2017年5月31日水曜日

営業秘密保護に対する警察の取り組み

平成27年に不正競争防止法が改正されて、特に刑事罰が重くなりました。
しかしながら、実際に警察なんて動かないと思っている人もいるかもしれません。
例えば、特許権の侵害は一応刑事罰があるものの、刑事罰が適用された具体的な事例はほとんどありません。過去に一度あったとかないとか?
意匠権は、確か最近一度ありましたね。
商標権は、誰もが良く知っている商標に関しては、いわゆる偽ブランドとして刑事罰の適用事例が多々ありますね。知名度が高くない商標に関してはどうでしょう?


一方、営業秘密の漏えいに関しては、会社規模の大小関係なく、警察は積極的に動くようです。
現に、営業秘密に関する複数のセミナーにおいて、警察関係者が講演を行っております。
例えば、平成27年にIPA(情報処理推進機構)が主催した「第3回技術情報防衛シンポジウム 」でも「警察における営業秘密侵害事犯捜査」と題して行っています。

また、INPIT(工業所有権情報・研修館)が行っている営業秘密110番においても、下記図のように営業秘密が漏えいした場合の対応として警察への通報が組み込まれています。

参照:経済産業省ホームページhttp://www.meti.go.jp/press/2014/01/20150119001/20150119001.html

さらに、他に何かないかなとウェブ上を探したところ、長崎県警にも下記のようなホームページがありました。
http://www.police.pref.nagasaki.jp/police/kurashi/himituhogo/

ちなみに、営業秘密が漏えいしていた場合に、警察に駆け込むとしても、近くの交番等ではさすがにすぐに対応してもらえるようではなく、各都道府県の警察本部等の大きなところに行くべきのようです。まあ、そりゃそうですよね。
で、対応する課は「生活安全課」というような名称(長崎県警では「生活安全部」のようですね。)のところに相談に向かえばよいようです。

2017年5月30日火曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その6(まとめ)

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を営業秘密の視点から検討しました。

自分の知識不足もあり、不明な点も多々ありますが、やはり秘密管理性の要件を満たさない可能性が高いように思えます。
しかしながら、取引先からの営業秘密の漏えいの場合には、このようなケースが多いのではないでしょうか。
すなわち、今回の件に関しては、「取引先を介した自社の営業秘密の漏えい」という問題が顕在化したものです。

企業活動において、必ず取引先は居ます。
この取引先に対して場合によっては、自社の営業秘密を開示し、必要に応じて営業秘密を記した情報を渡す場合もあります。
このような場合、取引先で営業秘密を誰がどのように扱っているのか把握している企業はどの程度あるでしょうか?
下手したら、自社の営業秘密は取引先で営業秘密として管理されていないかもしれません。
また、自社の営業秘密に触れる取引先の従業員は、営業秘密の概念に関する知識に乏しく、罪の意識なくそれを他社に漏らすかもしれません。

では、取引先に営業秘密を開示したり、渡す場合はどうすればよいのでしょうか?
当然、取引先との力関係によって可能なこと不可能なことはあるかと思いますが、以下のようなことが考えられます。

1.開示する営業秘密の吟味。常に必要最低限の営業秘密を開示。
2.自社の営業秘密であることを明示する。㊙マークの記載等。
3.秘密保持契約の締結
4.取引先従業員に対する営業秘密教育の要求
5.取引先に対する営業秘密管理方法の確認及び指導

他にも対応策はあるかと思いますが、とりあえず思いつくものは以上のようなものでしょうか。
そして、上記のことは、取引先から営業秘密が漏れ出ることも想定したものです。
また、取引先にも営業秘密の管理徹底を求めていくことも重要かと思います。





2017年5月27日土曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その5

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。

すでに、この記事が掲載された週刊新潮の発行から1週間以上経ちます。
すでに、話題性に乏しい気もしますが、そこは営業秘密しかやらないブログ、まだ引っ張りますよ。

前回で取次会社における秘密管理性についての検討は終わります。
週刊新潮の記事からだけでは、中吊り広告に対する秘密管理性は認めにくいような気がします。
しかし、秘密管理性があるとしてさらに検討を続けます。

既に忘れた方もいらっしゃるかと思いますが、文春へ営業秘密の漏えいを行ったことによる不競法(2条1項7号)による責任を、取次会社の従業員に対して問うためには「不正の利益を得る目的」又は「その保有者に損害を加える目的」を有していなければなりません。

ここで、前々回でも挙げたように、新潮の記事の28頁の第4~5段落には下記のようなことが記載されています。
「『文春社員に中吊りを渡した弊社社員はこの4月に今の担当になったばかりで、"文春とのことは前の担当者から引き継いだ"と話している。前の担当者は5年前に週刊誌の担当になったが、文春の件はやはり"前任者から引き継いだと思う"と言っています』文春が本誌の中吊り広告を入手するのは『ルーティンワーク』と化し、継続的に行われていたわけだ。」

この記載からすると、取次会社の従業員は「不正の利益を得る目的」又は「その保有者に損害を加える目的」は全くなく、ある意味罪の意識はなく、常日頃の仕事の一環として文春に中吊り広告を渡していたのではないでしょうか。
そうであるならば、中吊り広告が営業秘密であったとしても、取次会社の従業員に対して不競法2条1項7号に基づいて責任を問うことは難しいのではないかと思います。

そうすると、文春はどうなるのでしょうか、「営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って」営業秘密を取得し、その取得した営業秘密を「使用」した場合(不競法第2条第1項第8号)に責任を問われるかもしれません。
ここで「不正開示行為」とは何か?となりますが、これは「前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為」又は「秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為」とです。
「同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為」とは、不競法第2条第1項第7号における開示行為であり、今回の場合は上述したように、取次会社の従業員の行為は当てはまらないかもしれません。
一方、「秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為」とはなんでしょうか?
法律で規定された守秘義務でしょうか?「秘密を守る法律上の義務」は取次会社の従業員にあるのでしょうか?
また、これには、契約による守秘義務も含まれるのでしょうか?そうであるならば、新潮と取次会社が中吊り広告に対する守秘義務契約を結んでいたらOKなのでしょうか?これについては、今のところ私はよくわかりませんし、そもそも守秘義務契約もされていなかったらだめですよね。

うーん、私の理解では文春の行為に対して、不競法における営業秘密の漏えいという視点で法的な責任を問うことはなかなか難しそうですね。

ちなみに、ここでいう「使用」とは、 「営業秘密を参考とする行為」も含まれるようなので(逐条解説 不正競争防止法 経済産業省 知的財産政策室編 p.83)、文春が中吊り広告の記載を見ることで新たな情報を得て独自に取材しても、それは「中吊り広告を参考とする行為」である、中吊り広告が営業秘密であるならば「使用」にあたると考えられます。


また、文春に対して不競法に基づいて責任を問うことを考えた場合、 第2条第1項第8号ではなく、第2条第1項第4号が適用できるでしょうか。
これは、「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為」というものであり、さすがに文春が取次会社から中吊り広告を入手した行為を「窃取、詐欺、強迫」とするのは無理かと思いますが、 「その他の不正の手段」になり得るのでしょうか?
「その他の不正の手段」とは逐条解説では「社会通念上、これと同等の違法性を有すると判断される公序良俗に反する手段」とあり、その一例として、「営業秘密が記載された紙媒体を複写して取得する行為」とあります。
文春は中吊り広告を取次会社から手に入れてコピーしているので、上記の「不正取得行為」となるのでしょうか?
それならば、中吊り広告が営業秘密であるならば、 「第2条第1項第4号」の適用が可能なような気もします。



もう検討はこのあたりでやめます。
次回はまとめてみますか。

2017年5月24日水曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その4

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。


前回では中吊り広告の秘密管理性について検討しました。
私の心象としては、中吊り広告は取次会社において秘密管理措置が取られていなかったのではないかと思います。
もう少し、秘密管理性について検討してみたいと思います。

ここで、一般論として、「電車に吊られる前、すなわち人目に触れる前の中吊り広告の内容は秘密である」とも考えられます。
そうであるならば、「取次会社が秘密管理措置を取っていないとしても、中吊り広告が秘密とされるべきであることは、社会人として当然に認識しうるものである」とも考えられ、黙示的にですが中吊り広告の秘密管理性を認められる、との考えもなるかもしれません。

このような考えについて関連しそうな判例があります。 
この判例は、平成27年5月27日知財高裁判決(平成27年(ネ)第10015号)であり「タンクローリー用の鏡板の成形用金型に関する技術情報」に関するものです。営業秘密に関する訴訟であまり多くない知財高裁での判決であり、影響力もあるかと思います。
事件の概要としては、「被告は原告に対して金型製作費用の概算見積りの提出を依頼し、原告は金型製作費用の概算見積りを提出した。この際、原告は、被告に対して技術情報を開示した。」というものです。

結論として、当該技術情報の秘密管理性は認められなかったのですが、判決には以下のようなことが記されています。
「控訴人代表者作成の陳述書(甲16)にも,控訴人の取引する業界では,お互いにそれぞれの有する技術ノウハウを尊重しており,契約の成約時に秘密保持契約を締結していること,成約までの過程で技術資料の交換を行うことはあるが,その際,いちいち秘密保持契約を締結するわけにはいかないため,成約時に契約すること,その間は当事者同士が互いに秘密を守ってきていることが記載されているにとどまっている。」
上記「控訴人」とは当該情報の保有者である原審原告です。
そして、上記のことは、原告が「業界の一般論として技術情報を開示されたら、秘密保持契約等をしなくても、秘密とすることが当然」と主張しているかと思います。

しかしながら、裁判所は以下のように判断して秘密管理性を否定しています。
「上記陳述書の記載は,本件において,控訴人が被控訴人に開示した技術情報について,これに接する者が営業秘密であることが認識できるような措置を講じていたとか,これに接する者を限定していたなど,上記情報が具体的に秘密として管理されている実体があることを裏付けるものではない。」
すなわち、裁判所は、一般論を秘密管理措置として認めず、やはり「情報が具体的に秘密として管理されている実体」 がなければ秘密管理性を認めないと解されます。
うーん、一般論では秘密管理措置は認められそうにありませんね。

困りましたね。何が困るかというと、ここで、秘密管理性が無いとなるとこれ以上検討を進めてもねえ・・・。
というわけで、本件については、週刊新潮の記事だけでは中吊り広告の秘密管理性に認めがたいと思われるものの、次からは中吊り広告が「営業秘密」であるとして他の事項も検討してみたいと思います。  そもそも、記事には書かれていないだけで、取次会社は、中吊り広告に対して秘密管理措置を適切に行っているのかもしれませんしね。

2017年5月22日月曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その3

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。


まず、中吊り広告は、営業秘密なのでしょうか?
営業秘密は、前に説明したように、下記の3要件を満たすものです。

①秘密管理性
②有用性
③非公知性

これら3要件の具体的な説明は追々やりますが、とりあえず検討を。
②有用性とは、営業秘密管理指針では「その情報が客観的にみて、事業活動にと って有用であることが必要である。 」とされています。中吊り広告は、週刊新潮にとって週刊誌の販売促進に寄与するものであるため、有用性があると考えられます。

③非公知性とは、 営業秘密管理指針では「一般的には知られておらず、又は容易 に知ることができないことが必要である。 」とされています。中づり広告は実際に電車に吊られ、乗客が見ることが可能となるまでは非公知性が満たされていると考えられます。すなわち、中づり広告は、取次会社で管理されている状態では、非公知性があると考えられます。

取次会社が保有している状態にある中づり広告に対する有用性と非公知性については、さほど争点とはならないと考えます。

では、①秘密管理性はどうでしょうか。
まず、秘密管理性とは、営業秘密管理指針では「営業秘密保有企業の秘密管理意思が 秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対 する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。 」とされています。
少々わかりにくいかと思いますが、従業員等(今回は取次会社の従業員)が、その情報が秘密とされていることを認識できるように企業は管理しないといけないということです。
営業秘密管理指針では、管理方法は特に指定されておらず、「秘密管理措置の内容・程度は、企業の規模、業態、従業員の 職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なる」としています。より具体的には、秘密管理する情報に対して㊙マークを付したり、当該情報に対して施錠管理やデータへのアクセス管理をしていなくても、従業員等が企業の秘密管理意思を認識できるように企業は管理すればよいとしています。

では、今回の件における秘密管理性はどうでしょうか?
ここで、新潮の記事からは、取次会社が中づり広告を営業秘密として、従業員が認識できるように秘密管理していたとの事実は読み取れません。また、新潮が取次会社に対して中吊り広告を営業秘密として管理するように依頼していた様子もありません。

さらに、新潮の記事の28頁の第4~5段落には下記のようなことが記載されています。
「『文春社員に中吊りを渡した弊社社員はこの4月に今の担当になったばかりで、"文春とのことは前の担当者から引き継いだ"と話している。前の担当者は5年前に週刊誌の担当になったが、文春の件はやはり"前任者から引き継いだと思う"と言っています』文春が本誌の中吊り広告を入手するのは『ルーティンワーク』と化し、継続的に行われていたわけだ。」
この記載からは、取次会社から文春への中吊り広告の貸し渡しは複数人が関与して長年に渡り行われていたと考えられます。
ここからは、私の推察ですが、複数人が関与していたということは、中吊り広告が秘密として管理されていなかったために、文春に貸渡すことに対する抵抗が無い、若しくは薄かったとも思われます。

あくまで週刊新潮の記事からの推察にしか過ぎませんが、これらのなことから、取次会社では新潮の中吊り広告を秘密管理していたとはいえず、新潮の中吊り広告は営業秘密としての3要件を満たさない、すなわち、営業秘密ではないとも考えられるのではないかと思います。
もしそうであれば、営業秘密の不正な取得及び使用という、不法行為そのものが成り立たなくなります。

次回、さらに検討を進めたいと思います。