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2018年8月27日月曜日

特許制度は優れた管理システム

営業秘密について考えると、その管理手法も重要になります。
ここでいう管理手法とは、営業秘密の三要件のうち秘密管理性のことではなく、データ等の管理システム等についてです。

営業秘密とする情報は、誰が管理するのでしょう?
それは各企業ごとに異なります。
管理主体は法務部、知財部、又は当該情報を使用する事業部等でしょうか?

また、営業秘密とする情報は、実際の業務で使用することが多いでしょう。
そうであるならば、管理を法務部や知財部で行ったとしても、技術情報ならば技術開発部で使用したり、顧客情報ならば営業部で使用したりします。そして、その内容は逐次更新される可能性もあります。
そうすると、営業秘密の使い勝手を良くするために、ITを使った営業秘密管理システムを構築するのでしょう。
そして、構築した営業秘密管理システムに対するアクセス管理も行います。
さらにこのシステムはクラウドにするほうが使い勝手が良いでしょう。
また、営業秘密とするデータが更新された場合は、更新される前のデータをどうするべきでしょうか?念のためシステム上に残すのでしょうか?それとも破棄するのでしょうか?
いづれにせよ、ルール作りが必要となります。
そのような様々なことを考えると、営業秘密管理システムの構築費用が相当なものになるでしょう。


一方、特許制度はどうでしょうか?
特許出願をすると1年6月後に全て公開公報として公開されます。
公開公報は、独立行政法人であるINPITが運営するJ-PlatPatで閲覧することができます。
このJ-PlatPatはインターネットで誰でも閲覧でき、また検索機能を有しているため、出願人やキーワード等で検索できます。
また、特許の審査が開始されるとそのステイタス、拒絶理由通知がなされたか、補正されたか、これらの内容を確認できます。
そして、特許査定となると特許公報が閲覧でき、年金の支払い状況等の権利継続状況も確認できます。

いうなれば、J-PlatPatは特許の管理システムです。
さらにいうと、この管理はINPITが行ってくれ、かつ特許制度、換言すると日本国が存続する限り管理し続けてくれます。
このため、自社が過去に何時どのような出願を行ったのか?そのステイタスはどうなっているのか?このようなことを簡単に確認できます。
しかも、J-PlatPatで管理してもらうためには、最低で1件1万5千円を支払えばいいのです。具体的には特許出願時に出願料として1万5千円を支払えば、出願から1年6月後に公開公報という形でJ-PlatPatで管理を開始してくれます。
特許の明細書を特許事務所に作成させる手数料を考えなければ、システムの作成費用、管理費も不要ですし、安価と考えられるのではないでしょうか?
しかも、時々より使いやすくなるようにバージョンアップしてくれます。

特許出願は公開されますが、このようにJ-PlatPatを自社の特許管理システムと考えると、見方が変わるのではないでしょうか?

技術情報の営業秘密化は特許化よりもコストが掛からないという考えもあるようですが、私は決してそうは思いません。
技術情報を営業秘密化しても、技術情報は日々新しいものが公知となります。このため、営業秘密化した技術情報については、その内容によっては非公知性の喪失の有無を定期的に確認する必要があるでしょう。この非公知性の確認には当然コストが掛かります。
もし、非公知性が失われているにもかかわらず、そのまま営業秘密として管理していると秘密管理性の形骸化を招き、営業秘密化している他の技術情報の秘密管理性に影響を与える可能性も否定できません。
また、営業秘密化する技術情報は、特許明細書と同様に文章化が必要なものもあるでしょう。そうすると、その作成にはコストが掛かります。
そして、上述のように、営業秘密管理システムの構築、メンテナンスにはコストが掛かります。

このように考えると、営業秘密として技術情報を管理することは決して安価ではないでしょう。営業秘密を適切に管理しようとすれば、特許出願よりもトータルで高コストになる可能性が高いと思います。

技術情報を特許出願又は営業秘密化をコストの面から判断することは適切ではないかと思います。
しかしながら、現在の日本は特許公開制度を有しており、特許公報等はJ-PlatPatで閲覧可能です。であれば、これを特許管理システムと位置づけ、自社の基準として公開可能な発明であれば、他者による権利化を阻むというメリットも考慮し、特許出願を行うことを考えてもよいのではないでしょうか?

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年8月20日月曜日

営業秘密の民事訴訟は生々しい

今回は営業秘密に関するものの、さほどかたい話ではありません。

営業秘密に関する訴訟も知財に関する訴訟といえるでしょう。
ここで、知財に関する訴訟といえば、特許侵害訴訟当です。
特許侵害訴訟であれば、その構成要素を全て充足する製品を被告が製造等しているか?といったように主に技術論になり、ドロドロした感じはほとんどありません。
まあ、裏側には被告企業のことが気に入らない、というような原告側の気持ちもあるかと思いますが、判決文からは読み取れません。

一方、営業秘密に関しては、判決文を読んでいてもドロドロ感があります。

例えば、顧客情報に関するものであれば、元従業員や元役員等であった退職者が被告になる場合が多いのですが、中には原告の無理筋ではないかと思われる訴訟もあり、原告の気持ちが何となく伝わります。
要するに、“自社の顧客を持っていかれて気に入らない。だから何とか訴えられないか?”という気持ちでしょうか。
元がこんな感じ(私の想像ですが)であるため、営業秘密の特定も不十分な場合もあり、複数の訴訟の中には裁判所が「原告の主張する営業秘密が何であるのか特定できないため、秘密管理性、有用性、非公知性の判断ができない。」とのように判断され、棄却となる例もあります。


また、営業秘密の訴訟では、個人が被告に含まれる場合が多いので、その被告と原告企業との関係が細かく判決文に記載されています。例えば、被告が原告企業にいつ入社し、どのような業務に従事し、いつ退職し、どこに転職したかというようにです。
被告が複数人存在すれば被告毎にそれが記載され、被告間の関係も記載されていたりします。

例えば、ある訴訟では人間関係の複雑さを感じさせるものがありました。
それは、Aが同僚のBに自身と共に転職を促し、かつ営業秘密の持ち出しを企てたものの、Aは結局転職せずBのみが転職し、在職していた企業から訴えられたというものもありました。Bにとってみたら、納得しがたいものがあるでしょう。

さらに生々しさのある訴訟としては、競合他社へ転職した元従業員を被告とした訴訟において、転職先企業と被告との関係を示すものとして、被告が転職後に乗り換えた自家用車、具体的には被告がステップワゴンで妻がフィットであったものを、妻の名義でレガシーワゴンと中古のメルセデスベンツに買い替えたとの事実認定がされたものがありました。確かに転職後に自家用車のグレードが明らかにアップしています。
これは、転職企業から被告へ与えた利益を示すものとして、原告が調べたのでしょう。原告は、被告が競合他社に転職すること、しかも自社の営業秘密を持ち出していることに気が付いていたので、被告を解雇しています。そして、被告の行動を可能な限り調べたのでしょう。

このように、営業秘密関連の訴訟は特許侵害訴訟等とは少々異なる“色”もあり、まさに民事訴訟という感じでしょうか。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年8月13日月曜日

技術情報の複数の管理手法

技術情報の管理、あまり使われない表現かもしれませんが、私は理想的には下記3つの手法を技術情報の管理と考えます。

①特許化
②秘匿化
③放置管理

なお、放置管理とは、特許化、秘匿化の何れも選択されなかった技術情報をその後、その技術内容及び放置管理に至った経緯を含めて確認できるように管理”をすることです。放置管理は、文字通り何ら管理しないというものではありません。
また、さらに細分化すると「権利化を伴わない公知化」というものもあるかと思います。例えば自社の技術力アピールのためにホームページ上で技術情報を公開するといったものです。しかしながらこのような手法を選択する場合は少ないと思いますので割愛します。

そして、上記①~③は同列のものであり、例えば特許化ありきで特許化しないから②又は③というものではないと考えます。

しかしながら、実際には多くの企業は「①特許化」を視点において技術情報の管理を行っているのではないでしょうか。この理由の一つとしては、技術者や事業部等又は知財部に出願件数のノルマを課す等することで、技術開発を促すことにもあるかと思われ、さらに特許出願件数を安定して行うためにも大変有効な手段かと思います。

また、特許出願は技術情報の管理という視点からすると、企業にとってとても容易な手法であるとも思えます。
特許出願後は審査請求、中間処理、特許査定後は年金の支払い、これらは所定のコストさえ支払えば代理させている特許事務所が管理してくれ、逐次クライアント企業に報告してくれます。
このように技術情報を特許化することは、企業にとって独占排他権を得るというメリットの他に技術情報の管理が容易であるというメリットも大きいかと思います。


しかしながら、技術情報の特許化は公開という多大なるリスクがあります。すなわち、特許出願は公報によって全て公開されます。
このため、他社の公報から技術情報を知得し、自社の技術とすることが行われています。
これは他社の特許権を実施しない限り違法なことではありません。
このため、侵害の特定が困難な技術、例えば一般には公にならない工場等でのみしか実施しない技術情報等は特許出願を行わないという選択、すなわち秘匿化が広く取られています。

では、このような企業が秘匿した技術情報はどのように管理されているのでしょうか?
例えば、営業秘密の三要件を満たすように管理されているでしょうか?
それとも、だれでもアクセス可能なサーバ上のフォルダ又はキャビネットの中、さらには従業員が使用しているパソコンの中に保存されたままとなっているのではないでしょうか?
技術情報の特許出願ありきの考えではこのような管理に陥り、万が一の場合に法的に争っても負ける事態となりかねないと思われます。

さらに、特許出願しないさらに自社実施もしない技術は、誰も管理せずに放置されたままとなるでしょう。このようなことは企業が労力とコストをかけたに技術もかかわらず、忘れ去られることになり得ます。

以上のようなことが特許出願ありきの技術情報管理で陥るかもしれない事態です。すなわち、特許化ありきの管理では、特許出願しない技術情報に対する意識が非常に低くなってしまうため、秘匿化、放置管理に対する対応が不十分なものになります。

一方で、①特許出願と②秘匿化、③放置管理を同列に考えることでこのような事態を防げるかもしれません。
すなわち、技術情報を特許化ありきではなく、秘匿化と放置管理もその管理手法の一つとして積極的に“活用”することです。

このためには、秘匿化と放置管理の手法を企業ごとに確立する必要があります。
秘匿化であるならば、まず秘密管理性ですが、どのように秘密管理を実行するのか?これは情報の種類によっても異なるかもしれません。工場等で使用している技術情報もあるでしょう。製品に用いられている技術情報もあるでしょう。色々な人が日々の業務で使用している技術情報もあるでしょう。

また、秘匿化された技術情報が他社により公知となったか否かの確認もするべきかもしれません。公知となった技術情報を何時までも秘密管理していると、秘密管理の形骸化を招き、他の技術情報の秘密管理性に影響を与えるかもしれません。
さらに、放置管理するのであれば、放置管理された情報をどこの部署が管理するのか?知財部なのか?技術開発を行った事業部なのか?というようにルールを決めなくてはなりません。
このようなことを企業は管理の手間を考慮しつつ決定する必要があるかと思います。直感的に特許化の方が管理が容易ですね。

また、①~③のうちどの管理手法を取るかという点に関しては、例えば技術情報の公開可否を最初の基準として検討し、公開可能であれば特許化又は放置管理の何れかとのように考えることもできるでしょう。公開不可の判断ならば秘匿化です。公開可能でありかつ独占排他権を得たいのであれば、特許化です。
また、秘匿化の判断には特にリバースエンジニアリングによる公知化の可能性を考慮しなければなりません。当該技術情報を製品に用いる場合、この製品をリバースエンジニアリングすることで容易に知ることができれば営業秘密でいうところの非公知性を満たしません。
そうであるならば、秘匿化よりも特許化の方がよいとの判断もあり得ます。また、製品化までは秘匿化し、製品が市場にでると同時に特許出願を行うという選択もあり得ます。
さらに、秘匿化、放置管理については、例えば半年ごとに当該技術情報の価値を考慮し、特許化の判断を行うという作業もあるでしょう。

以上、色々書き並べましたが、技術情報に対する管理として①特許化、②秘匿化、③放置管理をを同列に考えることで、知財活動がより充実したものになるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年8月9日木曜日

ノウハウ、言葉の定義

過去のブログ記事でも書いたように、「営業秘密」という文言は不正競争防止法第2条第6項で法的に定義があります。
すなわち、秘密管理性、有用性、非公知性の三要件を全て満たす情報が営業秘密となります。
しかしながら、似たような言葉で、ノウハウ、企業秘密、秘密情報等は法的な定義がありません。このため、その解釈は人それぞれかと思います。

参考過去ブログ記事
どの様な情報が秘匿化できるノウハウとなり得るのか?
ノウハウと特許との関係を図案化

以前のブログで私はノウハウや営業秘密の関係を下記図1のように考えていることを述べました。
企業が有するノウハウの一部が営業秘密という考えです。ノウハウの中には、秘密管理性等の上記三要件を満たさない情報もあり得ると考えたためです。


図1

しかしながら、ノウハウについて上記図のような考えが特に一般的といえるものではないようですね。

ノウハウとは下記図2のように営業秘密のさらに下位概念に当たるという考えがあることを、先日ある企業の知財部の方とお話して認識しました。

図2

上記図のようなノウハウと営業秘密との関係では、ノウハウは営業秘密の一部であり、実際に事業に使用され、利益に貢献するものという考えです。確かに、営業秘密の中には、事業に使用していないものや利益に貢献しないものも含まれる可能性があります。
このような考えでは、ノウハウは営業秘密の一部となりますし、ノウハウの定義は図2のほうが一般的なのかもしれません。
図1と図2どちらの解釈が一般的なのでしょうか?非常に知りたいところです。

ノウハウの一般的な認識を知りたいのは当然なのですが、この記事で一番言いたいことは、言葉の定義に対しては共通認識を持つべき、という当たり前のことです。
定義が明確でない言葉は、人それぞれの解釈があって当然です。
今回のようにノウハウの定義は図1又は図2の何れの解釈でも正解だと思います。
法的な定義の無い言葉ですから。
しかしながら、少なくとも同じ企業内において、言葉の定義に対して共通認識を持たないと、議論が噛み合わなかったり、誤解を生じたりします。

特に、秘匿するノウハウに関しては今後、特許と同様に発明者にインセンティブを与える企業が多くなるでしょうし、このような制度の検討を開始している企業もあるでしょう。
この際、初めに言葉の定義を明確にすることが肝要かと思います。

なお、営業秘密は法的にその定義が定められています。そして、三要件の解釈も裁判例から明確になりつつあります。すなわち、営業秘密は、一般的な共通認識を得やすい言葉です。
そこで、各企業は、営業秘密という言葉の意味を基準として、ノウハウ等、法的に定義が定められていない他の言葉の定義を定めては如何でしょうか。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年8月6日月曜日

PwC Japan の「経済犯罪実態調査2018 日本分析版」

PwC Japanから「経済犯罪実態調査2018 日本分析版」が発表されました。

営業秘密の不正な漏えいも経済犯罪の一つであり、この調査では“営業秘密”との文言はないものの、20ページに以下のような記述があります。

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知的財産(IP)の盗難については、世界全体の結果である12%と比べると日本では顕著に多いという結果になった。これは日本企業の知的財産(IP)の重要性に対する認識が低く、従業員が企業のネットワーク外のパソコンへ情報を共有するなど情報管理が適切でないことや、そもそも知的財産(IP)を含めた情報セキュ リティシステム全般が脆弱であることが要因であると考えられる。
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この調査は、主として外部からの攻撃による経済犯罪に対する調査の様ですが、確かに日本企業は知的財産の重要性に対する認識が低いように感じます。
近年では、企業における知財部の重要性の認識も高いものの、一昔前は知財部自体を重要視していなかった企業も多かったようです。
そもそも日本企業は、終身雇用が前提でしたので、知的財産に代表されるような自社の情報の漏えいはあまり問題視されていなかったのでしょう。また、古き良き日本の風潮なのかもしれませんが、お互い様とのような感じで、特許権の侵害そのものにある意味の寛容さを有していたようにも思えます。
その延長線上で、外部からの攻撃に対する認識も低いのかもしれません。

また、前回のブログ記事「論文「営業秘密の経済学 序論」」でも紹介したように、日本企業は発明の特許化が前提となっていることも裏を返せば、知的財産の重要性に対する認識の低さの表れなのかもしれません。
すなわち、知的財産について深く考えずに、特許化しておけばそれで良し、というような考えです。
また、自社にはわざわざ秘匿する技術は何もないと言っていしまう人や、営業秘密の漏えいに対する問題意識があまりにも低い人達も存在します。
現に、私が行く先々で営業秘密のお話をしても、刑事罰を受けた人が存在することすら知らない人がほとんどです。

知的財産を守る手段は、特許だけではありませんし、知的財産は特許だけでもありません。顧客情報や取引先の情報、新規なビジネスモデルのアイデアも知的財産です。

企業は改めて自社の知的財産は何か?、それの漏えいリスクは?、それを守るためにはどのような手段があるのか?、こういったことを考える必要があるのではないでしょうか。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年8月3日金曜日

論文「営業秘密の経済学 序論」

営業秘密に関する近年の論文で面白いものを見つけました。
「営業秘密の経済学 序論」です。
inpitのホームページから閲覧することができます。

この論文は、営業秘密と特許との差を分かりやすく説明されているもので、それらの経済的な効果も過去の研究結果を踏まえて説明されています。
営業秘密と特許との法的な違いよりも、経済的な違いをざっくりと理解する上で非常に参考になります。
また、「序論」とのことですので、これから「営業秘密の経済学」について引き続き発表されるのかと思います。続きが楽しみな論文です。

ここで、営業秘密化と特許化とを選択する上でのキーワードは、「公開」と「リバースエンジニアリング」でしょうか、本論文でもこれらの言葉が複数回表れています。
より具体的には、特許化は「公開」により技術が知られるリスクがあります。特許出願が特許査定を得るれないと、単に技術を公開しただけになります(公開によるメリットがあるとも考えられますが)。
一方、営業秘密化は、当然、特許のような公開制度はありませんが、自社製品の「リバースエンジニアリング」によって他者に当該技術が知られた場合に法的措置を取れないリスクがあります。

特許については、公開リスクや独占排他権の優位性等が広く理解されています。一方、営業秘密については、秘匿化の利点は理解されても、リバースエンジニアリングのリスクだけでなく。秘密管理性、有用性、非公知性の詳細についてまでは多くの方は理解されていないと思います。

参考:特許と営業秘密の違い


そして、本論文では「西村(2010)は、日本の企業が発明を特許化するか企業秘密とするか、という点についての実証分析をおこない、日本の企業はこの選択を戦略的におこなっているのではなく、基本的には特許化することを前提に研究開発を行い、特許化するのにうまく適合しないような発明については例外的に企業秘密として秘匿している、としている。」とも述べています(10頁左欄)

確かに、私も特許業界に10年以上おりますが、そのような印象を強く持ちます。
より具体的には、研究開発者や事業部ごとに年間の出願件数のノルマを与えている会社が多いかと思います。これは、発明は特許出願ありきという知財活動になりがちであり、秘匿化についてはほとんど考慮に入れられないと思われます。

私は、発明に対する管理方法として、特許化と営業秘密化は同等のもの、換言すると、両輪であり、特許と営業秘密との違いを十分に理解したうえで、技術情報の管理として経済的にベストである方を選択する、これが理想とする知財管理の一つではないかと思います?

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年7月26日木曜日

韓国における営業秘密に対するタイムスタンプ利用

2010年の情報と少々古い情報ですが、韓国のKIM&CHANG法律事務所のNEWS LETTERに「韓国特許庁 営業秘密原本証明サービス導入」という記事を見つけました。
この記事には下記のような説明があります。

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これは「タイムスタンプ(time stamp)」という電子的技術を利用するもので、サ ービスを利用しようとする個人や企業は自主的にプログラムを利用して証明を受けたい電子文書から電子指紋(hash code)を抽出して、特許情報院へオンラインで提出する。特許情報院は提出された電子指紋に該当するタイムスタンプを発給し、後日検証が必要な場合、特許情報院が保存している電子指紋と発給されたタイムスタンプの比較によってその生成時点と原本かどうかを確認することになっている。
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韓国のこの営業秘密現本証明サービスは、要するに日本のタイムスタンプ保管サービスと同様のサービスのようです。
しかしながら、日本のタイムスタンプサービスは2017年3月開始ですから、韓国のサービスはそれよりも6年半ほど早いことになります。
また、韓国のサービスは同様のサービスでありながら、「営業秘密」を前面に持ち出していることが特徴的だと思います。韓国は営業秘密の漏えいに対して問題意識が高いようですので、その影響なのでしょうか。


さらに、韓国の「営業秘密原本証明サービス」に関する記事をJETROでも見つけました。


この記事によると、「企業の営業秘密を保護するために2010年11月に導入した営業秘密の原本証明サービスを1年9ヵ月間129社が利用し、累積登録件数が1万件を超えた」とのことです。サービスに対する需要が相当あったようです。
2年弱で累積登録件数が1万件超とのことですので、今現在では登録件数は数万件でしょうか。

さらに、上記記事には「個人や中小企業などでは、技術移転や取引を始める前に、起こり得る紛争に備えた安全措置としても活発にサービスを利用している。」ともあります。
起こり得る紛争とは、技術情報を他社(韓国では大企業でしょうか。)に開示した場合に、開示先に当該技術情報を不正に使用されることを指し示しているのだと思います。

このような場合、技術情報の開示元企業が自身が当該技術情報の保有を開始した時期をタイムスタンプで証明することにより、開示先企業が開示元企業からの情報開示後に当該技術情報を使用した可能性を主張できることになるかと思います。
一方、開示先企業がこれに対抗するためには、自身が当該技術情報を情報開示前から保有していたことを主張する必要があります。この主張のためにもタイムスタンプは利用できるでしょう。
また、他社に自社の技術情報を開示した後に、当該他社に当該技術情報に係る特許権を取得された場合であっても、まずは先使用権主張のための証拠にも用いることができます。先使用権を有していれば他社に特許権を取得されても、制限はあるものの当該技術情報の自社実施が可能となります。

このようなタイムスタンプを用いた営業秘密管理は、特別なことではなく、当然どの企業でも簡単にできます。
営業秘密管理には、何時からその情報を保有していたのかという証明のために、日付の特定も重要かと思います。特に他社に自社の技術情報を開示する場合や他社の技術情報の開示を受ける場合には、タイムスタンプを利用することを検討されては如何でしょうか。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年7月23日月曜日

オープンイノベーションと秘匿化技術の開示、NDAの重要性

近年、「オープン&クローズ戦略」や「オープンイノベーション」という文言がもてはやされ話題になっています。

オープンイノベーションの定義については、人ぞれぞれかと思いますが、ざっくりとした私の理解では「他社等との共同開発や協力関係により自社だけではなし得なかったビジネス展開を進める」といったものです。一般的には、自社のみで技術開発等を行う自前主義(クローズドイノベーション)の対極に位置する考えとされています。

また経済産業省を中心として、オープンイノベーションに関する色々な資料が公開されています。下記に一部をリンクしますが、他にも多々あります。

NEDO:オープンイノベーション白書(第二版掲載 2018年6月)
経済産業省:オープンイノベーションと知財の管理・契約リスクに関する啓発パンフレットを公表しました(公表日 2018年6月)
経済産業省:「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(初版)」をとりまとめました(公表日 平成29年5月18日)
近畿経済産業局:中小・ベンチャー企業のためのオープン・イノベーション ハンドブック(最終更新日:平成28年4月15日)


ここで、前回までのブログ記事で紹介したストロープワッフル事件ももしかしたら、オープンイノベーションを期待して原告が被告と提携関係を結ぼうとしたのかもしれません。

過去ブログ記事
-判例紹介- ストロープワッフル事件 その1 ビジネスモデルを営業秘密とすること 
-判例紹介- ストロープワッフル事件 その2 ビジネスモデルを営業秘密とすること

この事件では、原告はストロープワッフルの実演販売に十分な経験を有していなかったようですから、被告を取り込むことでこのストロープワッフルの実演販売をビジネスとして成功させようという目論見があったのではないかと想像します。
しかしながら、原告は被告との提携関係を結べず、逆に被告にストロープワッフルの実演販売のビジネス化の機会を与えただけになりました。

この事件において原告の決定的な失敗は、原告と被告との間の交渉段階において秘密保持契約(NDA)を締結していなかったことだと考えます。この事件ではたとえNDAを締結しても、原告のノウハウは有用性・非公知性を満たさず、営業秘密としての不正競争防止法による法的保護は受けられない可能性が高いかと思います。
しかしながら、締結するNDAの内容にもよりますが、原告と被告との間でNDAを締結することで、被告が実施したストロープワッフルの実演販売に対してNDAの契約不履行で民事的責任を負わせることが可能だったかもしれません。

上記事件のように、オープンイノベーションを行うにあたり、特に技術情報に関しては自社の秘匿化技術(ノウハウ)を他社に開示せざる負えない状態になることが多いかと思います。
これは当然のことと考えられ、オープンイノベーションにより新たな技術を導入したい企業にとって、この新たな技術は公知でない他社のノウハウである可能性が非常に高いからです。もし、必要な技術が公知技術であれば、オープンイノベーションをするまでもなく自社開発が可能でしょうから。
また、新たな技術を導入したい企業も、上記事件のように、オープンイノベーションにより協力関係を築く他社に自社の秘匿化技術を開示しなければならない可能性が有るかと思います。

このように、オープンイノベーションには他社に対して自社の秘匿化技術の開示が必要な場面があり、これは企業にとって非常にリスクの高いことかと思います。

しかしながら、オープンイノベーションを説明している資料には、情報開示リスクの視点がやや欠けているものが多いかと思います。
これに関して、上記の近畿経済産業局の中小・ベンチャー企業のためのオープン・イノベーション ハンドブックには情報開示リスクへの対応策が詳細に記載されています。すなわち、オープンイノベーションにおける秘密保持契約(NDA)の重要性についてです。また、経済産業省のオープンイノベーションと知財の管理・契約リスクに関する啓発パンフレットを公表しましたにもわかりやすく記載されています。

以上のように、オープンイノベーションを行うにあたり秘匿化技術の開示に関する意識が十分でないと、オープンイノベーションに関する交渉決裂後や終了後に他社に自社のノウハウを使用されるという思いもよらなかった事態に陥る可能性が考えられます。
このため、オープンイノベーションにおけるNDAの重要性を理解し、かつ必要以上に相手方に秘匿化ノウハウを開示しないことを心掛けるべきかと思います。

また、重要な自社技術については、特許権を取得することも当然に考慮しなければなりません。特許権を有していれば、相手方が許諾無く実施した場合には、NDAの締結に関係なく侵害となります。
特許権の取得のためには技術を公開する必要がありますので、公開する技術内容、すなわち特許出願明細書に記載する技術内容を十分に検討する必要があります。公開したくない技術は秘匿化です。

新たな技術を自社開発した場合、それをどのように管理するのか、具体的には特許出願するのか、秘匿化するのか、それとも何もしないのか、これらを当該技術を使用する場面を想像しながら常に選択する必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年7月2日月曜日

日本の特許出願件数と企業の研究開発費の推移

技術情報の秘密管理の重要性を説明するうえで、私がよく使っているグラフが日本の特許出願件数と企業の研究開発費の推移です。

特許出願件数はピーク時の2/3近くまで下がっている一方で、研究開発費はそのような傾向を示していません。このことから、秘匿化されている技術は、特許出願件数のピーク時に比べ相対的に多くなっているという予測に用いています。

このグラフを更新しましたので、ブログでも紹介しようかと。
新たに追加したデータは、2017年度の日本国内の特許出願件数と2016年の日本企業の研究開発費の値です。

特許出願件数は、リーマンショックを機に右肩下がりでしたが、ここ近年では下げ止まってきているかと思います。これは特許事務所としては良い傾向です。

一方、日本企業の研究開発費は、リーマンショック後から回復しましたが、近年では下げ基調です。まあ、下げ基調だからと言って、営業秘密の重要性が変わるわけではありませんが。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月11日月曜日

ー判例紹介ー 被告の営業秘密を裁判の証拠資料に用いること

被告の営業秘密を裁判の証拠資料に用いることの是非が裁判所で判断された件がいくつかあります。 過去にもこのブログでそのような判例を紹介したことがあります。 

参考過去ブログ:営業秘密を裁判の証拠資料とすることは”使用”にあたるのか? 

ここで、このような判断がされた別の裁判例を紹介します。
これは、東京地裁平成26年6月20日判決の職務発明対価請求事件です。 事件名のように、「被告の従業員であった原告が,被告に在籍中,被告の業務範囲に属し,かつ原告の職務に属する「選択信号方式の設定方式」に関する発明をし,これの特許を受ける権利を被告に承継させたとして,被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法(以下,単に「法」という。)35条3項に基づく相当の対価の一部として,5億円及びこれに対する催告の日の翌日である平成22年5月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める」という事案です。

本事件において被告は、下記のように主張しています(下線は筆者が付したものです。)。
―――――――――――――――――――――――――――
(1)原告が提出した書証のうち,甲6の1ないし3(中略)は,いずれも違法収集証拠であるから,証拠の排除を求める。
(2)上記各書証はいずれも,被告が社内でその原本を秘密情報として管理している文書(以下「本件社内文書」という。)の写しであり,原告が被告在職中に入手したものである。原告は,被告の就業規則(31条:退職者の責任,33条:機密漏洩の禁止)及び企業秘密管理規定(22条:退職・退任時の文書の取付け)などに基づき,被告が秘密裡に管理する文書についての社外への持出し,記載内容の開示,漏洩を禁じられていた。また,原告は,退職に当たり秘密保持誓約書に署名押印し,かつ,業務上作成した文書等を会社に返還した旨の退職者チェックリストを提出した。したがって,原告は,本件社内文書の記載内容について法律上秘密保持義務を負っており,かつ本件社内文書の写しを在職中社外に持ち出すことができず,退職時には被告に対し返還する法律上の義務を負担しているのである。
 よって,上記各書証は,原告がそれを所持し提出することが適法であって,上記義務に反しないことを証明しない限り,違法に所持し又は収集された証拠に当たるから,証拠能力を有しないというべきである。
(3)また,被告は営業秘密を厳重に管理し,従業員に対して秘密保持義務を何重にもわたって課し,退職時にも書類を返還済みであるとの誓約書を提出させて,営業秘密管理の実効性を担保しているにもかかわらず,原告は,書類を全て返還済みであるとの誓約書を提出するという詐術により被告を錯誤に陥れてこれらの書類の返還を免れて社外に持ち出したのであり,このような行為は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号にいう不正競争に該当し,また,証拠収集の方法として社会的に見て相当性を欠くことは明らかである。原告がこのような不当な行為により社外に持ち出した営業秘密に係る文書を,職務発明対価請求のためという大義名分の下,自己の利益を図るために使用する行為は違法であり,不競法において営業秘密の保護が規定されている趣旨を没却する。
―――――――――――――――――――――――――――


これに対して裁判所は、「原告が被告の社内規則や自らの被告に対する書面による明示的な誓約に反して,本件社内文書を被告から持ち出し,あるいは被告に返還せずに,退職後も所持していることは,原告が,被告の従業員として労働契約又は信義則によって負担する,被告に対する法律上及び契約上の義務に違反するものであることは明らかというべきである。」とのように、原告による本件社内文書の所持は被告に対する法律上及び契約上の義務に違反することを認めています。

しかしながら、さらに裁判所は以下のように判断し、被告による証拠排除の申し立てを認めませんでした。
―――――――――――――――――――――――――――
(3)しかしながら,民事訴訟においては,証拠能力の制限に関する一般的な規定は存在せず,訴訟手続を通じた実体的真実の発見及びそれに基づく私権の実現も民事訴訟の重要な目的というべきであるから,訴訟において当事者が提出する証拠が,当事者間の訴訟外の権利義務関係の下で法律上,契約上若しくは信義則上の義務に違反して入手されたものといい得るとしても,それゆえにその訴訟上の証拠能力が直ちに否定されるべきものであるとはいえず,当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて採取されたものであるなど,それを民事訴訟において証拠として用いることが民事訴訟の目的や訴訟上の信義則(民訴法2条参照)に照らして許容し得ないような事情がある場合に限って,当該証拠の証拠能力が否定されると解するのが相当である。
 本件においては,上記のとおり,原告が本件社内文書を持ち出して,退職後も所持していることは,法律上及び契約上の義務に違反するものであって,被告に対する背信行為というべきものであるが,他方で,本件社内文書は,いずれも原告が被告における自己の業務に関連して接することができ,その業務の過程で入手し得たものと考えられること,それら本件社内文書が不競法2条6項に規定する「営業秘密」の成立要件を充たす文書であるか否かは必ずしも明らかでなく,また,原告は上記社内文書を法律上正当な権利の行使である職務発明対価請求訴訟の書証として利用しているにすぎないこと,本件社内文書のような使用者側の保有する特許権のライセンス契約等に関する社内文書は,職務発明対価請求訴訟において,一般的に請求の基礎となる事実関係の解明に重要な書類であり,職務発明対価請求訴訟は,本来企業と従業員若しくは元従業員との間の訴訟であるから,上記のような社内文書においても,閲覧制限の申し立てをし,当事者間で秘密保持契約を締結したりするなどすれば,上記社内文書が不用意に外部に流出することはないにもかかわらず,本件において,被告は上記社内文書等を書証として提出することを拒んでいること,以上の事情をも考慮すると,原告が被告在職中に入手した本件社内文書を本件訴訟において自己の有利な証拠として用いることは,いまだ著しく反社会的なものであるとまで断じることはできず,民事訴訟の目的や訴訟上の信義則に照らしても全く許容し得ないものとまでいうことはできない。
 よって,原告が提出した本件社内文書に係る書証につき証拠能力がないと断ずることはできず,したがって,被告の証拠排除の申立ては理由がない。
―――――――――――――――――――――――――――

このように本判例からは、被告の営業秘密であってとしても、原告が法律上正当な権利の行使である訴訟の書証として利用しするにすぎない場合には、当該書証は証拠能力を有しており、たとえ被告が証拠排除の申し立てをしても認められないと考えられます。
また、自社の営業秘密が訴訟の書証とされる被告側は、必ず当該営業秘密に対して閲覧制限の申し立てを行う必要があります。もし、閲覧制限の申し立てを行わないと当該営業秘密は裁判の証拠として開示されたことをもって、非公知性を失っていると判断される可能性が高いと考えられます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月7日木曜日

ノウハウと特許との関係を図案化

以前のブログにおいてノウハウとノウハウではない情報とを図案化しましたが、今回はこれに特許の要素を加えてみました。

参考過去ブログ記事:どの様な情報が秘匿化できるノウハウとなり得るのか?


上記図のように、公開済みの特許(特許公報、公開特許公報)は、誰でも見ることができるため、企業が有する“ノウハウ”ではなく一般知識であるとも考えられます。(特許権をノウハウと考えることもできるかと思いますが、ここではノウハウとは考えません。)
特許出願された技術は公報によって公知化されますが権利化されれば、当該特許権の権利者は独占排他権を有するため、たとえ公開されたとしても権利者以外は実施できませんし、もし権利者以外が実施した場合には損害賠償請求や差止等の民事的責任を負わせることができます。

ところが、特許権は、基本的に出願から20年が経過するとその権利は消滅します。また、国への年金の支払いを止めた場合も特許権は消滅します。
特許権が消滅すると、当該技術は誰でも自由に実施できる技術(自由技術)となります。

一方で、ノウハウは独占排他権はありません。
従って、同じノウハウを他者が実施していても、基本的にはそれを止めさせたり、損害賠償を請求することはできません。
例外的に、自社のノウハウを秘密保持契約を締結して他者に開示した場合に、当該他社が秘密保持契約に反する行為を行った場合に、契約不履行による損害賠償等の民事的責任を請求できます。さらに、営業秘密であれば、その開示や使用が不法行為であると不正競争防止法に基づいて民事的責任や刑事的責任を負わせることができます。

ところが、ノウハウを秘匿化し続けると、当該ノウハウを他者が真似することはできないため、実質的に当該技術の独占状態を保つことができます。当然、期限の縛りはありません。これがノウハウの秘匿化の最大のメリットです。

しかしながら、ノウハウを秘匿化しても、当該ノウハウが他者の特許権の技術的範囲内のものであれば当然、当該他者の特許権を侵害していることになります。
基本的に、秘匿化されたノウハウは他者に知られることはないので、例えそれが他者の特許権を侵害していたとしてもそれを追及されることはありません。
とは言っても、どこで当該ノウハウが漏れるか分かりません。そのため、秘匿化したノウハウについて先使用権主張の準備を行う企業が近年多くなってきています。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月4日月曜日

平成27年不競法改正における経済産業委員会での共産党の誤った意見

先日、本年度不正競争防止法等の改正案が参議院も通過したのですが、共産党等が反対したとこのことを聞いたので、どのような理由で反対したのか調べました。
まあ、参考になるようなことは言ってませんでしたね。

調べている過程で、前回の改正における「平成二十七年七月二日の第189回国会 経済産業委員会 第21号」において、日本共産党の倉林明子議員が以下のような意見を述べているのを見つけました。

「営業秘密流出の背景には、電機産業に代表されるような大規模リストラや、下請事業者の知的財産を親事業者が奪い取るような下請いじめを改めることこそ抑止効果を高めることにつながることを指摘し、反対討論といたします。」

 国会会議録検索システム:経済産業委員会 第21号 平成27年7月2日

この意見から鑑みるに、この議員は「リストラに合われた方や下請けいじめを受けた事業者が営業秘密を流出させる」と考えているようですね。


この意見に私は非常に驚きました。
私は、営業秘密流出の背景は「大規模リストラや、下請事業者の知的財産を親事業者が奪い取るような下請いじめ」ではないと思っています。

営業秘密流出は、企業における内部犯罪が主であり、その動機の一つに会社への不満もあります。しかしながら、会社に対して不満を持っている人は多くおり、営業秘密流出の原因を「リストラ」や「下請けいじめ」と考えることは非常に危険であり、間違っています。
このように営業秘密流出の原因をその人や企業の境遇に求める考えは、リストラに合われた方や下請けいじめを受けた事業者にあらぬ疑いをかけるだけであり、また非常に差別的な考えではないでしょうか。

その理由に、営業秘密の流出については従業員だけでなく役員等が行うものも多く、また、その動機としては情報の転売、転職先での使用や独立して使用することが主です。さらに、営業秘密に関する様々なセミナーや営業秘密に携わる人との会話の中でも、このような意見は一度たりとも聞いたことはありません。

この議員は、このような考えをどこで仕入れたのでしょうか?共産党内部でこのような誤った考えが蔓延しているのでしょうか?リストラや下請けいじめにあったことを理由とする営業秘密の漏えいがどれだけあるのでしょうか?逆に教えて頂きたい。

営業秘密の流出が起きた企業において、下手をすればこの議員のように確固たる証拠もなく、一部の人を疑う人間も出てくるかもしれません。また、企業がこれから営業秘密の流出対策を策定する場合においても、何の根拠もないこのような考えに立脚することがあれば、営業秘密の流出対策を誤ったものにする可能性が非常に高いと思います。

私は、営業秘密流出の根本的な原因は「法律を知らない」ことにあると思っています。
営業秘密流出が不正競争防止法で民事的責任が規定されたのは、平成2年であり、刑事的責任に至っては平成15年と近年です。
しかも、通常の生活では、このような法律は誰も教えてくれませんし、自主的に学ぶようなものでもありません。

このため、企業が営業秘密流出を防止するためにやるべきことは、このような法律があり、現に民事的責任、刑事的責任を負わされている人が多数存在することを従業員等に教えることだと思います。これは企業の責任であるとも思います。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年5月31日木曜日

ノウハウの漏えい防止として何から始めるべきか?

今現在に至るまで自社のノウハウの漏えい防止を実施していない企業は多数あると思います。

ここで、IPAの「企業における営業秘密管理に関する実態調査」報告書における「調査報告書-資料編(アンケート調査結果)」の問8には「貴社において、過去 5 年間で営業秘密の漏えい事例はありましたか。」 という質問結果が記載されています。
この調査結果では、「漏えい事例はない(73.3%)」「わからない(18.1%)」 となっており、これらを除く8.6%の企 業が何らかの営業秘密漏えいを経験している、とのことです。
この結果は、一見、企業における営業秘密の漏えい事例は少ないようにも思えますが、その内情は単に自社からの情報漏えいに気づいていない、ということだとも考えられています。

現に、次の「問9.貴社において、社内 PC 等のログ確認やメールのモニタリング等、営業秘密が漏えいすることに気付けるような活動は実施されていますか?」の調査結果では、「検知活動は実施されていない(44.1%)」「わからない(5.7%)」であり、実に半数の企業がノウハウの漏えい防止を行っていないと思われます。

ところが、ノウハウの漏えい防止は企業の売り上げに直接影響するものでのありませんし、単に面倒なものであり、そもそも今まで行っていないかったのであればこれからも必要ないと考える人も存在するでしょう。
もっと言ってしまえば、「情報漏えいがあったとしても、気が付かないのであればそれで良い」とすら考える人も存在するかもしれません。

しかしながら、昨今の人材の流動化や大容量データの簡易な持ち運び等を鑑みると、ノウハウの漏えいを放置していると、自社のノウハウが他社で使用され、その結果、徐々に自社の競争力が減退することは間違いないでしょう。そして、競争力の減退のスピードは非常に速いかもしれません。


では、ノウハウの漏えい防止として、まず何をから始めるべきでしょうか?
私は、上記「問9」にもあるようにアクセスログの監視から始めるべきであると考えます。
現在の企業における情報管理において、よほど規模の小さい企業でない限り、データはデジタル化され、サーバー管理されているかと思います。
このため、データに対するアクセスログを監視することで、異常なアクセスが無いかをチェックします。
条件を設定してアラートを出力したり、従業員が退職届を出した直後にアクセスログをチェックしてデータの不正な流出の有無を確認します。従業員が退職届を出した直後にアクセスログをチェックすることは、多くの企業で行われているようですね。
また、定年退職者に対してもアクセスログのチェックを行った方が良いでしょう。
近年では、定年退職後にも他社で再就職することも十分に考えられます。

そして、やはり実施するべきことは、従業員に対する営業秘密(ノウハウ秘匿)の教育ですね。この社員教育において、アクセスログの監視を行っていることを周知します。
この周知を行うことで、多くの従業員はリスクを冒してまでノウハウを漏えいさせるような行動をとることをためらうと考えられます。
一方で、周知を行わないと、退職する従業員は、ノウハウの漏えいが犯罪行為であることを認識しないまま、退職と共にノウハウを漏えいさせる可能性があります。
アクセスログを監視することで、確かにノウハウの漏えいを検知できる可能性が高くなるかと思います。しかしながら、漏えいを検知したときとは、既に漏えいが行われたことを知るだけであり、本当の意味で漏えいを防止したことにはなりません。

なお、これらの前提としては、自社で保有している秘匿化ノウハウの確認です。
どの様なノウハウが秘匿化されているかは確認し、少なくともパスワード管理を行う必要があります。

ノウハウ管理としては、まず、このようなことを実施することが考えられます。
しかし、実際にどこの部署が実施するのかを決定することが一番難しいのかもしれませんね。
法務?知財?各部署?それとも人事?
仕事の押し付け合いにならないように決めましょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年5月28日月曜日

どの様な情報が秘匿化できるノウハウとなり得るのか?

企業が有する技術のうち、なにが秘匿化できるノウハウなのか?
「ノウハウとするべき情報とそうではない情報との切り分けが難しい」と考えている人もいるかと思います。
また、そもそも自社には秘匿化する情報はないと言い切ってしまう人も言います。
本来ノウハウを管理すべき人がそのように考えてしまうと、自社の情報を守るという思考に至らず当該企業においてノウハウ管理が全くできなくなってしまうかと思います。
そうなると、知らず知らずのうちに、自社のノウハウが外部に持ち出され、他社で使用されることになる可能性がありますし、既にそうなっているかもしれません。

なお、ここでは、特許出願した技術情報は秘匿化できるノウハウとは考えません。
特許出願は公開されるので、秘密にできないからです。しかしながら、特許出願してもそれが公開されるまでは当該情報はノウハウとなり得ます。

下記図は、従業員自身が有している情報のうち、ノウハウとノウハウでない情報とを、私の理解の元で図案化したものです。


そもそもノウハウとならない情報とは何でしょうか?
それは公知の情報、例えばインターネットや教科書、雑誌、論文等ですでに公知となっている一般的な知識であったり、自社だけでなく他社でも取得可能な技能や培うことができる一般的な技能であったりします。
一般的な技能とは、例えば、我々弁理士であれば明細書の作成技能、営業部員であれば営業を行ううえで一般的に取得可能な技能、溶接技術者であれば取得可能な一般的な溶接技能でしょうか。
このような従業員が有している一般的な知識や技能はノウハウとして秘匿することはできないでしょう。また、従業員の知識・技能が優れていたとしても、それが一般的な知識・技能の範囲内であれば、それに対して企業は秘匿可能なノウハウと主張することはできないでしょう。

一方、ノウハウとは、上記の裏返しであり、他社では取得できずに自社だけで取得可能な知識や技能となります。このような情報は企業として秘匿する価値のある情報となり得るでしょう。
すなわち、ノウハウとならない情報とノウハウとなる情報は、「自社のみで取得可能な知識や技能」か否かという基準で切り分けることができるかと思います。そして、ノウハウとなる情報の一部又は全部を必要に応じて企業は秘匿するべきでしょう。

さらに、ノウハウのうち、秘密管理性、有用性、非公知性を満たす情報が不正競争防止法で保護の対象となる営業秘密です。

つまり、ノウハウ>営業秘密であり、営業秘密と認められなくてもノウハウとはなり得ます。
例えば、公知の技術情報との差異が非常に小さく、営業秘密でいうところの有用性又は非公知性が認められない技術情報であっても、その情報を保有している企業がノウハウであると主張すばノウハウでしょう。そして、営業秘密と認められないノウハウであっても、従業員や取引会社との間で適正な秘密保持契約を結んでいれば、それに違反した者に対して契約不履行の民事責任を負わせることが可能になるかと思います。

換言すると、企業が自社のノウハウであると漠然と考えていても、営業秘密の要件も満たさず、持出しを禁止する規定や契約を従業員等と結ぶこともしていなければ、当該企業はノウハウの持ち出しは自由であると暗に認めていることになり、実際にノウハウを持ち出されても法的責任を負わせることはできません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年4月7日土曜日

「イノベーション創出のための兼業・副業解禁」は営業秘密の観点から大丈夫なのだろうか?

従業員の副業を認める企業が増えているようです。
これに伴い企業側は従業員が副業を行うことに対するリターンとして、当該従業員の能力向上を期待している側面もあるようですね。
参考ニュース:「「副業」相次ぎ解禁 ユニ・チャームなど 人材獲得、流出防止へ」(SankeiBiz)

しかしながら、副業解禁にはリスクもあることは周知であり、その一つとして秘密情報(営業秘密)の流出があります。そして、自社の秘密情報の流出リスクがあるということは、当然、他社からの秘密情報の流入リスクが存在します。

・参考過去ブログ:モデル就業規則の見直し 副業容認と営業秘密

ここで、上記ニュースで紹介されているコニカミノルタの「『会社にイノベーション(革新)をもたらす』ことを条件」という内容が気になり、検索したところ、コニカミノルタのホームページに該当する記載を見つけました。

・コニカミノルタリリース:イノベーション創出のための兼業・副業解禁、ジョブ・リターン制度導入


コニカミノルタのリリースの内容は、上記ニュースの内容と同様ですが下記のような文言が・・・
それは「兼業・副業先の経験を通して得た知見や技術を活かして、コニカミノルタのイノベーション創出の起点となることが期待されます。」(下線は筆者による)です。
「兼業・副業先の経験を通して得た知見や技術」とは何を指し示すのでしょうか?
この表現には、兼業・副業先の秘密情報(営業秘密)も含まれかねないと思います。当然、コニカミノルタとしては、そのような意図はないでしょうが。

しかしながら、私は、社会人の秘密情報、特に営業秘密に対するリテラシーは相当に低いと感じています。特に営業秘密の流入リスクについては、企業のトップですら認識が薄いかと思います。
そして上記のような期待を負って兼業・副業が認められた従業員は、イノベーションの創出の起点となる仕事を会社側にフィードバックできないと、プレッシャーを感じることになるかもしれません。その結果、当該従業員は、企業に対して何らかのフィードバックを与えるために、兼業・副業先が保有している情報、もしかすると営業秘密を持ち出すことになるかもしれません。
その結果、他社の営業秘密が自社に流入する可能性が有ります。

このような他社の営業秘密の流入を防止するためには、兼業・副業を認める従業員に対して、営業秘密に関する十分な教育を行い、営業秘密の不法な持ち出しの違法性を理解してもらわなければなりません。
すなわち、「兼業・副業先の経験を通して得た知見や技術」であって「イノベーション創出の起点」できるものは、副業・兼業先が保有している秘密情報ではなくて、「他の企業に勤務していても得られたであろう一般的知識や技能」の範囲のものでなければならず、それを従業員は理解する必要があります。

また、兼業・副業を認める従業員がイノベーション創出の起点となるような新しいアイデアを創出した場合には、当該企業は、相当の注意が必要になります。すなわち、そのアイデアが兼業・副業先の営業秘密等を開示・使用したものでないことの確証を得なければなりません。
これは難しいかもしれません。当該従業員のアイデアが、例え自社で知られていなくても、既に公知の情報によるものであれば他社の営業秘密でないという確証が得られるでしょう。しかしながら、当該従業員オリジナルのアイデアとのように説明され、実際に公知となっていないもの、かつ兼業・副業先の事業内容に含まれるようなアイデアであれば相当気を付ける必要があるかと思います。

もし、兼業・副業先の営業秘密等が自社で不正に開示・使用された場合には、当該従業員及び企業は民事的責任や刑事的責任を負う可能性が有ります。

このようなことを考えると、企業が従業員に副業を認める場合には、他社の秘密情報が流入するリスクを生じさせるような条件を設定することは慎重になるべきかと思いますが、副業を認めている企業においてこのような懸念をどのようにして解消しているのか知りたいところです。

http://www.営業秘密ラボ.com/
弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年4月2日月曜日

技術情報や顧客情報等の情報漏えいに関する保険

世の中、色々な保険がありますね。
グーグルやヤフーで「営業秘密」で検索しているせいでしょうが、ブラウザに営業秘密に関する広告が表示されることがあります。
昨今、顧客情報等の漏えいは当たり前のように起こっていますから、このような保険もあって当然かと思います。

その保険は三井住友海上の「サイバープロテクター」というものです。
なお、このブログで当該保険をお勧めするわけではありません。
この保険の特徴には「外部起因・内部起因の事故を幅広くカバー サイバー攻撃のほか、使用人の犯罪リスクまでカバーします。」とあります。
さらに、代理店のホームページを見ると「個人情報のみならず、企業秘密となっている生産方法等、公然と知られていない特定の事業者に関する情報の漏えいも対象となります。」ともあり、技術情報が漏えいした場合も保険の対象になるようですね。

保険料例」を見ると、損害賠償等の支払限度額が高いのか安いのか、これで十分なのかよく分かりません。損害額はケースバイケースでしょうから、何とも判断付きかねますよね。ちなみに、ベネッセの事件では顧客への補償だけで200億円を要したようです。ところで、三井住友海上も過去に顧客情報の漏えいがあったようです。

気になることは、この保険は情報漏えいの”被害企業”に対応したものであること。情報漏えいの“加害企業”に対応したものではないことです。

情報漏えいについては、転職者が前職企業の営業秘密を持ち出し、転職先企業で使用することが十分に考えられます。転職先企業において、転職者に対して前職企業の営業秘密等の使用を禁ずる教育を行ったとしても、転職者によっては成果を早く出すために前職企業の営業秘密を持ち出して使用する人も居るかもしれません。
その結果、転職者を受け入れた自社が前職企業に訴えられる可能性もあります。もし、転職者が持ち込んだ営業秘密を自社の製品に使用した場合には、当該製品の製造販売を停止する事態に陥る可能性もあります。
このように、意図せずに加害企業となっています可能性もあるため、”加害企業”を救済する保険があってもよいかと思いますが、今のところ需要が無いのでしょうね。


また、特許関係でも既に保険が販売されています。
例えば特許庁のホームページでは「海外知財訴訟費用保険 加入受付中!」と題して情報提供を行っています。
これは海外での知財訴訟リスクに対応したもののようですが、少し調べると国内の知財訴訟リスクに対応した保険である「国内知財訴訟費用保険」を損保ジャパン日本興亜で販売しています。

ここで、これらの知財訴訟リスクの保険は、上記情報漏えいの保険との大きな相違点があります。知財訴訟リスクの保険は、侵害者側、すなわち“加害企業”に対応したものであるということです。

面白いですね。
特許も営業秘密も共には知的財産のはずですが、一方は被害企業を救済するための保険、他方は加害企業を救済するための保険、救済される立場が逆です。

まあ、顧客情報等に関しては不正アクセス等による漏えいが多いため、“被害”に合う場合が想定し易いためかとも思われますが、上述のようにリスクという点では自社に営業秘密が流入して“加害企業”となるリスクもあります。特に技術情報に関しては、転職者からの流入だけでなく取引先からの開示もあります。取引先から開示された営業秘密は、自社で自由に使ってよいものではなく、不正に使用するとその責任を問われます。

しかしながら、営業秘密の流入リスクに関する認識は企業に十分浸透していないようです。その証拠に「営業秘密 流入」でネット検索をすると、このブログの記事がトップに現れます。このブログのアクセス数を考えると、如何に営業秘密の流入リスクの認識が薄いかを想像できます。

他方で、特許に関しては他社の特許権を侵害するリスクが説明するまでもなく広く認識されています。であるからこそ、上述のような保険に対するニーズが存在します。もし、営業秘密の流入に関する保険が販売されるようになれば、営業秘密の流入リスクが企業に深く浸透したことの証となるのではないでしょうか。

2018年3月29日木曜日

秘密とする技術情報の管理はどこの部署が行うべき?

近年、営業秘密等の秘密情報の管理規定(秘密管理規定)を設けている企業も増えてきているようです。まさに、今現在、秘密管理規定の作成作業を行っている企業もあるかと思います。

さて、秘密管理する技術情報はどこの部署がその管理を行うべきでしょうか?
これは非常に大きな問題かと思います。
そして、裁判で営業秘密と認められるように秘密情報を管理することは非常に手間がかかることだと思います。
なお、営業秘密の管理について重要な事の一つに、営業秘密の非公知性の判断基準時は当該情報の秘密管理の開始時ではなく、損害賠償請求に関しては不正行為が行われた時点であり、差し止め請求に関しては裁判における口頭弁論終結時である、ということがあります。

ここで、顧客情報等の営業情報は、取引先等に開示する場合はほとんどなく、また、他社が同様の情報を有していても自ら公開する可能性は低いと考えられ、秘密管理を行っていればその後、非公知性を失う可能性は低いかと思います。

一方で、技術情報に関しては、営業情報とは事情が異なります。技術情報は特許公報等で新たに公知となる情報が時と共に増加しますし、自社製品を販売した場合に自社製品がリバースエンジニアリングされることで非公知性が失われる可能性もあります。
すなわち、技術情報を営業秘密として管理する場合は、理想的には常に非公知性を失っていないかの検証を行う必要があります。これを怠ったり、既に非公知性が失われた情報であるにも関わらず、当該情報の漏えい等を主張して裁判を提起しても、勝てずに無駄なコストと労力を費やすことになり兼ねません。

また、非公知性を有する情報に公知の情報が混在して秘密管理されていると、下記参考過去ブログに記載したように、非公知性を有する情報もその営業秘密性が認められない可能性もあります。
このため、秘密管理した後に非公知性が失われた技術情報に関しては、積極的に秘密管理から除外する必要があるとも考えられます。

参考過去ブログ:技術情報を営業秘密とする場合に留意したい秘密管理措置

さらに、技術情報を営業秘密とする場合、本ブログで何度も記事にしているようにその有用性の判断は公知の技術を基準として判断される場合が多々あります。


ここまで書くと、お分かりかと思いますが、私としては技術情報を営業秘密として管理する場合には、特許等を扱う知財部が主体的に行うことが好ましいと考えます。営業秘密を法務部等の非技術系の部署で管理する企業もあるかと思いますが、上述のような技術情報の非公知性や有用性の判断を法務部で行うことは難しいのではないでしょうか?
特に、発明発掘の時点で、特許出願を行わずに営業秘密とすることが選択された技術情報に関しては、知財部以外で管理することは当該技術情報の文書化も含め、難しいのではないでしょうか。
一方で、営業情報等の非技術系の情報は、法務部で管理することが適していると考えます。営業情報までも知財部で管理することは、一般的な知財部の役割からして少々違うのかなと思います。

とはいいつつも、営業秘密は実際のビジネスで使われる場面が多いでしょう。
顧客情報はまさにその典型でしょう。そうすると、この顧客情報は例えば営業部でも管理され、営業部員にもアクセス権限が与えられ、閲覧だけでなく更新や追加も当然に行われることになります。
また、技術情報に関しては、開発や製造部門で使用するだけでなく、営業部門でも使用するかもしれません。営業部門で使用する場合とは、例えば、顧客に対して自社製品等の優位性を説明するために営業秘密としている技術情報を守秘義務契約を締結したうえで伝える可能性が考えられます。

そうすると、営業秘密はそれを使用する部門でも管理されることになり、法務部や知財部は管理対象の営業秘密について、どの部署がどのような情報を保持し、それに対するアクセスや使用の状態等を包括的に管理するということになるのでしょうか。

さらに、従業員が退職する際には、営業秘密が持ち出されていないかのチェックを早期に行う必要があります。これは、人事部やシステム管理部が主体的に行うことになるのでしょう。営業秘密の管理部門は、必要に応じて退職者のアクセス権限の有無を上記チェックを行う部門に知らせる必要があるかと思います。

このように、営業秘密の管理部門は、他の部門との横断的な協力関係がないと営業秘密を適切に管理することは難しいとも思われます。
さらに、技術情報に関しては、上述したように秘密管理を開始した後に非公知性が失われる可能性があります。非公知性を失った技術情報をそのまま秘密管理していると、秘密管理の形骸化をまねき、秘密管理している他の情報の営業秘密性に影響を与えるかもしれません。
このため、特に技術情報に関してはこのような認識を持ち、かつ対応できる部署が主体的にその管理を行うべきではないでしょうか?

2018年3月1日木曜日

特許の判定制度に対する法改正

ここのところ、技術情報を営業秘密とした場合における有用性判断に対する判例紹介ばかりなのでちょっと違う話題を。

昨日「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」との発表が経済産業省からありました。
この法改正の一番の目玉は、データの不正取得を不正競争と位置付けたことですね。

で、先日、特許庁から発表された「第四次産業革命等への対応のための知的財産制度の見直しについて」の中の「6. 判定における営業秘密の保護」という項目にある判定請求についても法改正がされるようです。

ここで、本項目には「他方で、特許発明の技術的範囲につき特許庁に見解を求めることができる判定制度(特許法第 71 条)については、営業秘密が記載された書類であっても、閲覧等は制限されていない。」とさらっと書いてあります。
そうだったんですね。私は判定に閲覧制限がないことを知りませんでした。
いままで一度の判定請求を行ったことが無く、このことにを気に留めたことがありませんでした。
そして、上記項目では「判定に関する書類に営業秘密が記載されている場合には、当事者の申出 により、当該の書類の閲覧等を制限するべきである。 」と今更ながら提言していました。

本改正案では、これに関して、(証明等の請求)第百八十六条が改正されます。 
第百八十六条は、「何人も、特許庁長官に対し、特許に関し、証明、書類の謄本若しくは抄本の交付、書類の閲覧若しくは謄写又は特許原簿のうち磁気テープをもつて調製した部分に記録されている事項を記載した書類の交付を請求することができる。ただし、次に掲げる書類については、特許庁長官が秘密を保持する必要があると認めるときは、この限りでない。」というもので、新たにこの二号に下記条文が新設されます。
判定に係る書類であつて、当事者から当該当事者の保有する営業秘密が記載された旨の申出があつたもの。


で、このような閲覧制限に対して営業秘密に関係する判例が既にあります。
それは、二重打刻鍵事件(東京地裁平成27年8月27日判決)であり、民事訴訟において閲覧制限の制度があるにもかかわらず、その制度を利用しなかったことが営業秘密の非公知性の判断に影響を与えたものです。

本判決では、裁判所は原告が主張する鍵情報の秘密管理性を認めない理由の一つとして「原告が,平成26年7月30日に本件訴訟を提起した後,口頭弁論の終結日(平成27年5月28日)に至るまで,本件鍵情報と同一内容が記載された訴状別紙「営業秘密目録」記載1につき,民事訴訟法92条1項2号に基づく閲覧等制限の申立てさえせず,その結果,約10か月間にわたって,本件鍵情報が何人も自由に閲覧できる状態に置かれていたこと(同法91条1項参照)も併せ考慮すれば,本件鍵情報に営業秘密性(非公知性,秘密管理性)があると認めることはできない。」と判断しています。
この判決は、原告は営業秘密の証拠については少なくとも閲覧制限を積極的に行う等しないと、秘密管理性と共に非公知性が認められなくなる可能性があることを示しています。

上記判決は、特許庁による判定制度にもそのまま当てはまるのではないでしょうか?
すなわち、特許庁の判定制度を利用し、判定に関する書類に営業秘密が記載されているにもかかわらず、閲覧制限の申し立てをしなかった場合には、当該営業秘密に関する非公知性及び秘密管理性があると認められなくなるということです。
このことは、判定請求を行うときに必ず意識しないといけないことですね。

しかしながら、特許庁ともあろう行政機関が、その利用者に対して多大なるリスクを負わせる可能性が有る制度をそのまま放置していたことにビックリです。
裏を返すと、今までいかに営業秘密がないがしろにされていたか、そして、今になって営業秘密の重要性について気が付いたかということかと思います。

2018年2月15日木曜日

営業秘密に関する海外のいろいろ

今回は緩めで海外の営業秘密関連の話題を。

少し前に私のブログに対する米国からのアクセスが急増しました。
原因が何だろうか?スパムとかかなあ、どこかで紹介された?
英語で適当に検索してみたらその過程で、米国のOrrick法律事務所が運営している下記ブログを発見しました。
・Trade Secrets Watch

このブログは2013年の5月から開始され、月に3,4回ぐらいの頻度で更新されているようです。
私は英語がさほど得意ではないのですが、海外(米国)の動向も知る上では読まねばならないでしょうね。

ちなみに、私は初めて知ったのですが、orrick法律事務所は日本にも事務所がある巨大法律事務所なんですね。営業秘密を専門とする弁護士も多数いるようです。
それから、米国からのアクセス急増の理由は分からずじまいです。


また、米国の営業秘密に関するニュースとして話題性の大きかったUberとGoogle子会社のWaymoとの自動運転技術に関する裁判ですが、あっさりと和解となりました。
2月5日に審理開始で2月9日に和解ですから、この4日で大きく交渉が進展したのでしょう。
Waymoは今回の件で約2億4500万ドル(約266億円)に相当する株式をUberから得るようですが、これはUberの株式の0.34%程度らしいので、Uberからすると痛くも痒くもないのでしょう?
一方、Waymoは取得した株式をすぐにでも売却すれば2億ドル以上の資金を調達できるので、納得できる和解だったということでしょう。


韓国では、先日、中小企業の技術を登用する韓国大企業に対する懲罰的損害賠償を10倍にする法改正がなされるとの報道がありました。
いままでは、米国と同様に懲罰的損害賠償は3倍だったようです。
韓国は、営業秘密に関する法整備が日本よりも進んでいるとのことを聞いたことがありますが、裏を返すと、日本以上に営業秘密の漏えいに関する問題が多いということでしょうか?日本における技術情報の漏えいのうち、大きな二つの事件(東芝の事件、新日鉄の事件)は共に韓国企業への持ち出しによるものですしね。
そして、10倍とする懲罰的損害賠償に対象が全企業ではなく「韓国大企業」との限定が入っていることも注目するべきでしょうか。


また、数カ月前に、中国の特許事務所の方とお話する機会がありました。
そのときに、中国国内での営業秘密に関する動向をお聞きしたのですが、あまりピンときていないようでした。
それも当然かなと思います。
現在の中国は、特許出願をして特許権を取得することに知財活動の主眼が置かれているかと思います。そのため、特許出願の対極にある技術情報の営業秘密管理は知財活動として重きが置かれないでしょう。

これは、中国に限ったことではなく、日本の技術系企業でも同じではないでしょうか?
知財活動として特許出願件数を増やしたいと考えている企業は、営業秘密管理については重きを置かないと思います。
一方で、特許出願に関する知財活動をある程度の年月行っている企業は、特許出願のメリット・デメリットも理解し、技術の営業秘密管理にも目を向け始めるかと思います。
技術系企業にとっては、おそらく、技術の特許出願だけでなく営業秘密管理も含めた知財活動に移行するフェーズのようなものがあるかと思います。
中国では、国全体としてそのフェーズには至っていないのだと思います。

2018年2月5日月曜日

自社の営業秘密が漏えいした場合の当該情報の行き先

営業秘密の侵害は刑事罰があり、実際に執行猶予無しの懲役刑も科されています。
執行猶予無しの懲役刑となった事件は、私の知る限り2つの事件です。
一つは、東芝の半導体製造技術が韓国SKハイニックスに漏えいした事件であり、懲役5年が科されています。
もう一つは、ベネッセの個人情報を流出させた事件であり、懲役2年6カ月が科されています。

ここで、一審で執行猶予無しの懲役1年6カ月とされた事件があります。高裁で執行猶予4年、懲役2年となりましたが。
一見、一審で執行猶予無しの実刑とは他の営業秘密漏えい事件に比べて、重い判決だと思います。
しかしながら、この事件は中々の犯罪っぷりです。

この事件は、信用金庫の女性従業員のが同金庫が保有する営業秘密である同金庫の顧客情報を、交際していた男に渡し、その見返りに現金や宝飾品を受け取っていたようです。
しかも、その男は詐欺グループであり、実際にこの顧客情報が詐欺事件に使用されていたようです。


同様に、銀行の顧客情報が犯罪集団を漏えいした事件としては、<佐川銀行営業秘密流出事件>があります。
この事件も、銀行の従業員が犯罪グループに顧客情報を漏えいさせています。
参考:過去の営業秘密流出事件

ここで、一言で営業秘密の漏えい事件といっても、色々なパターンがあるようです。
そのパターンとは、例えば、顧客情報等を名簿業者や他の企業に流出させるパターン、技術情報を転職等により他社に流出させるパターン、さらには、上記事件のように顧客情報等を犯罪者に流出させるパターン等です。

なお、近年における刑事事件の動向を鑑みると、転売を目的とした顧客情報の漏えいよりも転職等による技術情報の漏えいの方が事件としては多いようです。
そして、営業秘密の種類によっては、漏洩した場合におけるその影響が全く異なるかと思います。

例えば、技術情報に関しては、損害を被るのは自社である場合がほとんどでしょう。他社から開示され、自社で秘匿義務を負った情報等でない限り、第三者に影響を与える場合は低いかと思います。また、流出した技術情報が他の犯罪に使用される可能性はほとんどないかと思います。

一方、顧客情報が流出した場合には、自社の顧客に被害が及ぶことも想定しなければならないでしょう。当該顧客にダイレクトメールが送られるぐらいであるならば、実害はないでしょうが、メール詐欺のターゲットにされることも多々あるかと思います。

さらに、銀行の顧客情報ともなれば、その顧客が高額預金者であるならば窃盗等に使用される可能性もあります。
万が一、そのような犯罪に使用されたとしたら、漏えい元の企業はその犯罪に対しても社会的責任を問われる可能性があるかもしれません。

従って、営業秘密を保有している企業は、当該営業秘密が漏えいした場合に、どこにどのような影響を与えるのかを明確に認識するべきかと思います。
そして、営業秘密の漏えいが犯罪であること共に、その影響を従業員にも周知するべきでしょう。

ちなみに、上記信用銀行の事件は、<知多信用金庫顧客情報流出事件(2016年)> として過去の営業秘密流出事件のページに追加しました。