<お知らせ>

・パテント誌2023年1月号に、「知財戦略カスケードダウンによるオープン・クローズ戦略の実例検討」と題した論考が掲載されました。

2022年12月19日月曜日

判例紹介:ノウハウの対価請求権

前回のブログでは、ノウハウの保護について判断した裁判例(東京地裁令和3年12月7日判決 事件番号:平30(ワ)38505号・令2(ワ)27948号)を紹介しました。この裁判例によると、ノウハウが法的な保護を受けるためには、有用性や非公知性を有していなければならないとのことでした。

今回は、ノウハウの対価請求に関する裁判例(知財高裁令和3年5月31日判決 事件番号:令2(ネ)10048号)を紹介します。
本事件は、一審被告会社(被控訴人)の従業員である一審原告(控訴人)が、下記①と②についの特許を受ける権利(①について、原告は共同発明者4人のうちの1人であるため、4分の1の持分、②については全部)を被告会社に承継させたと主張して、その対価を請求した者です。
①被控訴人の特許となっているもの(競争ゲームのベット制御方法に関するもの)
②被控訴人の特許となっていないもの(競争ゲームに関するノウハウ)
なお、①については、原審で17万0625円の請求が認容されたものの、②については請求が棄却されています。

ちなみに、被告会社は、下記のように本件ノウハウの特許性を含む価値を否定しています。
❝本件ノウハウは,発明とはいい難い。仮に,本件ノウハウが発明に当たるとしても,対価請求権が認められるためには,特許を受ける権利として新規性及び進歩性等を含めた特許性を備えるものでなければならないが,本件ノウハウは,このような特許性が肯定されるようなものではなく,ノウハウとして秘匿すべき何らの価値もない。❞
次に本事件に対する裁判所の判断です。まず裁判所は、ノウハウの対価請求に対して以下のように、特許性を有する発明出なければノウハウに対して対価を請求できない、としています。
❝本件ノウハウは,特許登録がされていない職務発明として主張されているものであるところ,特許性を有する発明でなければ,これを実施することによって独占の利益が生じたものということはできず,特許法35条3項に基づく相当の対価を請求することはできないと解される。❞

そこで裁判所は本件ノウハウの特許性を判断するために、まず本件ノウハウの特徴を下記のように①から④に分けました。
・特徴① プレイヤー馬について、能力値とは別に、一定の割合でメダル数と相互に換算される活力値と呼ばれる指標を導入。
・特徴② 馬主ゲームにおいて、レースに出走するための消費活力値とレース結果に応じて増加する増加活力値の期待値とを等しくすることにより、馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さが生じないようにする。
・特徴③ 同じレースに複数のプレイヤー馬が出走する場合もあるので、プレイヤー馬の能力値が当初は未確定であることから、各プレイヤー馬の増加活力値,消費活力値及び能力値について、一旦暫定値を用いて計算して必要に応じて数値を再調整。
・特徴④ 活力値は、メダルとして目に見える賞金や出走料とは異なり、プレイヤーに認識されない形で増減され、次回以降の競馬ゲームに影響を与えるように導入することで、ゲーム性を醸成させる。

そして裁判所は、上記特徴①~④について以下のように、特許性はないと判断しました。
・特徴① 活力値の導入は完全確率抽選方式の下で予想ゲームと馬主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計する場合において、必然的に必要となる指標を導入したものにすぎない。
・特徴② 期待値の調整は完全確率抽選方式の下で予想ゲームに馬主ゲームを組み合わせる場合において、前記の課題を解決するために当然に採られ得る手段である。
・特徴③ 活力値の計算方法は複数の未確定の数値を基に確定的な数値を算出しようとする場合の計算方法として、通常よく採られる方法を超えるものではない。
・特徴④ 本件ノウハウの特許性を根拠付ける事情には当たらない。

このように、裁判所は、本件ノウハウは特許性がないとして、その対価請求も認めませんでした。この判断は、前回のブログで紹介した裁判例と同様の判断であると思われます。

しかしながら、上記特徴④は発明の効果を示していると思われるものの、上記特徴①~③の組み合わせは、本当に特許性がないのでしょうか。
特徴①~③の構成要件を一つの組み合わせとして特許出願すると、経験的には特許庁の審査では進歩性が認められ特許査定となる可能性もあるように思えます。
このため、仮に本件ノウハウが特許出願され、特許査定となっていたならば、原告(控訴人)は被告会社の社内規定に沿って裁判を行うことなく何らかの対価が得られていた可能性があったようにも思われます。
すなわち、従業員は自身の発明から対価を得るためには、当該発明をダメ元でも会社に特許出願してもらうという傾向になり得るでしょう。
もし、そうような傾向が強くなると、発明は特許出願して欲しいという開発側の圧力が強くなり、本来特許出願すべきでない発明も特許出願することとなり、企業は適切な知財戦略が構築できなくなるかもしれません。
そのような事態に陥らないためにも、新たな技術を開発した従業員に対しては、特許出願の有無に関係なく、十分な評価を行う体制が必要となるでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2022年12月4日日曜日

判例紹介:ノウハウの保護について

自分の理解としてはノウハウ=営業秘密ではありません。ノウハウは営業秘密よりも広い概念であると考えています。ノウハウは営業秘密のように法的に定義されていないので、ノウハウの保有者が「これが自社のノウハウだ。」と言えば、それは秘密管理されていなくても公知であってもノウハウであると思います。しかしながら、そのようなノウハウが法的に保護されるかどうかは分かりません。

ここで、ノウハウの保護に関して争った裁判例(東京地裁令和3年12月7日判決 平30(ワ)38505号・令2(ワ)27948号)があります。
本事件は、本訴原告(反訴被告)が本訴被告(反訴原告)らとの間で、原告をフランチャイザー、被告会社をフランチャイジーとして、薬局営業に関するフランチャイズ契約を締結しました。
そして、本訴では原告が、フランチャイズ契約において契約終了後の閉店義務及び競業禁止義務が定められていたにもかかわらず被告会社はこれらの義務に反し、本件各店舗を閉店せず、競業する薬局営業を継続していると主張し、被告らに対してフランチャイズ契約における閉店義務及び競業禁止義務に基づき,本件各店舗の営業の差止め等を求めました。
一方、反訴では被告らが、原告はフランチャイズ契約に基づく経営指導支援やノウハウの提供等を行わなかったことなどから当該フランチャイズ契約は公序良俗に反し無効であると主張し、原告に対して不当利得返還請求権に基づきロイヤリティ相当額の返還等を求めました。

このように、ノウハウの保有者は原告であり、被告は当該ノウハウの提供を原告から受けています。なお、原告は当該ノウハウについて、営業秘密との比較で以下のように、ノウハウは広く保護されるべきであると主張しています。このため、原告は、当該ノウハウについて有用性についての自身があまりなかったのかもしれません(秘密管理の対象ともしていなかったのかもしれません。)。このノウハウは、1000頁にも及ぶ各種マニュアルとして被告らに提供されていたようです。
❝保護すべきフランチャイザーのノウハウは,不正競争防止法にいう営業秘密と同様に解する必要はなく,フランチャイズチェーンが展開する事業の営業にとって有用な情報であり,フランチャイザーからフランチャイジーに提供されるものであれば足り,また,ノウハウの有無は,個別に要素を分解して判断すべきではなく,全体として統合されたものとして非公知性や有用性が認められれば広く保護の対象とされるべきである。❞
一方、被告は当然というべきか、保護されるノウハウは営業秘密と同様の水準であると主張しています。
❝ここでいうノウハウは,不正競争防止法で保護される営業秘密に近い水準のものを意味し,当該ノウハウについて,①秘密管理性,②有益性,③非公知性の観点から流出を防ぐ必要が認められると評価できるものでなければならない。❞
また、原告のノウハウは、以下のようなものであり、原告の独自のノウハウともいえるものであったようです。
❝ア 原告によるフランチャイズシステムは,米国において調剤薬局のフランチャイズ展開を業とするMSIと原告との間の本件マスターライセンス契約に基づき,原告が日本国内における独占実施権を得た上で,MSIのフランチャイズシステムによる調剤薬局及びそれに関連するヘルスケア事業についての経営ノウハウと,原告が開発するなどした調剤薬局及びそれに関連するヘルスケア事業のための独自の経営ノウハウを活用して,日本における調剤薬局のフランチャイズを行うことを目指すものであった。・・・
イ もっとも,米国と日本とでは,調剤薬局に関する制度の相違があり,MSIのノウハウをそのまま日本に適用することができなかったことから,原告は,MSIの米国におけるノウハウを,原告独自のノウハウも踏まえて日本の制度の下でも利用することができる形に改変して利用していた。原告は,そのような改変は結局のところ原告独自のノウハウを利用して行われたものと評価できるとの判断に至り,また,一定の出店数を下回った場合にMSIから反則金を課せられることなどから,平成27年7月1日,MSIとの間での本件マスターライセンス契約を,本件商標使用契約に変更した。これによって,原告は,MSIの商標の使用を継続する一方で,MSIのノウハウを使用することはなくなり,本件各契約におけるフランチャイザーの義務の履行についてもMSIのノウハウを使用しなくなった・・・❞

まず、被告らの主張である「フランチャイズ契約は公序良俗に反し無効である」に対して、裁判所は以下のように被告らの上記主張を認めませんでした。
❝・・・調剤薬局においては,保険調剤における薬剤の種類,品質,数量,価格といった提供する商品の主要な部分は,関係法令による規制の下にあり,また,調剤薬局において薬剤を自由に勧めることができるわけでもないから,主要な業務である保険調剤によって提供する商品の部分についてノウハウが影響力を持ち得る範囲は乏しいものといえる。また,前記1(1)アで認定したとおり,保険薬局では,顧客を誘引する方法も制限されているため,顧客の獲得に関するノウハウが成立する領域も制限される。以上のように,調剤薬局についてのフランチャイズ契約については,そのノウハウが成り立ち得る領域が,一般的なフランチャイズ契約と比して,大きく制限されるということができる。
しかし,被告らも自認するように,顧客が利用する調剤薬局を選択するに当たっては,特に門前薬局について,付近の医療機関等との位置関係が重要であるといえるから,調剤薬局の立地の選定等に関するノウハウは成り立ち得るし,また,同じ薬剤を処方するにしても,薬剤師による処方の手際の良さや正確性,顧客に対する接遇の良し悪しなどは顧客の獲得に影響し得るから,この点についてのノウハウも成り立ち得る(前記1(1)イ及びウ参照)。また,調剤薬局の新規開業(立地の選定を含む。),調剤薬局の運営(薬剤の仕入方法,人事,会計等を含む。)及び事業の承継等といった調剤薬局の経営面についてのノウハウは成り立ち得るといえる。以上の点に加え,調剤薬局についてフランチャイズシステムを現に展開し,あるいは少なくとも過去に展開していた調剤薬局が複数存在していることを併せ考慮すれば(甲65ないし甲71,乙12ないし乙15,乙32),調剤薬局においてフランチャイズ契約というものがおよそ成り立たないということはできない。したがって,調剤薬局においてはフランチャイズ契約というものがおよそ成り立たないということを前提として本件各契約が公序良俗に反するとする被告らの主張は,採用することができない。
このように、裁判所は、フランチャイズ契約は調剤薬局であるため、ノウハウが成り立ち得る領域が一般的なフランチャイズ契約と比して,大きく制限されると認定しつつも、当該ノウハウが成り立ち得ること領域も認め、当該ノウハウの提供が無くフランチャイズ契約は公序良俗に反し無効であるといった被告の主張は認めませんでした。すなわち、当該ノウハウは、フランチャイズ契約が妥当であったと言える程度の有用性はあったとの判断のようです。

それでは、原告による被告に対するフランチャイズ契約における閉店義務及び競業禁止義務違反という主張はどうでしょうか。
まず、裁判所は、閉店義務又は競業禁止義務を課す契約条項は、下記のような場合には公序良俗に反し無効になる、と述べています。
❝・・・フランチャイズ契約終了後に,フランチャイジーに対し,閉店義務又は競業禁止義務を課す場合には,独立の事業者であるフランチャイジーの営業の自由や所有権等に対する相当程度の制約が生じることになるから,フランチャイザーのノウハウの流出等による不利益の防止や,フランチャイザーの商圏を維持するための必要性など,フランチャイザー側の利益と,フランチャイジーの営業の自由等の制約の程度など,フランチャイジー側の不利益とを総合考慮した上で,フランチャイジーに対する過度な制約となる場合には,そのような制約を定める契約条項は,公序良俗に反し無効になるというべきである。❞
そして、裁判所は、上記のように顧客獲得等に関するノウハウが成り立ちうる領域は,相当程度制限される、と認定したうえで、以下の理由から、原告には本件各義務条項による保護に値するほどのノウハウがあると認めるには足りない、と判断しました。
❝原告は,前記1(4)及び前記2(2)アないしウでみたとおり,被告会社に対して一定の薬局運営のノウハウを提供していたということはできるものの,その内容は,各種法規制や種々の書籍等に分散している情報や原告のフランチャイズにおいて保有している知見等を集約し,体系化したマニュアルを作成し提供することや,定期訪問などを通じて随時,各種の情報の提供をすることなどにとどまっている。以上でみてきたところによると,原告が提供していたノウハウの内容は,上記のような日本の調査薬局の法制度の下では必然的に,非公知の内容,その時々の顧客のニーズ等の流行に対応した新鮮な内容又は他の調剤薬局との差別化を図り得るような個性的な内容を含むものとはならない面があり,実際にも原告から提供されたノウハウが顧客獲得に当たって果たす役割は相当限定的であったと考えられることからすれば,原告が被告らに提供していた調剤薬局運営のノウハウは,契約期間中にその対価としてロイヤリティを支払う義務を生じさせる程度のものではあったとはいえるものの,本件各義務条項を課すことによってフランチャイズ契約の期間終了後においてもなお一定期間流出を防止する必要があるほどの非公知性ないし有用性を認めることは困難であるというべきである。
このように、原告主張のノウハウはフランチャイズ契約が妥当であったと言える程度の有用性はあったと判断したものの、そのフランチャイズ契約が終了した後にまで保護されるほどの有用性はない、との判断のようです。
何とも微妙な判断のような気がしますが、営業秘密ではないノウハウという視点からすると、妥当なのかもしれません。すなわち、何らかの保護や権利を主張できるノウハウとは、それ相応の価値(有用性)を有している情報に限定されるということなのでしょう。そして、この有用性とは営業秘密で言うところの有用性と同様ということなのかと思います。
一方で、十分な有用性を有するノウハウであれば、それは何らかの権利や保護の対象になり得るのかと思います。そのときは、ノウハウであって、営業秘密ではないため、秘密管理性については特段判断されないのかとも思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2022年11月23日水曜日

判例紹介:営業秘密の不正使用の一例 宅配ボックス事件

営業秘密を所属企業から正当に取得したり、取引先から正当に取得しても、当該営業秘密を「不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示」した場合には、当該営業秘密の侵害とされます(不正競争防止法2条1項6号,7号)。
では、この「不正の利益を得る目的」とは具体的にどういう行為でしょうか。

その例として、宅配ボックス事件を挙げます。この事件は、原告が被告から宅配ボックスの開発・製造の委託を受けたものの、被告が本件新製品の製造を原告に発注するのを取りやめ、原告の営業秘密である本件データを使用して被告製品を製造・譲渡したというものです。
参考ブログ記事:

宅配ボックス事件は、上記ブログで紹介したように、原告が被告に開示した宅配ボックスの3Dデータが営業秘密であると裁判所が認めました。
そして、原告は下記のように被告による本件データを使用して被告製品を製造したことが不競法2条1項7号の不正競争に該当すると主張しました。
❝本件データと被告製品の製造に用いられた図面データ(以下,・・・「実機図面データ」という。)を対比すると,以下のとおり,多くの点で寸法・形状がほとんど一致しており,被告によりその細部が修正されたり,情報が追加されたりしているものの,基本構造はそのまま維持されているものであるから,本件データと実機図面データとの同一性は損なわれていない。このように,被告製品の形状は,本件データが表現する形状をほぼそのまま再現したものであり,本件データと被告製品の製造との間には十分な因果関係があるから,被告製品の製造は本件データの「使用」に該当する。
・・・ 
被告は,本件プロジェクトのビジネス性評価の過程でモックアップ品の製作・評価のみを目的として,原告から本件データを受領したものであり,原告・被告間でのビジネスの可能性がなくなり,その検討が終了した後に,被告が自身の製品の開発,製造に本件データを使用,利用することは,上記目的を逸脱するものであって,被告に費用の削減等の不正な利益をもたらし,また,原告が樹脂製宅配ボックスの製品を市場に出す可能性ないしは利益を侵食するものである。なお,本件プロジェクトが終了した後に,本件データの利用権を被告に許諾するかどうかは原告の自由であり,原告はそのような許諾をしていない。
被告は,あえて,本件データを受領した目的を逸脱し,本件データを使用した被告製品の製造を行い,利益を上げているのであるから,被告による本件データの使用に「不正の利益を得る目的」又は「その営業秘密保有者に損害を加える目的」があることは明らかである。❞

一方で、被告は以下のように、実機図面データについて、本件データにおける基本構造はそのまま維持していることは認めつつ、本件データの使用及び不正の目的を否認しています。
❝実機図面データについて,被告が本件データに基づきこれに変更を加えて作成したこと,本件データから細部が修正されたり,情報が追加されたりしているが,基本構造はそのまま維持されていることは認める。
しかしながら,以下に対比するとおり,本件データと実機図面データとの間には,製品の形状及び寸法において,様々な変更及び追加が存在しており,本件データと実機図面データとの間の同一性は完全に失われている。したがって,被告製品の製造は本件データに基づいて行われたものではなく,本件データの「使用」には該当しない。
・・・
本件データは,本件プロジェクトのビジネス性評価の過程でモックアップ品の製作・評価のみを目的として作成されたものではない。本件データは最終的に被告製品を量産することを目指す過程で,強度等の試験を行うための試作品製造に用いられたものであって,被告製品の量産のために行われたものであり,モックアップ品の作成も被告製品の量産のための過程の一つにすぎない。
本件データは,被告製品の設計データであり,本件プロジェクトの遂行を目的として提供されたものであり,実際に本件プロジェクトの遂行に使用することは,情報を委託された目的に沿った問題のない使用である。
直感的に、被告の主張は無理があるのではないかと思えます。これに対して、裁判所は以下のようにして原告の主張を認め、被告の本件データの使用は不競法違反であると判断しました。なお、下記は本件データ1と実機図面データ1に関する判断ですが、本件データ2と実機図面データ2も同様です。
❝本件データ1と実機図面データ1とは,本体,扉,鍵カバー,側板,天板及びヒンジの各パーツからなるという基本構造が同じであり,後記(イ)の被告が指摘する相違点を除けば,各パーツの寸法及び形状においても概ね一致しているということができ,被告は,本件データ1に基づいて,これと実質的に同一の実機図面データ1を作成したものということができる。したがって,被告が実機図面データ1に基づいて被告製品1を製造することは,本件データ1の「使用」に該当するというべきである。❞
さらに、裁判所は不正の利益を得る目的について以下のように判断しています。
❝被告は,モックアップの作成も被告製品の量産のための過程の一つにすぎず,本件データは被告製品の設計データであり,本件プロジェクトの遂行を目的として提供されたものであるから,これを本件プロジェクトの遂行に使用することは,情報を委託された目的に沿った問題のない使用であると主張する。しかしながら,前記1(10)のとおり,本件新製品のモックアップは被告が製作することが合意されていたものの,証拠(乙28,29,39,40)によれば,本件データが送付された当時において,本件新製品の各部品の製造は原告において行うことが予定されていたと認められるから,本件データを被告が被告製品の製造に使用することについては本件データの使用目的の範囲内であるとはいえない。
 また,前記1(14)のとおり,本件プロジェクトの終了後,原告と被告との間では「設計費・機会損失額」名目での被告の支払義務の有無及び額について合意に至っておらず,原告が本件データを用いた製品の製造を被告に許諾したとの事実を認めるに足りる証拠もない。
以上のように、本事件における不正の利益を得る目的での営業秘密の使用は分かり易いものです。
仮に、取引先から製品の製造・販売の委託を受けたもののそれが取りやめになり、支払いが全くないにもかかわらず、製品データを取引先に勝手に使われることが不正でないとなると、ビジネスの根底が崩れてしまいます。このため、裁判所の判断は当然であると思います。

しかしながら、このような事例は、発注者と受注者との力関係により、少なからずあると思われます。例えば、受注者である中小企業が発注者である大企業に自社の知的財産を勝手に使われるということも少なからずあるようです。
営業秘密の観点から気を付けなければならないのは、受注者となる企業です。もし、本事件と同様のことを行っていたら、営業秘密侵害罪となる可能性があります。営業秘密侵害は民事だけでなく、刑事事件にもなり得ます。もし、自身が当事者であり、取引先の営業秘密であるデータを勝手に使用する許可を部下に与えたりしたら、自身が刑事罰を受ける可能性もあります。
ちなみに、本事件は、当該製品の生産等の差し止め、製品の破棄、そして610万1962円の損害賠償を求められました。

弁理士による営業秘密関連情報の発信