2017年8月12日土曜日

ブログをはじめて3ケ月-アクセスの傾向-

この営業秘密にだけ特化したブログをはじめて3ケ月。
営業秘密という、比較的ニッチな内容なため、アッサリとネタが尽きるかと思いきや、案外ネタは多く、ネタ切れまでもう少しかかりそうです。

そして、未だアクセス数は多いとは言えないものの、記事へのアクセス状況から皆さんが興味のある事の傾向が伺えます。
私が営業秘密に興味を持ったきっかけは27年の不競法法改正による刑事罰の強化ですが、刑事罰に関する記事は人気がありません。
やはり、刑事罰ともなると自身や自分の所属企業にとっては無縁のことと思われる方が多いのでしょうか。
私は27年法改正が産業界の要望もあってのことであり、興味を持たれ易い内容かと思っていましたので、少々意外でした。
<刑事罰に関する記事>
営業秘密保護に対する警察の取り組み
営業秘密の漏えいに関する近年の刑事罰
営業秘密における民事訴訟と刑事訴訟との関係


一方、アクセス数が多い記事は、“週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」”シリーズですね。
時事ネタはウケがいいのでしょうか?
ちなみに、“「文春砲」汚れた銃弾”でグーグル検索すると、このブログの記事が出てきます。

意外にアクセス数が多い記事が“農業”関係です。
“イチゴ品種の韓国への流出”をはじめに、私も農業と営業秘密の関係に興味を持ち、幾つか書きましたが、同じように興味を持たれる方が多いようですね。
農業分野は、技術を守るという視点では、特許とするよりも営業秘密とする方が親和性が高いようにも思えます。
しかしながら、農業の技術を営業秘密で守るということは、ほとんど浸透していないようです。
その理由に、“農業+営業秘密”でグーグル検索するとこのブログの“農業分野における営業秘密”が検索結果の一番上に来てしまいます。
この記事のアクセス数を考えると、うーん、喜ばしい事とは言えませんね。
 <農業に関する記事>
イチゴ品種の韓国への流出
農業分野における営業秘密
農業ICT知的財産活用ガイドライン

また、第四次産業革命やビッグデータに関する記事もアクセス数が多いです。
やはりこれから伸びる技術分野ですしね。
また、データの利活用に関しては近い将来、不正競争防止法の改正も行われる可能性が高いようです。
<第四次産業革命・ビッグデータに関する記事>
ビッグデータと営業秘密
第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討
特許庁における知的財産分科会
データ利活用の促進に向けた不競法改正案

農業と営業秘密との関係や、データ保護に関することは、今後も追いかけようと思います。

そして、特許と営業秘密との関係を記した記事もそこそこアクセス数が多いですね。
弁理士の方のアクセスも多いかと思いますし、近年は特許出願も減少傾向にありますからね。
<特許と営業秘密との関係に関する記事>
特許出願件数の減少から考える営業秘密
営業秘密の3要件:有用性 -特許との関係-
営業秘密の3要件:有用性-特許との関係- その2

ざっとこんな感じです。
これからもボチボチやっていきます。

2017年8月9日水曜日

営業秘密の流入出を恐れると転職できない??

私が営業秘密に興味を持ちだしたころ、営業秘密の流入出をおそれると転職できないのではないかと、問われたことがあります。

①転職者は、自身の知識や経験が前職の会社の営業秘密である可能性を恐れ、転職先で前職と同様の仕事ができないのではないか?
②企業側は、転職者の知識や経験が前職の会社の営業秘密である可能性を恐れ、転職者に前職と同様の仕事をさせられないのではないか?

そのころは、もしかしたら、営業秘密の保護はそういう側面もあるのではないかと思いましたが、今では、それは適当ではないと考えています。

そもそも、営業秘密は、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たすものです。
これを満たさない情報は、営業秘密としての保護は受けられません。
ここで、①に関しては、前職の会社が営業秘密の管理を適正に行っていれば、転職者は前職の営業秘密が何であるのかを認識できるので、転職者はその営業秘密を転職先で開示しなければいいだけです。
すなわち、転職者は、自身の能力と前職の営業秘密とを峻別できるので、前職の営業秘密を転職先で開示、使用することはないと考えられます。
ちなみに、転職者が前職で身に付けた通常の知識や経験は、そもそも非公知性を有していないと考えられ、営業秘密には該当しないと考えられます。
もし、前職の会社が、転職者の知識や経験のうち非公知性及び有用性を満たす「何か」を営業秘密としたいのであれば、それを営業秘密として管理して転職者に認識させる必要があります。

裏を返すと、企業は守りたい情報を営業秘密として管理しないと、守りたい情報を転職者に自由に持っていかれることになります。また、従業員に対して、営業秘密を理解してもらわないと、理解が不十分な転職者に営業秘密を持っていかれ、不要な争いを招きかねません。
例えば、営業秘密の理解が不十分な従業員は、もしかすると、その営業秘密であっても「自身が開発した技術に関するものであるから持ち出しても良い」と考え、転職時に持ち出すかもしれません。


一方、②に関しては、こちらの方が懸念が大きいかもしれません。転職者が営業秘密を十分に理解していたら、前職の営業秘密を持ち込むことはないでしょう。しかしながら、転職者が営業秘密を理解していない場合には、前職の営業秘密を転職先に持ち込む可能性があります。
これを防ぐためには、転職者に対して、転職直後に前職の営業秘密を持ち込まないとの誓約書に署名を求める、営業秘密を理解していないようであるならば転職直後に営業秘密に関する教育を行う等を行うことが考えられます。
なお、規模の大きい企業に限ることかもしれませんが、転職してしばらくの間(例えば数か月)、転職者を前職の職務とは関係ない部署に配属させ、その後本来従事してほしい職務(前職の職務と関係ある職務)に配属させるところもあるようです。これは、時間を置くことで、万が一前職の営業秘密が持ち込まれたとしても、既に非公知性を失っている等の状態となっていることを期待してのことだと思います。

あらためて思うこと、それは「営業秘密」が何であるかを個々が正しく認識することだと思います。
「営業秘密」=「会社が所有している情報(企業情報)」ではありません。
「営業秘密」=「秘密管理性、有用性、非公知性を備える情報」です。
企業は営業秘密に関する認識を正しく持ち、「自社から流出してはいけない情報」と「他社から流入してはいけない情報」とを峻別することで、離職者や転職者にも対応できるかと思います。

2017年8月7日月曜日

営業秘密における民事訴訟と刑事訴訟との関係

前回のブログでも書いたように、最近では営業秘密の漏えい元企業が刑事訴訟の後に民事訴訟を起こすという流れがあります。

逆の場合は少ないかと思いますが、例えば東芝とSKハイニックスとの間で起きた半導体製造方法の漏えい事件は、東芝がSKハイニックスに対して民事訴訟を起こした後に、情報漏えいした者(犯人)を刑事告訴しているかと思います。

刑事訴訟の後に民事訴訟を起こした事件として下記のものがあります。
日本ペイント事件
 日本ペイントの営業秘密(塗料「水性エンケース」の情報をUSBに複製)を持ち出したとして平成28年2月16日逮捕

自動包装機械事件
 原告会社の元従業員4人が競合他社へ営業秘密(自動包装機の設計図)を持ち出して転職。営業秘密の漏えい事件で初めて被告会社に刑事罰が科された事件
 被告人4名、懲役1年2ヶ月~2年6ヶ月(執行猶予3年又は4年)、罰金60万円~100 
 被告会社 罰金1400万円(横浜地判平成28.1.29)

エディオン営業秘密事件
 原告会社(エディオン)の元部長(被告)が転職先の上新電機に営業秘密(リフォームに関する商品仕入れ原価や粗利のデータ等)を漏えい。
 懲役2年(執行猶予3年)、罰金100万円(大阪地判平成27.11.13)



このように、刑事告訴と民事訴訟をセットにするパターンが増えた背景には、転職に伴い営業秘密を漏えいする事件が増加したからではないでしょうか。
刑事告訴されて有罪が確定した事件の一覧を参照すると、以前は売却する目的で顧客情報や技術情報を持ち出しした事件が多かったようですが、近年は転職に伴い営業秘密を転職先に持ち出す時間の割合が増加していると思います。
営業秘密の売却では、売却先が名簿業者であったりすると、そもそも名簿業者の企業規模も小さく、既に存在しなくなっている場合もあったでしょうから、高額な損害賠償の請求や営業秘密の使用の差し止めにあまり意味がないと思われます。
一方で、転職先企業に営業秘密を漏えいさせた場合は、その転職先企業で営業秘密を使用することも想定され、かつ高額な損害賠償に対する支払能力もあるでしょう。
こういう背景から、刑事告訴と民事訴訟とがセットになるパターンが増えたとも考えられます。

また、前回のブログでは刑事告訴を先に行うメリットとして、漏えい元企業のメリットについて述べましたが、刑事告訴を先に行うメリットは、転職者等を介して営業秘密が意図せずに流入した企業にもあると考えられます。

例えば、日産自動車の元従業員が日産自動車の営業秘密を転職先であるいすゞ自動車に持ち込んだ例があります。
この場合、いすゞ自動車は、日産自動車の営業秘密を使用したと疑われる立場にあります。
しかしながら、刑事事件の取り調べの過程において、いすゞ自動車において営業秘密の使用はなかったことが分かったようです。

参照記事:http://www.asahi.com/articles/ASJB0513VJB0ULOB015.html

刑事事件においてそのような判断がなされたのであれば、日産自動車もいすゞ自動車に対して民事訴訟を提起する可能性は相当低いでしょう。
もし、日産自動車が民事訴訟を先に提起した場合、いすゞ自動車は日産自動車の元従業員と共に被告の立場として自らの潔白を立証する必要があったでしょう。
すなわち、先に日産自動車が先に刑事告訴をし、それが確定したとしたことにより、いすゞ自動車は民事訴訟において被告となることを回避できたとも考えられます。
このように、営業秘密が意図せずに流入した企業は、刑事事件となった場合には、自らの潔白を証明するためにも、警察に対しては協力的な態度で臨むに限ると思われます。

2017年8月3日木曜日

日本ペイントが菊水化学に対して民事訴訟を提訴

先月、営業秘密の漏えいに関して日本ペイントが菊水化学で民事訴訟を提訴したようです。
日本ペイントのプレスリリース
産経ニュース

この事件は、日本ペイントの元執行役員が菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出し、菊水化学で開示・使用したというものです。
この元執行役員は既に逮捕・起訴されています。
産経ニュースを参照すると、日本ペイントは菊水化学と元執行役員に対して約9億6000万円の損害賠償と12製品の製造・販売の差し止めを求めているようです。

ちなみに、このニュースが報じられたのは7月15日(土)であり、週明けの株式市場において菊水化学の株価は前日終値447円であったものが435円に下がっています。下落率は大きくないもののこの日の出来高は42,300であり、7月14日の出来高が12,100であることやその前後日の出来高を鑑みると、この報道が悪材料として株価にも影響を及ぼしているとも考えられます。
・菊水化学の株価時系列
なお、菊水化学に転職した元執行役員が逮捕されたとの報道がされたときは、菊水化学の株価は前日460円(2016年2月16日)であったものが当日405円(2016年2月17日)とのように12%も下落しており、株価にもかなりの影響を与えています。


このように、最近の営業秘密関連の訴訟の特徴の一つに、営業秘密を漏えいさせた者(犯人)を刑事告訴した後に、その犯人と共に営業秘密を使用した者(転職先企業)に対して民事訴訟を行う、という傾向があります。
これは、請求人(営業秘密の漏えい元企業)にとって、営業秘密の漏えいの立証を警察側が行ってくれるというメリットがあると思われます。すなわち、刑事訴訟において営業秘密の漏えいの事実及び犯人が確定(ほぼ確定)すると、民事訴訟ではその争いを略行うことなく、損害賠償請求や差止請求の争いのみとなることが期待できます。
特に、営業秘密の訴訟では、秘密管理性、有用性、非公知性の有無が大きな論点になりますが、刑事手続きの段階でそれが認められているので、漏えい元企業は民事訴訟に関して時間及び費用の大幅な削減が期待できると思われます。
これは、漏えい元企業にとって大きなメリットであると考えられ、営業秘密の漏えい元が刑事告訴も行う場合には、刑事訴訟の次に民事訴訟という流れができつつあると思われます。