2017年10月30日月曜日

転職者から他社の営業秘密を取得すること

私は弁理士や異業種の方と交流する席で、よく営業秘密の話をします。
これにより、営業秘密の話題には多くの人が興味を持っていることが分かる一方、
多くの人が営業秘密について十分に理解していないことも分かります。

営業秘密は、言葉としては多くの人が聞いたことがあるでしょうが、それを満たすための3要件や刑事罰の規定等、専門的なことが深く関わってくるため、多くの人が十分に理解していないことは当然のことだと思います。
だからこそ、ビジネスチャンスがあるのだと思うのですが。

営業秘密について話すと時々驚かれること、それは「転職者が前職の営業秘密を転職先に持ち込んではいけない」ということです。
すなわち、競合他社から転職者を受け入れるということの目的に一つには、その競合他社が保有している秘密情報を取得することもあるのではないかということです。

確かに、そのような目的意識を持つ企業もあるでしょう。
その結果、刑事事件になり転職者の受け入れ企業も刑事罰の対象となった事件が、「過去の営業秘密流出事件」にも挙げている<自動包装機械事件(2015年)>です。

この事件は、被告企業が、競合他社の元従業員4人を転職者として受け入れ、この競合他社の営業秘密を持ち出させた事件です。
この事件は、元従業員2人が執行猶予付きであるものの懲役刑及び罰金刑が確定しています。また、この被告企業も1400万円の罰金刑が言い渡されています。
そして、この転職者と転職先企業である被告企業は、競合他社から民事訴訟も起こされています。


一昔前(不競法で営業秘密の刑事罰が規定された平成15年以前)であるならば、転職先企業が転職者に対して、前職企業の営業秘密を持ち込ませるようなことは少なからずあったと思います。
しかしながら、現在では転職者を介した不正な営業秘密の取得は、その転職者だけではなく、転職先企業も民事的責任及び刑事的責任を追及されることになります。

このように、企業は、転職者を介して競合他社の営業秘密を取得するという目的を持ってはいけません。もし、そのような目的も持っている企業があるならば、即刻やめるべきです。

その一方で注意が必要なことは、取得してはいけないものは「営業秘密」であって、「営業秘密」ではない、転職者が有している技術や知識、経験は、転職先企業が取得してもよいし、当然、転職者も転職先で開示・使用してもよいということです。

このために、転職者は、自身が知っている前職企業の営業秘密を正しく把握し、それを転職先で開示・使用しないことを心掛ける一方で、自身が取得している情報等のうち、何が前職企業の営業秘密でないかも正しく認識する必要があります。

また、転職先企業は、転職者の前職企業の営業秘密を開示・使用しないことに注意を払い、間違っても前職企業の営業秘密の開示・使用を求めてはいけません。もし、転職者が転職先企業からそのようなことを求められたら、それが犯罪であることを転職先企業に説明し、絶対に開示等してはいけません。万が一、転職先企業の求めに応じて転職者が、前職企業の営業秘密を開示等すると、逮捕される可能性もあるかもしれないからです。

以上のように、一昔前と現在とでは、営業秘密に対する考え方、法整備が異なっています。
このことを転職者と企業は正しく認識すべきであると思います。それが結果的に、転職者自身や転職先企業自身を営業秘密に関するトラブルから守ることになります。

2017年10月27日金曜日

営業秘密に関する社員教育を重要と考える理由

私はこのブログにおいて営業秘密に関する社員教育の必要性について触れています。
多くの企業において、企業が有する秘密情報の漏洩禁止や取り扱いに関する教育等は行っているようですが、営業秘密に関する法的な知識等の教育は行っていないところも多いようです。

ここで、下記表は営業秘密を不正の目的で開示・使用したとして刑事罰を受けた事件を示したものです。これは、何度か本ブログでも挙げているものです。


また、下記図は、刑事告訴がされたものの、判決には至っていない事件の一部です。



上記表や図を見て皆さんはどう感じるでしょうか?

刑事罰の確定にまで至った事件は、有用性及び非公知性を満たす情報を被害企業が秘密管理していたことで、当該情報が営業秘密として認定され、かつ当該情報に対する従業員等のアクセスログを被害企業が記録していたのでしょう。そうであるから、被害企業は、当該営業秘密の漏洩に気付き、かつ当該営業秘密を漏洩させた犯人を特定できたと考えられます。
すなわち、被害企業は、営業秘密を適切に管理していた企業であり、情報管理を十分に行っていた企業ともいえるかと思います。

しかしながら、「営業秘密管理を適切に行っていたにもかかわらず、なぜ、営業秘密の漏洩を許してしまったのか?」との疑問も浮かびます。
コストや労力を要して営業秘密管理を行ったのにもかかわらず、なぜ、営業秘密が漏洩したのか?そもそも、漏洩させないために、営業秘密の管理を行っていたのではないでしょうか?

その理由は、営業秘密に関する社員教育が十分ではなかったからだと私は考えます。
営業秘密の管理システムは作ったけれども、従業員に対してそのシステムについて十分に説明していなかった、営業秘密に刑事罰があり、実際に懲役刑の判決も出ている、営業秘密の漏洩により得た報酬等は没収されること等を教育していなかったのではないでしょうか?

営業秘密を不正の目的で漏洩させる人たちは、ほぼ100%悪人では無いと思います。
昨日まで、一緒に働いていた同僚、部下、上司であると思います。
そのような人達がなぜ営業秘密を漏洩させて逮捕されるのでしょうか?

その理由は、繰り返しますが、不正の目的による営業秘密の漏洩が犯罪であることを明確に認識していなかったからではないでしょうか?

しかしながら、多くの人が事のことを知らなくてある意味当然だと思います。
営業秘密の漏洩に対して不競法で刑事罰の規定が定められたのは平成15年からです。
つい近年であり、多くの社会人は知らなくて当然です。
しかも、数年毎に法改正があります。

では、従業員に対して、誰が営業秘密の法的知識を教えるのか?
そう、従業員を雇用している企業が行う他ならないと考えます。
営業秘密の管理システムの構築と共に、役員を含む従業員に対して営業秘密に関する教育を行うことによって、営業秘密の漏洩をより確実に防ぐことができると考えます。

2017年10月25日水曜日

共同研究における学生による営業秘密の流出と新卒社員による営業秘密の流入

前回のブログ「大学等の公的研究機関における秘密情報の管理」では、学生による営業秘密の流出の可能性についても述べました。

大学と企業との共同研究等において、その大学の学生(学部、修士、博士)及びポスドクが他企業に就職した場合に、共同研究企業の営業秘密を流出させてしまう可能性があると考えられます。
さらに、営業秘密の流出の裏返しとして、学生等が就職した企業において、大学在籍時に取得した他企業の営業秘密を開示、使用する可能性も否めません。

では、どのような対策が必要か?
やはり学生に対する教育が必要かと思います。
多くの学生は、営業秘密の漏洩に対する法的リスク等の知識を十分に有しているとは思えません。
企業に勤めている従業員や役員ですら、そうなのですから・・・。

学生と企業との間で秘密保持契約を結ぶことや、学生から秘密情報を漏洩しない旨の誓約書を得ること等も考えられますが、「大学における秘密情報の保護ハンドブック」にも記載されているように、学生と企業との間で過度な秘密保持契約等を行っても無効となる可能性もあるようです。

また、学生との間で秘密保持契約を結ぶことは、学生に対して秘密保持を実行させるという効果がありますが、秘密保持契約を結ぶことで当該秘密情報を漏洩させた場合に民事的責任、具体的には損害賠償を負わせることもその目的だと思います。

しかしながら、秘密保持契約を結んだ学生が当該秘密情報を漏洩したとしても、企業側はその学生に対して訴訟等により民事的責任を本当に負わせるのでしょうか?

もし、秘密保持契約に基づいて秘密情報の漏洩を理由に学生に対して訴訟を提起し、そのことが報道等されたら、その企業は評判を落とすことになるでしょう。また、秘密情報の漏洩の賠償額は高額になるでしょうから、たとえ勝訴又は和解となっても、資力に乏しい学生に賠償金の支払い能力があるとは思えません。

そうすると、企業が学生との間で秘密保持契約等を行うことの意義があまりないかもしれません。秘密保持契約を行うことは、営業秘密の漏えいに対する抑止力となるかもしれませんが、そもそもその前提としても、学生に対する営業秘密の教育は必要かと思います。


ここで、学生に対する営業秘密に関する教育は、第一に大学側が主体となって行うべきでしょう。
しかしながら、大学による営業秘密の教育が不十分な場合には、企業が共同研究を行う研究室等を対象に営業秘密の教育を直接行うことも検討しては如何でしょうか。そのときに、その研究室における自社の秘密情報(営業秘密)の管理体制の確認等を行ってもよいかと思います。

さらに、新卒社員を入社させる場合にも注意が必要かと思います。
新卒社員が技術系の学生等であれば、在学中に競合他社との間での共同研究に携わっていた学生もいるかもしれません。
そのような新卒社員を介して競合他社の営業秘密が自社に流入する可能性も否めません。
このため、技術系の新卒社員に対して、在学中に他社との共同研究に携わっていたか否かを確認し、場合によっては他社の営業秘密を持ち込まない旨の誓約書を取ることが考えられます。


今後、産学連携による共同研究がより活発化するでしょうから、このように、企業は大学等からの営業秘密の流出、及び新卒採用時における他企業の営業秘密の流入防止を十分に検討する必要があるかと思います。

2017年10月23日月曜日

大学等の公的研究機関における秘密情報の管理

最近、 経済産業省が作成した「大学における秘密情報の保護ハンドブック」なるものを見つけました。
参考:経済産業省「「大学における秘密情報の保護ハンドブック」について

ちなみに、これは下記のガイドラインを全部改訂したものです。
営業秘密管理指針でもそうなのですが、全部改訂されると、過去のガイドラインに記載され、参考になるものもざっくりと削除される場合があります。そこで、過去のガイドラインも列挙します。

大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン 平成16年
大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン 平成18年5月改訂
大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン 平成23年3月改訂

これは、大学だけではなく独立行政法人や国立研究開発法人等の公的な研究機関でも参考になるのではないでしょうか?

大学等での研究の前提として、学会や論文により発表することを前提としたものがほとんどであると思われます。
そういった意味では、最終的には営業秘密はあまり意識し得ないこととも言えます。
発表前の情報は営業秘密として管理すべきかとも思いますが。

しかしながら、近年、産学連携が活発になっていますので、共同研究を行っている企業の秘密情報(営業秘密)が大学等に持ち込まれると思われます。また、研究において企業と共同保有する秘密情報が新たに生じるかと思います。
このため、大学等における営業秘密管理としては、企業等との共同研究において企業等から開示された秘密情報の管理が課題の一つとなり得るかと思います。この課題については、基本的にコンタミの発生を防止するために他の情報と区別して管理する等、企業における営業秘密管理と同じ管理方法によって解決できるものかと思います。


一方で、大学等の公的な研究機関では、企業における秘密情報の管理とは視点が異なる事があるのではないでしょうか。

これに関して、「大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン 平成23年3月改訂」の26ページに「一つの研究室が複数の企業と共同研究を行う場合には、各企業から受け取った情報間でコンタミネーション(情報の混入)が生じる可能性があることから、例えば、企業ごとに共同研究を行う場所を分けるなどの対応をとることが望ましい。」とあります。

公的な研究機関の研究室では、複数の企業と同時に共同研究を行う可能性があると思います。企業においても、同様の可能性はあるかと思いますが、公的な研究機関ではその割合は大きいのではないでしょうか。
このように、複数の企業と同時に共同研究を行う場合、その研究室では、複数の企業の秘密情報を同時に管理しなければなりません。

この様な状況では、その研究室は、秘密情報の管理を相当意識して行わないと、コンタミを引き起こす可能性があります。
最悪の場合、ある企業との共同研究において研究室を介して他企業の秘密情報が混入し、その結果、ある企業へ他企業の秘密情報がその共同研究の成果と共に混入(流入)し、コンタミが生じます。
そして、コンタミが生じた企業は、他企業から秘密情報の流入について警告を受ける可能性があります。もし、コンタミが生じた企業が既にこの研究成果と共に他企業の秘密情報を用いた製品等を製造・販売していたら、その製造・販売も停止しなければならないかもしれません。
その結果、その研究室又は研究機関に対して、刑事事件に至らないまでも、秘密保持義務違反等に基づいてこれらの企業から責任を追及される可能性も考えられます。

このような事態に陥らないように、当該研究室では、共同研究を行っている企業ごとに、データのアクセス管理を徹底し、実験内容等も関係しない研究者(学生)等に可能な限り開示しないようにしないといけません。

しかしながら、大学であれば、学生に対する教育機関という側面もあるため、研究内容や情報を関係しない学生に対して全く開示しない、とはできないかもしれません。
このため、研究室内で開示可能な情報と開示できない情報との区別を明確につけ、それに沿って学生に対する教育等を行うべきかと思います。

学生は、そのほとんどは大学を卒業し、場合によっては研究室で共同研究を行っていた企業の競合他社へ就職するかもしれません。そのときに、その学生が競合他社へ共同研究を行っていた企業の営業秘密を持ち込む可能性は否定できません。そのリスクをどのようにして解消するかが当然課題となります。

さらに、教授や指導教官等も、共同研究を行っている企業の秘密情報を知り得る立場にあります。そして、複数の企業とで共同研究を行っている場合、教授等は、学生に対する指導や研究方針等の立案において、自身の頭の中にある他の企業の秘密情報を不用意に開示しないように常に心掛ける必要があります。
データを示す等しなくても、口頭で話すことも秘密情報(営業秘密)の開示にあたり、その結果、コンタミを生じさせる可能性があるからです。

このように、大学等の公的な研究機関は、秘密情報(営業秘密)の管理について十分な理解と高い意識を最も必要とする組織の一つであると考えられます。

また、研究者にとって秘密情報の管理は、自身の仕事の本質的なものではないため、疎かにしがちかもしれません。しかしながら、共同研究を行っている企業の秘密情報を漏洩させてしまうと、その責任を問われる事態に陥る可能性があります。このため、自信を守るという意味でも、秘密情報の管理は適切に行うべきと考えます。

2017年10月20日金曜日

OSG製品設計データ持ち出し事件

新たな営業秘密流出事件の報道が昨日ありました。

2017年10月19日 JIJI.COM「営業秘密持ち出し容疑=切削工具最大手のOSG元社員を逮捕-愛知県警」
2017年10月19日 NHKニュース「大手工具メーカー元社員 秘密情報漏えいの疑いで逮捕」
2017年10月19日 中日新聞「SG元社員、情報漏えいか 中国人に先端技術、愛知県警が逮捕」
2017年10月19日 毎日新聞「情報持ち出しOSG元社員逮捕 「中国人に提供」と供述」
2017年10月19日 毎日新聞「<愛知県警>設計情報持ち出し容疑 元オーエスジー社員逮捕」
2017年10月19日 朝日新聞「オーエスジーの元社員、営業秘密を持ち出した容疑で逮捕」

工具メーカーであるOSGが製造している“タップ”の図面等を元従業員が持ち出したようです。
しかも、報道によると競合他社に勤めている中国人にです。そして、対価を得ていたとも。


今回の事件で注目すべきは、不競法の平成27年法改正によって改正された刑事罰の適用を受けそうな事件であるということです。

例えば、不競法21条3項の海外重課、元従業員は中国人に営業秘密を開示したようなので、「日本国外において使用する目的」又は「相手方に日本国外において使用する目的である情を知って」である場合には、10年以下の懲役・3000万円以下の罰金となる可能性があります。海外重課でない場合、日本国内での開示や仕様にとどまる場合は、、10年以下の懲役・2000万円以下の罰金です。

さらに、元従業員は、対価を得ていた可能性があるので、不競法21条10項で規定されている「当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬とし て得た財産の没収」 が適用されるかもしれません。

また、毎日新聞の報道を参照すると、内部調査により発覚し、6月27日に懲戒解雇、8月1日に刑事告訴のようです。
すなわち、元従業員は、在職中に競合他社の中国人に営業秘密を漏洩しており、OSGはそのことを突き止め、懲戒解雇したのちに刑事告訴したようです。近年において、在職中に営業秘密を金銭目的で競合他社へ漏洩するという事件は少ないように思えます。

OSGは元従業員の行動が怪しいと感じ、アクセスログ等から営業秘密の漏洩を突き止めたようです。
OSGが営業秘密の漏洩を突き止めたということは、OSGにおいて営業秘密の漏洩に対する対応が適切だっということでしょう。

残念なことは、そのような対応がしてあったにもかかわらず、おそらく元従業員への教育が十分でなかったために、漏洩を許してしまったことでしょうか。
元従業員も、刑事罰の適用、海外重課、没収規定、さらにはOSGによる営業秘密管理の態様を知っていれば、このような営業秘密の漏洩を犯さなかったのではないかと思います。
リスクが高すぎて、リターンがありませんからね。よほどの理由がない限りやらないと思います。

2017年10月18日水曜日

営業秘密セミナーご参加ありがとうございました。

昨日横浜において告知していた営業秘密セミナーを開催し、無事終了しました。
ご参加いただいた方々にとって、営業秘密の保護や管理について一助となれば幸いです。
また、複数の企業の方ともお話しでき、あらためて気づかされること等があり、私にとっても大変有意義なものでした。

今後も、このような営業秘密セミナーを開催しようと考えています。
今回ご参加いただけなかった方も次回にぜひご参加ください。
今後の営業秘密セミナーの開催は本ブログ等で告知いたします。


また、営業秘密の概要を知りたい、会社内で営業秘密の基本的な知識を共有したいという方は、ご連絡ください。
今回の営業秘密セミナーと同様の内容であれば、基本的に無料(遠方の場合は交通費程度)にて御社内でセミナーを開催させて頂きます。

今後も営業秘密に関する情報や話題を発信いたします。
よろしくお願いします。

2017年10月16日月曜日

ちょっと驚いたこと。

たまに、自分のブログに関するキーワードでGoogle検索を行ったりします。
自分の書いたブログ記事がどの程度検索で上がってくるかということを知りたいがためです。
キーワードは、「営業秘密+何か」です。

例えば「営業秘密+農業」で検索すると私のブログ記事である「農業分野における営業秘密」がトップに現れます。
これは、私の記事が多くの人に見られているのではなく、記事の内容からして、単に関心を持っている人が少なく、私のブログ記事へのアクセス数が相対的に高いだけだと思います。

一方、「営業秘密+3要件」で検索すると、2ページ目に私のブログ記事が現れます。これは、営業秘密の3要件に関しては関心が高い人が多いためであり、私のブログ記事へのアクセス数が相対的に低いことを示していると理解しています。

ところで、「営業秘密」だけで検索すると私のブログがヒットしないんですよね。
これについては、営業秘密に関するビジネスを模索している現状においては、何か対策するべきなんでしょう。


以上のことを踏まえて、驚いたことというのは、「営業秘密+流入」で検索すると、私のブログ記事がトップに来ています。
しかしながら、上記のように、これは私のブログ記事に人気があるということではないと思います。
単に「営業秘密の流入」ということに関心を持っている人が少ないということだと思います。

私は営業秘密に関するリスクとして、流出と同様に、いや、事が起きた場合には流出よりもリスクが高いものが流入だと考えています。
前回のブログで挙げたように、最悪の場合は営業秘密の流入が起きた事業からの撤退のあり得るからです。
特に近年は転職率も高くなり、経験者として採用される転職者の中には、新しい職場で早く結果を出したいがために、前職企業の営業秘密を持ち出して転職先で使用する人がいる可能性は想像に難くありません。

ところが、「営業秘密+流入」で検索すると私のブログ記事がトップに来るということは、営業秘密の流入に関するリスクを意識している人が少ないということだと思います。
営業秘密の流入に関しては、私だけが述べているのではなく、多くの営業秘密の専門書等にも記載されています。

営業秘密の流入に関して、関心が薄い企業さん等は改めて営業秘密の流入リスクについて考えてみてはいかがでしょうか?

2017年10月13日金曜日

営業秘密の流入リスク

営業秘密は流出リスクと共に流入リスクも存在します。
営業秘密が流出する企業があれば、当然、その営業秘密が流入する企業もあります。営業秘密の流入は企業にとって大きなリスクの一つであると考えます。

営業秘密が流入する場合とは、例えば、転職者が前職の営業秘密を持ち込む場合や、取引先からその取引先の営業秘密が開示される場合です。

転職者からの流入と取引先からの流入とでは、その状況が全く異なるので、それぞれ異なる意識によって対応する必要があるかと思います。

まずは、転職者からの営業秘密の流入に関してですが、このリスクは非常に高いと思います。
もし、転職者が前職の営業秘密を持ち込んで転職先で使用した場合、前職の営業秘密が転職先の情報と混在(所謂コンタミ)する可能性が高いです。

例えば、新規事業を起こすために競合他社からの転職者を招き入れ、その転職者が持ち込んだ前職の営業秘密がコンタミした状態で新規事業を進め、その後、転職者の前職から営業秘密の不正使用との警告を受けたらどうなるでしょうか?

この様な場合は、不正競争防止法2条1項8号に基づいて、前職企業が転職先企業に差し止め請求や損害賠償請求が可能となる可能性が高いので、最悪の場合には転職先企業は当該新規事業を取りやめなければなりません。


この実例が、「過去の営業秘密流出事件」にもあるエディオン営業秘密流出事件です。
この事件では、元エディオンの元部長が、住宅リフォーム事業の情報を転職と共に上新電機へ漏えいした事件です。この元部長は、執行猶予付きの実刑判決を受けています。

上新電機は刑事罰は免れていますが、エディオンから、リフォーム事業を起こして現在に至るまでこれらの不正使用行為を継続しているとし、「不正使用によって作成された事業管理用のソフトウェア各種社内資料店舗展示用ディスプレイ設備等の廃棄に加え、50億円の損害賠償」を求め民事訴訟を提起されています。

もし、このエディオンによる請求が裁判所において認められれば、上新電機はリフォーム事業からの撤退を余儀なくされる可能性もあります。

現在、どこの家電量販店はリフォーム事業に力を入れているようです。リフォームと共に家電の買い替え需要が見込まれるからでしょう。
万が一、上新電機がリフォーム事業からの撤退となれば、大きな痛手となることは間違いないと思われます。

このように、他社からの営業秘密の流入は、非常に大きなリスクを伴うものです。
このため、このような事態に陥らないように、企業は対策を取る必要があります。

2017年10月11日水曜日

役員による営業秘密の漏洩

過去の営業秘密流出事件で挙げている「日本ペイントデータ流出事件」のように、元役員が転職先で前職の営業秘密を開示・使用することは少なからずあります。
また、転職先だけでなく、元役員が前職を退職して独立して自身の会社を起こし、その会社で前職の営業秘密を開示・使用することもあります。
役員であれば、営業秘密へのアクセス権も持っている場合が多いでしょうし、その営業秘密の重要性・有用性も十分に理解できているでしょう。

ここで、私は、営業秘密の漏えいに対して刑事罰があり、実際に実刑判決まで出ていることを従業員に理解してもらう社員教育を行うことで、従業員による営業秘密の漏えいの多くは防ぐことができると考えています。当然、100%はありえませんが。

営業秘密を不正に漏えいさせた人は、基本的に悪人ではないと思ってます。
その人達は、何時も隣で仕事をしていた同僚、部下、又は上司でしょうから。
しかし、不競法の理解が出来ていなかったために、転職時に安易に営業秘密を持ち出して逮捕されているのではないでしょうか?
そういった人に対しては、正し知識を得てもらうことで、営業秘密の漏えいは防げていたのではないかと思います。営業秘密の持ち出しに対するリターンよりもリスクが高いですからね。

さらに、従業員に対しては、就業規則で秘密情報(営業秘密)を漏えいした場合には退職金の返還等の罰則規定を設けることで、さらに抑止効果は高まるでしょう。


では、役員に対しては?
当然、営業秘密に関する社員教育は、役員に対してもおこなうべきです。
たとえ、役員であっても、営業秘密の漏えいは犯罪であることを認識してもらう必要があります。特に、役員は営業秘密に触れる可能性が一般の従業員よりも高いでしょうから。

しかし、就業規則は、役員には適用されません。
就業規則は労働者に適用されるものです。
そこで、役員用の就業規則があれば、それに秘密情報を漏えいさせた場合の罰則規定を設けることが考えられます。

また、今後、営業秘密の漏えいへの対応を整備したいのであれば、秘密情報管理規定を作成することも考えられるでしょう。
秘密秘密管理規定では、社内における秘密情報の取扱いに対する規定を定めます。

この秘密情報管理規定に、秘密情報を漏えいした場合に対する罰則も定めます。
そして、その対象を従業員及び役員とします。

このように、営業秘密の漏えいを防止するために、従業員だけでなく、役員に対する縛りも策定する必要があると考えます。

2017年10月9日月曜日

過去の営業秘密流出事件

過去の営業秘密流出事件における刑事罰が適用された事件の主なものです。
表が見難い場合はクリックしてください。


2020.8.15更新

さらに過去に起きた営業秘密の流出事件のうち、ニュース報道が行われたものをまとめました。
インターネットに公開されているニュース報道等のリンクのまとめです。
 興味のある方は↑上のページ「過去の営業秘密流出事件」からどうぞ。

「過去の営業秘密流出事件」では、ニュース報道のリンクだけではなく、当該企業のリリースもピックアップしています。
これによって、営業秘密が流出した被害企業(原告企業)や、その営業秘密が流入した企業(被告企業)の対外的な対応の一端が分かるかと思います。
何もしない企業や、頻繁にリリースを発表する企業、流出した営業秘密の内容等によっても様々かと思います。
また、各事件がどのように報道されているのかもわかるかと思います。



古い事件や新しい事件でも既に当該記事が削除されてている場合もあり、リンク先の記事も早晩削除されるかもしれませんが・・・。しかし、当該企業のリリースは比較的長く残るのではないでしょうか。

営業秘密の流出は、流出先の企業が被害者であるにもかかわらず、それが個人情報を含むものであったりすると、一転して加害企業のような取り扱いになる可能性もあります。
また、他社の営業秘密が流入した企業は、それが転職者による持ち込みである場合等、自社に過失が無くても報道により社名が出てしまう可能性もあります。
過去の事件は、自社に万が一のことが生じることを想定する場合に参考になるかもしれません。

2017年10月6日金曜日

不競法第5条の2(推定規定)の「その他政令で定める情報」の検討

経済産業省で行われている不正競争防止小委員会が既に5回目となっていました。
この小委員会は、「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」を引き継いだもので、データの利活用の法的保護、不正競争防止法の改正について検討されています。
かなり精力的に行われているようです。

関連ブログ記事:データ利活用の促進に向けた不競法改正案 (2017年7月31日)

5回目の小委員会では、データの利活用だけではなく、不競法第5条の2(技術上の秘密を取得した者の当該技術上の秘密を使用する行為等 の推定)に関することが検討されていtたようです。

不競法第5条の2は、平成27年改正で追加された条文であり、原告側が被告による不正取得や原告の営業秘密を用いて生産できる物を生産していること等を立証した場合には、被告による営業秘密の使用行為を推定し、不使用の事実の立証責任を被告側に転換することとしたものです(参考:小倉 秀夫 著「不正競争防止法 平成27年改正の全容」 (レクシスネクシス・ジャパン株式会社 平成27年) )。 特許法第104条(生産方法の推定)と同様の規定ですね。

ここで、第5条の2には「技術上の秘密(生産方法その他政令で定める情報に係 るものに限る。以下この条において同じ。)について・・・」とあり、対象となる技術上の秘密は、「生産方法」と「その他政令で定める情報」です。
ちなみに、特許法第104条では、推定の対象が「物を生産する方法」だけであり、「その他政令で定める方法」というような文言は含まれておりません。特許法と比べることにあまり意味はないかと思いますが、不競法第5条の2の方がより広い範囲で推定規定が働くイメージですね。


この「その他政令で定める情報」は、経済産業省知的財産政策室 編 逐条解説・不正競争防止法によると「今後の技術進歩に応じ、将来的に別の技術情報を推定の対象とすべきニーズが生じた場合に備え、政令で定める情報については推定規定の対象となり得ることとしている。」とされているものです。

そして、今回の小委員会では、データの利活用のほかに「資料3 技術的な営業秘密の保護(不正使用の推定規定)」によると上記「その他政令で定める情報」を検討したようです。
この資料3には「データの価値が高まり、データの分析もAI等の実装により高度化が進み、その分析方 法等の開発にも相当の投資がなされている。企業は、分析方法等を、営業秘密として秘密 管理し競争力を維持している。一方で、万が一、その方法が他者に不正に取得されて使用 されたとしても、その使用に関しては、外部からの立証が困難な状況。  そのため、分析・解析・評価方法等について、営業秘密の不正な取得等が認められる場合 において、その秘密を使用したことを推定することを検討する。 」とあり、まさに、「今後の技術進歩に応じ、将来的に別の技術情報を推定の対象とすべきニーズが生じた場合」に応じた検討であると思われます。

そして、「その他政令で定める情報」としては、「分析方法」や「予測方法」を含むことを検討しています。
この、「分析方法」や「予測方法」は、具体的には、 「疾患の可能性等を評価(予測)する方法」、「機器の稼働状況を評価(予測)する方法」、 「気象を予測する方法」、「需要を予測する方法」、「混雑状況を予測する方法」、「人車、物等の 行動等を評価(予測)する方法」、「データを可視化・構造化する分析方法」 を分類したもののようです。

これらの具体的な方法は、直感的には膨大なデータ、所謂ビッグデータを活用した方法のようにイメージできます。だからこそ、今の委員会で検討しているのでしょう。
そして、「その他政令で定める情報」に上記方法を加えることで、不競法を改正することなく、ビッグデータを用いた営業秘密に対する法的保護をより積極的に与えるということでしょうか。

2017年10月4日水曜日

調達購買の人こそ知るべき営業秘密

営業秘密が不用意に漏れる部署はどこでしょうか?
前回のブログでは、営業の方から漏れる例を挙げました。
他にはないでしょうか?
ということで、営業があれば、その対極ともいえる調達購買の方は?

私は調達購買が他社の営業秘密に触れる可能性が高い部署の一つだと思っています。
そう、他社の営業担当者から、その会社の営業秘密を知る可能性があります。
ということは、調達購買が、他社の営業秘密を異なる他社へ流出させる可能性もあります。
図で表すと、↓こんな感じです。

S社を介してA社の営業秘密とB社の営業秘密とが行き来してしまっています。
実際にこういうことはあるようです。
S社の調達購買担当者が口の軽い人で、知的財産に対する知識等もない場合にこのようなことになるでしょう。
上記の図のように、両社の営業秘密が行き来しない場合もあり、例えば、A社の営業秘密がB社に流出する一方、B社の営業秘密は流出しないといったこともありえます。
S社を介して他社の営業秘密が行きかった結果、最悪の場合、S社にトラブルを生じさせる可能性があります。

このような状況は、A社やB社にとっても当然好ましくはありません。
A社やB社はどうするべきでしょうか?

対策の一つとしては、営業秘密が技術情報であればS社に開示する前に特許出願をすることです。
特許出願は営業秘密とは対極にあるとも思えますが、特許を取得すれば他社に対抗できるので当然有効な手段です。

営業秘密のまま開示するのであれば、S社との間で秘密保持契約を結ぶことです。
しかしながら、S社がクライアント企業である場合等には秘密保持契約を結ぶことを提案することが憚れるかもしれません。
そういう場合には、S社に渡す資料等に㊙マークを付す等し、かつ口頭でも他社に開示しないことを伝えるべきかと思います。
資料に㊙マークが付されていると、その資料を入手した企業、例えば、S社を介してA社の資料を入手したB社は、その資料を使用することを躊躇するかと思います。

他社に営業秘密を開示する場合には、その営業秘密が開示先企業から流出することを前提として対応するべきかと思います。
そして、調達購買担当者は、自身の口から他社の営業秘密を開示してしまう可能性を意識する必要があります。

2017年10月2日月曜日

営業の人こそ知るべき営業秘密

営業秘密が不用意に漏れる部署はどこでしょうか?
ここでいう不用意とは、不当な利益を得る目的や企業に損害を与える目的等の不法行為でななく、「不注意」という意味です。

まあ、挙げようと思えば、どこでもあるかもしれませんが、その一つはやはり営業部門からではないでしょうか?

営業の方は、当然ながら、自社の情報を顧客(他社)に与えます。
その情報の与え方は、適切でしょうか?必要以上の情報を与えてはいないでしょうか?
与えた情報は、自社の営業秘密ではないでしょうか?
営業秘密であるならば、それが営業秘密であることを顧客に認識させているでしょうか?
顧客は、営業秘密に対する取り扱いについて理解しているでしょうか?


ここで、面白いと言っては失礼ですが、営業時における顧客への情報の与え方を間違った判例を紹介します。
この事件は、東京地裁平成26年11月20日判決(平成25年(ワ)第25367号)であり、結論から言うと、情報を被告に開示した原告は負けています。

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事件の概要としては、原告は被告の元従業員であり、原告は、かねてからベトナム国内でのバルブ製造業務への関与を希望していました。
そして、原告は、被告からベトナムのバルブメーカーであるミン・ホア社への案内を依頼され、被告担当者とともにミン・ホア社を訪れて、被告がベトナム国内で販売するバルブをミン・ホア社で製造することについて、同社担当者と打合せをしました。このとき、原告は、被告がベトナム国内で製造、販売するバルブの設計図を作成し、同日、本件設計図のデータを添付した電子メールをミン・ホア社や被告の担当者らに送信しました。なお、原告が本件設計図の作成について被告から報酬を受けた事実はありません。被告は、その後、ベトナム国内においてバルブ(以下「被告製品」という。)の製造、販売を開始しました。

原告の主張としては、被告は原告の設計ノウハウを無断で利用して被告製品の販売収益を上げるという不正の利益を得る目的で、入手した本件設計図を使用して被告製品を製造、販売しているというものです。

これに対して裁判所は、「被告がベトナム国内で販売するバルブをミン・ホア社で製造することについて、同社担当者と打合せをしたこと、その際、原告が上記バルブの図面を作成する話が出て、原告は,同月16日、その頃までに作成した本件設計図を電子メールに添付してミン・ホア社や被告の担当者らに送信したこと、原告は、同月28日の被告担当者との打合せの際、被告担当者に対し、本件設計図をそのまま、あるいは変更を加えて自由に使用してよい旨を述べたことが認められる。これらの事実によれば、原告は、被告がベトナム国内で製造、販売するためのものとして、本件設計図を作成し、被告に交付したのであるから、本件バルブは、被告にとって「他人の商品」に当たるとは認められない。」 と判断しています。

そして、結論として、裁判所は「原告は、本件設計図の自由な利用を被告に許したものといえるから、被告が本件設計図に基づいて被告製品をベトナムで製造,販売しているとしても、被告に同号の「不正の利益を得る目的」があるということはできず、本件設計図が営業秘密に当たるか否かにかかわらず、被告の行為は、不正競争を構成しない。」としています。
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おそらく、原告は、被告を介して、ミン・ホア社からバルブの設計や製造に関する仕事の依頼がくることを期待して、自身が作成した設計図を被告と原告に渡し、自由に使っていいと言ったのでしょう。そうしたら、被告がこの設計図を使ってベトナムでバルブの製造をしてしまった・・・。

原告は、営業目的とはいえども、自身の営業秘密を気前良く開示し、使用許可まで与えてしまって、それを被告に対して営業秘密の不正使用だと言っても裁判所は認めなかったということです。
この裁判所の判断は妥当なものであると考えられます。

しかし、ここまで極端なことはなくても、自社の情報を秘密とすることなく取引先に開示してしまった営業の人はいるのではないでしょうか?
その結果、リップサービスのつもりで行ったことが、後々自身の予想しなかったことに発展するかもしれません。
その場合、後からその開示は無かったことにしたくても、それはできません。

営業の方も、当然、自社の営業秘密の触れる機会が多いと思います。
そのため、営業を行う際に、常に営業秘密について意識する必要があると思います。
営業のどの段階で、どこまで営業先に話すのか?
営業秘密を話していないか?
営業秘密を話した方が受注の可能性が高まるのであれば、何を話すのか?
その際、営業先は秘密保持をしてくれるのか?秘密保持契約を取り付けられるのか?

営業秘密の観点から、営業先で話して良い事、悪い事を今一度見直しては如何でしょうか?