないで本件各文書を取得したと認めることはできないから,被告に不競法2条1項8号所定の不正競争は認められない。」としています。
このように今回の事件では、被告による原告の本件文書の取得は「不正開示行為が介在したと仮定したとしても」不正競争は認められないとのことです。
この判決は、すごく重要な判決だと私は思います(地裁ですが)。

そして、この主な理由は以下のような通りです。下線は筆者が付しています。
「(1)・・・本件文書1は,原告製品の製品概要,仕様等が記載された16丁の書面であり,また,本件文書2は,表紙はなく,原告製品の露光に関する内容(光源の配置,露光量に関するシミュレーション等)が記載された4丁の書面であって,いずれも原告が中国企業に対して原告製品を販売する目的で台湾の代理店及び中国企業に提供したものと認められる。また,その内容も,被告が自社の製品に取入れるなどした場合に原告に深刻な不利益を生じさせるようなものであるとは認められない。そして,被告は,原告の競合企業であり,同様の営業活動を行っていたものであるから,被告が営業活動の中で原告が営業している製品の情報を得ることは当然に考えられるのであり,その一環として,本件各文書を取得することは不自然とはいえず,被告が通常の営業活動の中で取得することは十分に考えられるものである(なお,原告は,競合他社の情報について開示を受けること自体が異常事態であり,競争者が少ない光配向装置メーカーの業界では殊更異常と認識すべきであるとも主張するが,競争者が少ないからこそ,他社の製品に関する情報に接する機会が多いという側面も考えられるのであるから,原告の上記主張は,直ちには採用することができない。
(2)また,原告と被告が競業関係にあるとしても,原告が取引先との間で本件各文書に関する秘密保持契約を締結したか否か,本件各文書に記載された内容が取引先の守秘義務の対象に含まれるか否かについて,被告が直ちに認識できたとは認められないし,本件各文書のConfidentialの記載をもって,直ちに契約上の守秘義務の対象文書であることが示されているものともいえない。

この判決で私が重要と思う個所に下線を付したのですが、重要なことは要するに、
(1)競合企業の営業秘密と思われる情報を取得することは不自然ではなく、通常の営業活動中で取得することが十分に考えられる。
(2)「CONFIDENTIAL」との記載があるからといって、それが直ちに守秘義務の対象文書であることが示されているものとはいえない。
ということでしょうか?

上記(2)が特に重要かと思います。確かに「CONFIDENTIAL」や「社外秘」というような記載をその重要度にかかわらず企業は付けたがるかと思います。そのため、このような記載のみをもってして、他社の営業秘密とすることはできないとする判断は妥当かと思います。
そして、(1)のように、そのような競合他社の情報を入手することは十分に考えられることです。

そうすると、原告は、被告の行為が不競法2条1項8号に該当することを主張するのであれば、「不正開示行為が介在したこと」を立証しなければならないということでしょう。

ここで、営業秘密に関する訴訟の場合、多くは不競法2条1項7号と共に8号に該当することを原告は主張します。例えば、原告の元従業員が被告企業に転職し、その被告企業で元従業員が営業秘密を開示し、被告企業がその営業秘密を使用するといった場合です。
この様な場合は、営業秘密の流出ルートが明確であるため、不競法2条1項8号における「不正開示行為が介在したこと」の立証は説明するまでもなく容易でしょう。
しかしながら、営業秘密の流出ルートが分からない場合、原告にとって「不正開示行為が介在したこと」の立証は非常に難しいのではないでしょうか?
そうすると、他社が自社で営業秘密管理されていた情報を取得したという事実のみをもって訴訟を提起すること困難かと思います。

以上、上記判決から理解されることは、「CONFIDENTIAL」等の記載があり、他社の営業秘密と思われる情報を取得したからといって、それのみをもって即、不競法違反となる可能性は低い可能性が有るということです。

しかしながら、やはりこのような他社情報の取り扱いには注意するべきでしょう。
競合他社の営業秘密の取得が「不正開示行為が介在したこと」を立証する人物が現れるかもしれません。
例えば、当該他社に転職した自社の元従業員が証人になるかもしれません。
現在の雇用の流動性を鑑みると十分に考えられることかと思います。
そのような場合、不競法2条1項8号のみの営業秘密の不正取得・使用が立証さfれてしまうかもしれません。

なお、上記判決において、下線を付した「その内容も,被告が自社の製品に取入れるなどした場合に原告に深刻な不利益を生じさせるようなものであるとは認められない。」との判断は重要なのかもしれませんが、私にはどのように解釈すればよいか今一つよくわかりません。
これは、暗に本件文書の有用性がない又は低いと裁判所は判断しているのでしょうか?そうであるならば、本件文書は営業秘密でないとの判断になるかとも思いますが・・・。

2017年12月12日火曜日

特許権侵害と営業秘密の漏えいにおける個人の責任の違い

不正の目的で営業秘密を流出させ、その営業秘密を流出先企業が使用した場合、その営業秘密を流出させた個人も責任を問われる場合が多々あります。
これは、営業秘密が技術情報である場合、特許権侵害と比較するとかなり異なることです。

例えば、転職者が前職企業の営業秘密を持ち出し、転職先企業で開示し、転職先企業がこの営業秘密を使用した場合、この転職者は民事的責任及び刑事的責任を問われる可能性があります。民事的責任としては、転職先企業と共に営業秘密を流出させた個人が高額(数千万円から億単位)な損害賠償を請求される可能性もあります。また、これとは別に刑事告訴された場合、実刑となる可能性もあります。

一方、転職者が前職企業が権利者である特許権を転職先企業に教え、転職先企業がこの特許技術を使用しても、この転職者は民事的責任及び刑事的責任を問われる可能性はほぼないでしょう。
まれに、特許権侵害においても個人が被告となり損害賠償請求の対象とされる場合があるようですが、そのような場合は侵害行為を行った企業の代表取締役であったり、個人事業主である場合のようです。
そして、特許権侵害においては、刑事事件になることはまずありません。


特許権侵害が刑事事件とならない理由は、特許制度に無効審判があるためのようです。すなわち、特許権の侵害があっても、無効審判によって当該特許権が無効となった場合、その侵害行為=侵害事件そのものがなかったことになるので、警察が特許権の侵害を刑事事件として取り扱い難いということのようです。
一方、営業秘密に関しては、漏洩された情報が営業秘密の3要件を満たしている場合には、その事実がその後覆る可能性は低いと考えられ、そもそも営業秘密の領得等の行為が窃盗等に類する犯罪行為であるため、警察も刑事事件として取り扱い易いようです。

このように、例えば同じ技術を営業秘密とした場合と特許権とした場合とでは、その侵害が生じた際における個人の責任が全く異なります。

そもそも、特許権侵害は、当該特許権の内容を個人が他社に教えることはそもそも違法ではなく、特許権の侵害行為は個人だけで行う場合が少なく、企業として行う場合がほとんどです。一方、営業秘密の漏洩は、当該営業秘密を個人が他社に教えることも違法であり、秘密管理がなされているために、その漏洩を行った個人が特定されるからでしょう。営業秘密を漏えいさせた個人を特定できたのであれば、被害企業がその個人に法的責任を負わせることは当然のことと思われます。

以上のように、特許権侵害で個人、特に一会社員の責任が追及される可能性はほとんどないと考えられる一方、営業秘密の漏えいに関しては個人の責任が追及される可能性があります。
もし、営業秘密の漏えいの法的責任を特許権侵害と同じように考えている人がいたら、要注意です。

2017年8月7日月曜日

営業秘密における民事訴訟と刑事訴訟との関係

前回のブログでも書いたように、最近では営業秘密の漏えい元企業が刑事訴訟の後に民事訴訟を起こすという流れがあります。

逆の場合は少ないかと思いますが、例えば東芝とSKハイニックスとの間で起きた半導体製造方法の漏えい事件は、東芝がSKハイニックスに対して民事訴訟を起こした後に、情報漏えいした者(犯人)を刑事告訴しているかと思います。

刑事訴訟の後に民事訴訟を起こした事件として下記のものがあります。
日本ペイント事件
 日本ペイントの営業秘密(塗料「水性エンケース」の情報をUSBに複製)を持ち出したとして平成28年2月16日逮捕

自動包装機械事件
 原告会社の元従業員4人が競合他社へ営業秘密(自動包装機の設計図)を持ち出して転職。営業秘密の漏えい事件で初めて被告会社に刑事罰が科された事件
 被告人4名、懲役1年2ヶ月~2年6ヶ月(執行猶予3年又は4年)、罰金60万円~100 
 被告会社 罰金1400万円(横浜地判平成28.1.29)

エディオン営業秘密事件
 原告会社(エディオン)の元部長(被告)が転職先の上新電機に営業秘密(リフォームに関する商品仕入れ原価や粗利のデータ等)を漏えい。
 懲役2年(執行猶予3年)、罰金100万円(大阪地判平成27.11.13)



このように、刑事告訴と民事訴訟をセットにするパターンが増えた背景には、転職に伴い営業秘密を漏えいする事件が増加したからではないでしょうか。
刑事告訴されて有罪が確定した事件の一覧を参照すると、以前は売却する目的で顧客情報や技術情報を持ち出しした事件が多かったようですが、近年は転職に伴い営業秘密を転職先に持ち出す時間の割合が増加していると思います。
営業秘密の売却では、売却先が名簿業者であったりすると、そもそも名簿業者の企業規模も小さく、既に存在しなくなっている場合もあったでしょうから、高額な損害賠償の請求や営業秘密の使用の差し止めにあまり意味がないと思われます。
一方で、転職先企業に営業秘密を漏えいさせた場合は、その転職先企業で営業秘密を使用することも想定され、かつ高額な損害賠償に対する支払能力もあるでしょう。
こういう背景から、刑事告訴と民事訴訟とがセットになるパターンが増えたとも考えられます。

また、前回のブログでは刑事告訴を先に行うメリットとして、漏えい元企業のメリットについて述べましたが、刑事告訴を先に行うメリットは、転職者等を介して営業秘密が意図せずに流入した企業にもあると考えられます。

例えば、日産自動車の元従業員が日産自動車の営業秘密を転職先であるいすゞ自動車に持ち込んだ例があります。
この場合、いすゞ自動車は、日産自動車の営業秘密を使用したと疑われる立場にあります。
しかしながら、刑事事件の取り調べの過程において、いすゞ自動車において営業秘密の使用はなかったことが分かったようです。

参照記事:http://www.asahi.com/articles/ASJB0513VJB0ULOB015.html

刑事事件においてそのような判断がなされたのであれば、日産自動車もいすゞ自動車に対して民事訴訟を提起する可能性は相当低いでしょう。
もし、日産自動車が民事訴訟を先に提起した場合、いすゞ自動車は日産自動車の元従業員と共に被告の立場として自らの潔白を立証する必要があったでしょう。
すなわち、先に日産自動車が先に刑事告訴をし、それが確定したとしたことにより、いすゞ自動車は民事訴訟において被告となることを回避できたとも考えられます。
このように、営業秘密が意図せずに流入した企業は、刑事事件となった場合には、自らの潔白を証明するためにも、警察に対しては協力的な態度で臨むに限ると思われます。

2017年8月3日木曜日

日本ペイントが菊水化学に対して民事訴訟を提訴

先月、営業秘密の漏えいに関して日本ペイントが菊水化学で民事訴訟を提訴したようです。
日本ペイントのプレスリリース
産経ニュース

この事件は、日本ペイントの元執行役員が菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出し、菊水化学で開示・使用したというものです。
この元執行役員は既に逮捕・起訴されています。
産経ニュースを参照すると、日本ペイントは菊水化学と元執行役員に対して約9億6000万円の損害賠償と12製品の製造・販売の差し止めを求めているようです。

ちなみに、このニュースが報じられたのは7月15日(土)であり、週明けの株式市場において菊水化学の株価は前日終値447円であったものが435円に下がっています。下落率は大きくないもののこの日の出来高は42,300であり、7月14日の出来高が12,100であることやその前後日の出来高を鑑みると、この報道が悪材料として株価にも影響を及ぼしているとも考えられます。
・菊水化学の株価時系列
なお、菊水化学に転職した元執行役員が逮捕されたとの報道がされたときは、菊水化学の株価は前日460円(2016年2月16日)であったものが当日405円(2016年2月17日)とのように12%も下落しており、株価にもかなりの影響を与えています。


このように、最近の営業秘密関連の訴訟の特徴の一つに、営業秘密を漏えいさせた者(犯人)を刑事告訴した後に、その犯人と共に営業秘密を使用した者(転職先企業)に対して民事訴訟を行う、という傾向があります。
これは、請求人(営業秘密の漏えい元企業)にとって、営業秘密の漏えいの立証を警察側が行ってくれるというメリットがあると思われます。すなわち、刑事訴訟において営業秘密の漏えいの事実及び犯人が確定(ほぼ確定)すると、民事訴訟ではその争いを略行うことなく、損害賠償請求や差止請求の争いのみとなることが期待できます。
特に、営業秘密の訴訟では、秘密管理性、有用性、非公知性の有無が大きな論点になりますが、刑事手続きの段階でそれが認められているので、漏えい元企業は民事訴訟に関して時間及び費用の大幅な削減が期待できると思われます。
これは、漏えい元企業にとって大きなメリットであると考えられ、営業秘密の漏えい元が刑事告訴も行う場合には、刑事訴訟の次に民事訴訟という流れができつつあると思われます。