2017年11月1日水曜日

入札情報の漏洩って営業秘密の漏洩ではないの?

営業秘密の事件ではないようですが、埼玉の上尾市長と議長が入札情報を業者に漏洩して逮捕されています。
私も一時期上尾市に住んでいたことがあるのですが・・・。

2017年10月30日 埼玉新聞「<上尾入札汚職>上尾市長、議長ら逮捕 入札情報漏えいの疑い、ごみ処理巡りあっせん収賄も」
2017年10月30日 朝日新聞 「埼玉・上尾市長と議長を逮捕へ 入札情報漏洩の疑い」

この報道を参照すると、「公契約関係競売入札妨害などの疑い」で逮捕ということのようです。この「公契約関係競売入札妨害」とは、下記の規定に基づくものかと思います。
刑法は全く詳しくないので間違っていたらすいません。

<刑法>
(公契約関係競売等妨害)
第九六条の六 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

この公契約関係競売等妨害の罪は、営業秘密漏洩の罪よりも軽いんですね。
営業秘密の漏洩は、「十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金」(不正競争防止法第21条第1項)ですから。


ここで、入札情報は「秘密管理」されているはずのものであり、当然「非公知」です。
そして、行政の事業活動に有用なものでしょうから「有用性」も満たすのではないでしょうか。それとも、「有用性」は企業の事業活動においての有用性であって、行政の事業活動には当てはまらないのでしょうか?

もし、入札情報に「有用性」が認められるのであれば、入札情報は「営業秘密」と考えることができるかと思います。
さらに、入札情報を業者に漏洩する行為は、「不正の利益を得る目的」でしょう。

一方で不競法の営業秘密漏洩に関する刑事罰の規定において少々気になる文言があります。
例えば、不正競争防止法第21条第1項第5号では、この罪の主体が「営業秘密を保有者から示された役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、幹事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。次号において同じ。)又は従業者であって、」とあります。
この主体は、「経済産業省 知的財産政策室 編 逐条解説 不正競争防止法」を参照しても、やはり企業の役員や従業者等を対象としているようです。

そう考えると、営業秘密の漏洩の罪は、行政の長等には適用できないのでしょうか?
また、上述したように、営業秘密における「有用性」は行政の事業活動には当てはまらないのでしょうか?
ちなみに、大学に対しては、本ブログ記事「大学等の公的研究機関における秘密情報の管理」でも挙げているように、経済産業省がハンドブックを作成しているので、営業秘密は大学においても適用されると考えられます。

しかしながら、行政も入札情報等、営業秘密と考えられる情報は多々有しているとも思われます。
このような情報を行政がどのようにして守るのか?守っているのか?
行政の秘密情報の漏洩に対しては、現行の他の法域で網羅的に守ることができているのか?
行政の秘密情報は、不競法でいうところの営業秘密として守ることはできないのか?

行政が有する情報の漏洩は、場合によって国民の生活に直結するかもしれません。
営業秘密に関連して、行政が管理している情報の在り方を考えてみても良いのかもしれません。

2017年10月30日月曜日

転職者から他社の営業秘密を取得すること

私は弁理士や異業種の方と交流する席で、よく営業秘密の話をします。
これにより、営業秘密の話題には多くの人が興味を持っていることが分かる一方、
多くの人が営業秘密について十分に理解していないことも分かります。

営業秘密は、言葉としては多くの人が聞いたことがあるでしょうが、それを満たすための3要件や刑事罰の規定等、専門的なことが深く関わってくるため、多くの人が十分に理解していないことは当然のことだと思います。
だからこそ、ビジネスチャンスがあるのだと思うのですが。

営業秘密について話すと時々驚かれること、それは「転職者が前職の営業秘密を転職先に持ち込んではいけない」ということです。
すなわち、競合他社から転職者を受け入れるということの目的に一つには、その競合他社が保有している秘密情報を取得することもあるのではないかということです。

確かに、そのような目的意識を持つ企業もあるでしょう。
その結果、刑事事件になり転職者の受け入れ企業も刑事罰の対象となった事件が、「過去の営業秘密流出事件」にも挙げている<自動包装機械事件(2015年)>です。

この事件は、被告企業が、競合他社の元従業員4人を転職者として受け入れ、この競合他社の営業秘密を持ち出させた事件です。
この事件は、元従業員2人が執行猶予付きであるものの懲役刑及び罰金刑が確定しています。また、この被告企業も1400万円の罰金刑が言い渡されています。
そして、この転職者と転職先企業である被告企業は、競合他社から民事訴訟も起こされています。


一昔前(不競法で営業秘密の刑事罰が規定された平成15年以前)であるならば、転職先企業が転職者に対して、前職企業の営業秘密を持ち込ませるようなことは少なからずあったと思います。
しかしながら、現在では転職者を介した不正な営業秘密の取得は、その転職者だけではなく、転職先企業も民事的責任及び刑事的責任を追及されることになります。

このように、企業は、転職者を介して競合他社の営業秘密を取得するという目的を持ってはいけません。もし、そのような目的も持っている企業があるならば、即刻やめるべきです。

その一方で注意が必要なことは、取得してはいけないものは「営業秘密」であって、「営業秘密」ではない、転職者が有している技術や知識、経験は、転職先企業が取得してもよいし、当然、転職者も転職先で開示・使用してもよいということです。

このために、転職者は、自身が知っている前職企業の営業秘密を正しく把握し、それを転職先で開示・使用しないことを心掛ける一方で、自身が取得している情報等のうち、何が前職企業の営業秘密でないかも正しく認識する必要があります。

また、転職先企業は、転職者の前職企業の営業秘密を開示・使用しないことに注意を払い、間違っても前職企業の営業秘密の開示・使用を求めてはいけません。もし、転職者が転職先企業からそのようなことを求められたら、それが犯罪であることを転職先企業に説明し、絶対に開示等してはいけません。万が一、転職先企業の求めに応じて転職者が、前職企業の営業秘密を開示等すると、逮捕される可能性もあるかもしれないからです。

以上のように、一昔前と現在とでは、営業秘密に対する考え方、法整備が異なっています。
このことを転職者と企業は正しく認識すべきであると思います。それが結果的に、転職者自身や転職先企業自身を営業秘密に関するトラブルから守ることになります。

2017年10月27日金曜日

営業秘密に関する社員教育を重要と考える理由

私はこのブログにおいて営業秘密に関する社員教育の必要性について触れています。
多くの企業において、企業が有する秘密情報の漏洩禁止や取り扱いに関する教育等は行っているようですが、営業秘密に関する法的な知識等の教育は行っていないところも多いようです。

ここで、下記表は営業秘密を不正の目的で開示・使用したとして刑事罰を受けた事件を示したものです。これは、何度か本ブログでも挙げているものです。


また、下記図は、刑事告訴がされたものの、判決には至っていない事件の一部です。



上記表や図を見て皆さんはどう感じるでしょうか?

刑事罰の確定にまで至った事件は、有用性及び非公知性を満たす情報を被害企業が秘密管理していたことで、当該情報が営業秘密として認定され、かつ当該情報に対する従業員等のアクセスログを被害企業が記録していたのでしょう。そうであるから、被害企業は、当該営業秘密の漏洩に気付き、かつ当該営業秘密を漏洩させた犯人を特定できたと考えられます。
すなわち、被害企業は、営業秘密を適切に管理していた企業であり、情報管理を十分に行っていた企業ともいえるかと思います。

しかしながら、「営業秘密管理を適切に行っていたにもかかわらず、なぜ、営業秘密の漏洩を許してしまったのか?」との疑問も浮かびます。
コストや労力を要して営業秘密管理を行ったのにもかかわらず、なぜ、営業秘密が漏洩したのか?そもそも、漏洩させないために、営業秘密の管理を行っていたのではないでしょうか?

その理由は、営業秘密に関する社員教育が十分ではなかったからだと私は考えます。
営業秘密の管理システムは作ったけれども、従業員に対してそのシステムについて十分に説明していなかった、営業秘密に刑事罰があり、実際に懲役刑の判決も出ている、営業秘密の漏洩により得た報酬等は没収されること等を教育していなかったのではないでしょうか?

営業秘密を不正の目的で漏洩させる人たちは、ほぼ100%悪人では無いと思います。
昨日まで、一緒に働いていた同僚、部下、上司であると思います。
そのような人達がなぜ営業秘密を漏洩させて逮捕されるのでしょうか?

その理由は、繰り返しますが、不正の目的による営業秘密の漏洩が犯罪であることを明確に認識していなかったからではないでしょうか?

しかしながら、多くの人が事のことを知らなくてある意味当然だと思います。
営業秘密の漏洩に対して不競法で刑事罰の規定が定められたのは平成15年からです。
つい近年であり、多くの社会人は知らなくて当然です。
しかも、数年毎に法改正があります。

では、従業員に対して、誰が営業秘密の法的知識を教えるのか?
そう、従業員を雇用している企業が行う他ならないと考えます。
営業秘密の管理システムの構築と共に、役員を含む従業員に対して営業秘密に関する教育を行うことによって、営業秘密の漏洩をより確実に防ぐことができると考えます。