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2019年12月20日金曜日

工場見学と営業秘密における非公知性喪失について

取引会社の社員や消費者を対象に工場見学を行う企業もあるかと思います。
工場内で営業秘密に係る技術を実施していた場合に工場見学が行われると、当該技術の非公知性は失われるのでしょうか?

このような場合の参考になる裁判例が、フッ素樹脂ライニング事件 (大阪地裁平成10年12月22日判決 平成五年(ワ)第八三一四号)です。

この事件は、フッ素樹脂シートライニングを行うためのホットガンのノズルの形状が営業秘密(本件ノウハウ)であると原告が主張しているものです。被告は原告の元従業員等であり、原告企業を貸借後に同業他社である被告企業を設立したり、当該被告企業に就職しています。

そして、被告らは、原告においてはノズルを作業員各自が管理し、作業が終了していても特に定められた保管場所に収納していたわけではなく、しかも、当該ノズルを使用して原告工場内あるいは納品先で作業をする際、工場見学者や納品先社員が作業を見学し、ノズルを間近に見たりすることもできたと主張し、本件ノウハウの非公知性を否定しています。

しかしながら、裁判所は以下のように判断して、本件ノウハウの非公知性を認めています。
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原告はノズルの保管ロッカーを定めていたし、溶接作業を原告工場の見学者や納品先の社員に見せていたとしても、ノズル自体さほど大きいものではないのであるから、これら部外者においては、市販品を加工していること自体は理解できても、具体的にどの部分にどのような加工をしたかを知ることは困難であったと推認される。
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要するに、工場見学が行われたとしても、見学者が具体的に知ることができないノウハウ(情報)は非公知性は保たれていると判断されるかと思います。

一方で、生春巻き製造機事件(知財高裁平成30年11月2日判決平成30年(ネ)第1317号 大阪地裁平成30年4月24日判決平成29年(ワ)第1443号)のように、工場見学において製造方法を説明したり、写真撮影を許可した挙句に、見学者との間で秘密保持契約を結ばない場合には、当然、工場見学で積極的に公開したノウハウは非公知性を喪失することとなります。

フッ素樹脂ライニング事件で判示されているように、工場見学により必ずしも営業秘密でいうところの非公知性を失わないとしても、やはり、部外者に対して何を開示するかは慎重になるべきでしょう。
多くの企業が工場見学に対する対応は行っているかと思いますが、必要に応じて、見学者に見せない場所や工程を定めたり、秘密保持契約(誓約)にサインを求めたりすることは当然行うべきです。


ちなみに、特許法における新規性が喪失する場合には公然実施をされた発明が含まれます(特許法29条1項2号)。
ここで、公然実施について審査基準には下記のようにあります。

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「公然実施をされた発明」とは、その内容が公然知られる状況(注 1)又は公然知られるおそれのある状況 (注 2)で実施をされた発明を意味する(注 3)。
(注 1)「公然知られる状況」とは、例えば、工場であるものの製造状況を不特定の者に見学させた場合において、その製造状況を見れば当業者がその発明の内容を容易に知ることができるような状況をいう。
(注 2)「公然知られるおそれのある状況」とは、例えば、工場であるものの製造状況を不特定の者に見学させた場合において、その製造状況を見た場合に製造工程の一部については装置の外部を見てもその内容を知ることができないものであり、しかも、その部分を知らなければその発明全体を知ることはできない状況で、見学者がその装置の内部を見ること、又は内部について工場の人に説明してもらうことが可能な状況(工場で拒否しない)をいう。
 (注 3)その発明が実施をされたことにより公然知られた事実がある場合は、第29条第1項第1号の「公然知られた発明」に該当するから、同第2号の規定は発明が実施をされたことにより公然知られた事実が認められない場合でも、その実施が公然なされた場合を規定していると解される。
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この審査基準の記載を参照すると、工場見学において特許法の新規性が喪失する場合と、工場見学において営業秘密の非公知性が喪失する場合とでは、特許法の新規性喪失の方がより厳しい判断基準(上記(注2))となっているように思えます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年11月21日木曜日

ー判例紹介ー 特許権のライセンスとノウハウ開示

特許権者が他者に実施許諾する場合、当該特許公報に記載の内容だけでは実施が難しい場合には、実施に必要なノウハウもライセンシーに開示します。
実施許諾した特許権が存続期間満了等により消滅した場合には、ライセンス契約も終了するわけですが、開示したノウハウはどうなるのでしょうか?

そのようなことを争った事件が、大阪地裁令和元年10月3日判決(平28(ワ)3928号9)です。

本事件は、川鉄電設(訴外)が被告らと締結したトランス事業に係る特許権のライセンスに関する基本契約についての契約上の地位を川鉄電設から原告が承継しました。そして、原告は、被告らの債務不履行を理由に本件各基本契約を解除したとして、被告らに対して各基本契約解除前に発生していたロイヤルティ支払義務の履行と、被告らが各基本契約の解除後においても原告から被告らに対して開示した本件技術情報を使用して変圧器を製造、販売していることは不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為に当たるとして、被告らの製品の製造、販売の差止め及び廃棄を求めたものです。

本事件において原告は「本件各特許権はその内容が公知になったとしても,それだけでは実用に耐えるトランスを設計・製造することができない「ノウハウの主要部以外の部分」を特許化したものであり、本件各基本契約は特許化されずに秘匿された、トランスを設計・製造するために必須のノウハウを対象とするノウハウ実施許諾契約である。」と主張しています。
そのうえで、原告は「本件各基本契約はノウハウライセンス契約であり,ランニングロイヤルティ等はノウハウの使用許諾の対価であって,本件各特許権の消滅によっては影響されない。」と主張しました。

これに対して、裁判所は「本件各基本契約の中心となるのは本件各特許権の実施許諾であり、本件技術情報の提供はこれに付随するものというべきであるから,ランニングロイヤルティの支払も本件各特許権の実施許諾に対する対価と位置づけられるべきであり、これを本件技術情報の提供に対する対価と考えることはできない。」とのように判断しました。
そして、裁判所は「被告らの原告に対する本件各基本契約に基づくロイヤルティの支払義務は,本件各特許権が消滅した平成27年3月31日をもって消滅したと解すべきであり,同年4月1日以降に被告らがWBトランスを製造,販売したことに対するランニングロイヤルティの支払請求は,理由がないというべきである。」と判断しました。


なお、上記のような結論が得られているものの、本件各基本契約には、被告らの債務不履行による解約の場合を含め、契約終了後は本件技術情報を使用してはならず、WBトランスを製造、販売してはならない旨の条項が存在することもあり、裁判所は「被告らがWBトランスを製造,販売することは不正競争行為に当たるか。」についても判断しています。

これに対して、裁判所は、本件技術情報は一定の有用性を有していると認めているものの(秘密管理性については、明示するまでもなく当該基本契約に基づいて認められると思われます。)、非公知性について「本件技術情報のうち,川鉄電設及び原告が作成したパンフレット(甲57,乙3)に記載されている数値は,当初から営業秘密性がないものと認められるし,既に検討したとおり,被告らが製造したWBトランスが市場に出回った後は,リバースエンジニアリングにより取得し得る数値については,公知になったというべきである。」として認めておりません。

これをもって裁判所は「本件技術情報は,前記パンフレットの記載により,あるいは被告らがWBトランスを製造,販売したことによって公知となっており,営業秘密性は失われているというべきであるから,本件基本契約が終了(原告の主張では平成27年11月26日)した後にWBトランスを製造,販売することが,営業秘密の使用にあたるとする原告の主張は採用できず,不正競争行為に当たるとしてその差止め等を求める原告の請求は理由がない。」と判断しました。

このような裁判所の判断は、妥当なものであると考えられます。
すなわち、特許権をライセンスすると共にノウハウも開示する場合には、ノウハウに対して秘密保持義務を課したとしても特許権の消滅に伴い、当該ノウハウも自由に使用可能となる可能性を考慮する必要があるでしょう。
特に、当該ノウハウを使用した製品がリバースエンジニアリングされることによって、当該ノウハウの非公知性が失われるような可能性がある場合には要注意です。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年11月8日金曜日

ノウハウ(営業秘密)に対する企業の対価支払いとその帰属について。

営業秘密を規定している不正競争防止法には特許法第35条のような規定はありません。
そうであるならば、ノウハウを創作した発明者に対して企業は対価を支払わなくてもよいのでしょうか?

これに対する答えの参考となる裁判例として、知財高裁平成27年7月30日判決(平成26年(ネ)第10126号)があります。
この裁判例は、特許庁の「特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)」における「指針に関するQ&A」のQ21でも紹介されています。
この判決では、下記のように判示されています。
---------------------------
 (2)  独占的利益の有無について
使用者等は,職務発明について無償の法定通常実施権を有するから(特許法35条1項),相当対価の算定の基礎となる使用者等が受けるべき利益の額は,特許権を受ける権利を承継したことにより,他者を排除し,使用者等のみが当該特許権に係る発明を実施できるという利益,すなわち,独占的利益の額である。この独占的利益は,法律上のものに限らず,事実上のものも含まれるから,発明が特許権として成立しておらず,営業秘密又はノウハウとして保持されている場合であっても,生じ得る。
---------------------------

この裁判例では、特許を受ける権利を企業が承継したのであれば、特許権を取得せず、営業秘密又はノウハウとして企業が保有した場合でも、発明者に対して対価を与えるべきであると解釈できます。上記「指針に関するQ&A」でもそのように回答しています。

なお、本件は、被控訴人の従業者であった控訴人が被控訴人に対し、職務発明である証券取引所コンピュータに対する電子注文の際の伝送レイテンシ(遅延時間)を縮小する方法等に関する発明(本件発明)について特許を受ける権利を被控訴人に承継させたことにつき,特許法35条3項に基づき,相当対価の請求等を行った者ですが、被控訴人が本件発明を実施していないとして、控訴人の請求は棄却されています。


一方で、企業が特許出願する意図が全くない発明に対しては発明者に対価を支払う必要はあるのでしょうか?
すなわち、当初から秘匿化が前提であり企業は特許を受ける権利の承継も不要と考えている場合や、そもそも今まで特許出願を行ったこともほとんどなく、特許権の取得という意識が皆無に等しい企業は、当該発明をした発明者には対価等を与えなくてもよいのでしょうか?

特許法35条は、特許を前提とした職務発明規定であり、秘匿化を前提とした職務発明規定ではありませんし、特許法35条を不正競争防止法で規定されている営業秘密に援用するというような条文もありません。
そうすると、上述のような秘匿化が前提の発明をした発明者に対して対価等を与えるとする規定は現状では存在しないでしょう。

一方で、特許法35条3項は、職務発明について契約等により使用者等(企業等)に特許を受ける権利を取得させることが定められているときには、その特許を受ける権利は使用者等に帰属することが規定されています。しかしながら、この規定は、特許を受ける権利を企業等に帰属させる規定であり、営業秘密やノウハウを企業等に帰属させる規定ではありません。

そして、不正競争防止法2条1項7号は下記のように規定しています。
---------------------------
営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
---------------------------
ここで、事業者(企業)そのものは発明を行わず、発明は従業員等である発明者が行うため、発明は発明者から事業者に示されるものです。そのように発明という情報の流れを理解した上で、上記7号を素直に解釈すると、発明者と事業者との関係では、当該発明者は事業者から営業秘密とする発明は示されません。
であるならば、当該発明者が、自身が行った発明を例えば転職先等で開示等しても、不正競争防止法2条1項7号違反にはなりません。

さらに、発明者に対して事業者が発明に対する対価も支払わず、発明者との間で発明に対する秘密保持契約も結んでいない状態で、発明者が転職先に発明を開示し、この転職先が当該発明を使用等した場合には転職先は不正競争防止法2条1項8号違反となるのでしょうか?

すなわち、事業者が発明者に対価も支払わず、秘密保持契約も結んでいないと状況において、当該事業者と共に当該発明者もその発明の正当な保有者とも考えられるかと思います。そうすると、当該発明者による転職先への発明の開示は正当な行為であるため、この発明を転職先が使用等しても、不正競争防止法2条1項8号違反にはならない可能性があるのではないでしょうか? 


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年5月6日月曜日

営業秘密侵害訴訟の流れ

営業秘密侵害訴訟も特許権侵害訴訟と同様に特有の流れがあります。

まず特許権侵害訴訟の主な流れは以下のようでしょうか。侵害論で被告による原告の特許権侵害が認められない場合には損害論に至ることはありません。なお、損害賠償を請求せずに、差し止めだけを請求する場合には損害論はありません。
1.侵害論
 ・文言侵害(請求項の各構成要件に対するイ号製品の充足判断)
 ・均等侵害(文言侵害でない場合に)
2.損害論
 ・イ号製品の侵害が認められた場合

営業秘密侵害訴訟の場合は下記のようになります。
営業秘密侵害訴訟でも下記1~4まで段階的に判断され、裁断所によって全てが認められなければ原告勝訴には至りません。
1.営業秘密とする情報の特定
2.営業秘密の三要件(秘密管理性、有用性、非公知性)の判断
3.被告による営業秘密の不正使用
4.損害論


特許権侵害訴訟では、原告(特許権者)の権利範囲が訴訟を行う段階で既に明確である一方、営業秘密侵害訴訟では原告(営業秘密保持者)が主張する営業秘密が未だ明確ではありません。このため、営業秘密侵害訴訟では「1.営業秘密とする情報の特定」と「2.営業秘密の三要件の判断」とがまず判断されます。
営業秘密侵害訴訟ではこのハードルが高いといわれています。
特に三要件の秘密管理性が認められ難いと考えられていますが、裏を返すと原告が本来秘密としなければならない情報を適切に管理できていないということになります。

また、原告が営業秘密であると主張する情報が明確に特定できないことにより、裁判において三要件の判断すら行われない場合も散見されます。この場合は、原告ですら自身が秘密にしたい情報が何であるかが明確でないことになります。

このように、営業秘密侵害訴訟において原告は自身が営業秘密と主張する情報を明確にし、その情報は三要件全てを満たす必要があります。

そして、営業秘密侵害訴訟では「3.被告による営業秘密の不正使用」が認められなければなりません。これも特許権侵害にはありません。特許権侵害では、第三者が正当な理由なく他者の特許権を実施した場合にはそれだけで不法行為となるためです。
すなわち、原告主張の情報が営業秘密であると裁判所によって認められても、当該営業秘密が被告によって不正使用されていなければ原告の主張は認められません。なお、営業秘密の不正使用が認められない場合とは、被告が正当な権利を有して原告の営業秘密を使用している場合や、そもそも被告が原告の営業秘密を使用していない場合があります。

これら1~3が認められてやっと損害論となります。損害論に至っても、原告側に損害が発生していない場合には損害額はゼロとなりますし、低額の損害しか認められない場合もあります。

このように、営業秘密侵害訴訟では特許権侵害訴訟に比べて原告主張が認められるためのハードルが多いようにも思えます。一方で、特許権に関しては大前提として特許出願をして審査を経て特許権を取得するというハードルがありますが、営業秘密侵害訴訟では上記「1」と「2」が特許権における審査と同様であるとも考えれられます。

以上のように、営業秘密を管理する場合には、訴訟の流れを意識することも重要かと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2018年12月5日水曜日

営業秘密について非常に参考になる論文

営業秘密について非常に参考になる論文がありました。
インターネットでも公開されているものですので、興味のある方はぜひご覧ください。
シリーズとなっていますが、夫々のページ数も多くないものの営業秘密、特に技術情報の営業秘密についての考え方がわかるかと思います。

トレードシークレット(営業秘密)の有効な保護と活用のための戦略①
トレードシークレット(営業秘密)の有効な保護と活用のための戦略②
トレードシークレット(営業秘密)―機密保持契約のリスクと活用法
営業秘密を有効に保護するための NDAの特殊条項の戦略的活用法

なお、これらの論文は、2003年、2004年に執筆されたものであり、営業秘密に関連するものとしては古いものになるかと思います。
しかしながら、リバースエンジニアリングと営業秘密の関係、また他社の営業秘密が自社技術と混ざり合うコンタミネーションにも触れられており、営業秘密に関する実務的な留意点が一通り記載されており、ほとんど古さを感じさせません。

ここで、コンタミネーションに関しては、意識が低い企業がほとんどかと思います。
しかしながら、オープンイノベーションが広がりつつある昨今、このコンタミに係るリスクは認識する必要があります。
この認識が低いと、他社から情報の開示を受けたものの協力関係には至らず、当該情報に関する分野のビジネスを自社独自で始めたところ、当該他社から訴訟を提起されるというような事態に陥る可能性があります。
このような事態を割く得るために、情報を他社に開示する側は、協力関係が築けない場合も意識しつつ、段階的な情報開示を行い、情報を他社から開示される側も、必要以上の情報を取得しないように意識するべきかと思います。

特に、オープンイノベーションの場合には協力関係を構築する可能性のある他社と自社で同様の秘匿技術を有している可能性があります。このような場合において協力関係に至らなかった結果、上記のような訴訟等に発展するかもしれません。このような事態を避けるためにも、自社が他社から情報開示を受ける場合、その内容を精査すると共に自社も同様の技術を有している場合にはそのことを他社に開示する等も必要かと思います。
そのようなこともこの論文には記載されています。


さらに、営業秘密を意識したNDAについて記載されている論文は、オープンイノベーションとも絡んで特に意義のあるものでしょう。

特に論文「営業秘密を有効に保護するための NDAの特殊条項の戦略的活用法 」のまとめには「通り一遍のNDAの雛型をすべての案件に使用するのでは不十分である。」との記載があります。
裁判例を読んでいても原告と被告との間で締結されているNDAは、ほぼ“雛型”のままであろうと思われるものが多くあります。そして、例えば、NDAで秘密保持の対象とする情報が何であるかをより明確にすれば訴訟に至らなかったのではないか、すなわち、被告が当該営業秘密の使用等を行わなたかった可能性もあるのではないかと思われる事件もあります。
逆に雛型にとどまらず、案件ごとに適切なNDAを締結していれば、秘密保持の対象がより明確になり訴訟に至るような事態になりにくいのか漏れません。
訴訟となれば、原告、被告共に良いことはありません。訴訟による費用や労力を要することになり、実際にはどちらが勝とうとどちらにもメリットと呼べるものは生じない場合がほとんどでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年3月19日月曜日

他社の特許出願に対する情報提供について

たまには弁理士らしい話題を。
しかし、営業秘密とまでいかなくても、企業が秘密にしたい情報に関することも少々絡んでいます。

特許出願の制度として、他者の特許出願に係る発明が新規性・進歩性を有していないなどについての情報を特許庁へ提供する、いわゆる「情報提供」があります。
特許庁のホームページを参照すると、情報提供件数は年間7千件前後で推移しており、情報提供を受けた案件の73%において、情報提供された文献等を拒絶理由通知中で引用文献等として利用しているとのことです。
また、情報提供は匿名で行うことができるので、特許出願人は誰が情報提供を行ったのか分かりません。
このように、情報提供を行う者(企業)にとって、匿名で他社の特許出願が権利化されることを阻止することができるので、メリットが大きいかと思えます。

しかし、私の経験からすると、情報提供は、情報提供を行う企業にとってやはりリスクを負うものであると考えます。
情報提供を行う企業は、なぜ情報提供を行うのでしょうか?その理由は、情報提供の対象とする特許出願を権利化させたくないためです。
では、なぜ権利化させたくないのでしょうか?その理由の一つは、自社でも同様の技術を実施したい、若しくは既に実施しており、もし、当該特許出願が権利化された場合、自社によるこの実施が侵害になる可能性が高いというものがあります。

ということは、情報提供をされた特許出願の出願人は、自身の特許出願を意識している他社の存在を知ることになり、さらに、意識している理由として他社が当該特許出願に係る技術(発明)を実施予定又は既に実施していると推測することになります。

このような自社が他社の特許を侵害する可能性がある技術を実施又は実施する可能性があることは、他社に知られたくない秘密情報ではないでしょうか?




そして、情報提供を受けた特許出願人が行うことの一つとして、分割出願を行う可能性があります。当該特許出願が特許査定となっても、分割出願を行うことにより、当該特許出願に基づく異なる特許の取得を試みることになります。

こうなると、情報提供を行った企業は、当該分割出願に対しても情報提供を行う必要性に迫られるのではないでしょうか?そして、情報提供がされた場合、当該分割出願の出願人は、自社の特許出願を非常に意識している他社の存在の認識をさらに強く持つことになります。
そして、分割出願に対しても情報提供がされた場合には、当該分割出願の出願人はさらに分割出願をする可能性が高いでしょう。情報提供がされた出願人は、分割出願を行うことへの抵抗は小さいかと思います。逆に、自身の特許出願から複数の特許、しかも他社に対して抑制力となり得る可能性が高い特許を取得する機会となるので、喜んで分割出願を行う可能性が高いかと思います。
もし、自社の特許出願に対して情報提供を受けても何もしていなかった企業は、ぜひ分割出願を行うことをお勧めします。一方、私がお勧めしないことは、情報提供に対して上申書を提出することです。上申書の提出により、その後、禁反言の証拠にされる可能性や他社に特許取得を阻むヒントを与える可能性があるからです。もし、情報提供が行われても、それを審査官が採用しなかったら無意味ですし・・・。

これに対して、情報提供を行った企業は、分割出願の度に情報提供を行うのでしょうか?おそらく、どこかの時点であきらめる可能性が高いかと思いますが、場合によっては情報提供すべき資料の中に、通常では入手し難いような情報、例えばその情報を入手し得る企業を強く示唆する情報、換言すると、情報提供を行った企業を想起させるような情報を出してしまう可能性があります。
こうなってしまうと、特許出願人は、情報提供を行った企業を予測することになり、侵害されているか否かを調査し易くなります。

このような事態、すなわち分割出願によって他社に取得されたくない特許が複数取得される事態や、情報提供を自社が行ったことを想起される事態に陥らないように、情報提供を行う際には十分気を付ける必要があります。

ちなみに、分割出願を行わせないためには、情報提供ではなく特許査定後の異議申し立てにより特許取得を阻止する方が良いのではないかと思います。異議申し立ては匿名ですし、異議申し立て後には分割出願ができないためです。しかしながら、異議申し立てが認められない場合には、無効審判しか手立てがないというリスクも生じ得ますので、どのような制度を用いて他社の特許取得を阻むかは判断が難しいと思います。

2017年11月8日水曜日

営業秘密とする技術と特許出願する技術との線引き

技術情報を営業秘密として管理するか、又は特許出願とするかで悩む場合があるかもしれません。
では、どのような基準で技術情報を営業秘密とするか特許とするかを分けるべきでしょうか?

判断基準の一つは、その技術を公知とするべきか否かであると思います。
非公知とするのであれば営業秘密とし、公知となっても良いのであれば特許出願も視野に入れることができます。
最近流行りの「オープン&クローズ戦略」に通じる考えですね。

ここで、営業秘密として管理することが難しい技術があります。
それは、消費者(顧客)が視認できる製品の外形や機械構造等の製品化すると必然的に公知となってしまう技術(技術思想)です。
これらは、市場に製品が出ると同時に公知となってしまうので、営業秘密の3要件のうち、「非公知性」を満たさなくなります。
非公知性を満たさなくなる技術は、営業秘密として管理するのではなく、特許出願(実用新案出願又は意匠出願)することを検討するべきかと思います。
一方で、製品が市場に出る前であれば公知となっていないので、その技術は営業秘密として管理可能ですし、特許出願等を行うのであれば営業秘密として秘密管理するべきものです。



なお、製品の外形等でも、その図面は営業秘密とできるのではないかと思います。
図面そのものは、非公知であり有用性を有していると考えられるためです。
しかしながら、判例では容易にリバースエンジニアリングできる技術は、非公知性を有しないとされています。

非公知性とリバースエンジニアリングとの関係については、下記ブログ記事や私の論文でまとめていますので、ご興味があれば見てください。
下記の記事等にも記載していますが、営業秘密における非公知性とリバースエンジニアリングとの関係は未だ判例が少ないため、明確でないように思えます。

・過去ブログ記事「営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング-
・過去ブログ記事「営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング- その2
・パテント誌論文「営業秘密における有用性と非公知性について

また、特許で言うところの進歩性が認められ難い技術情報は、営業秘密として管理すべきかと思います。
例えば、工場の生産ラインの構成、食品や化学製品等の原料配合、プログラムのソース等、設計事項とされる技術であるものの、他社に知られたくない技術が営業秘密として管理する技術になるのではないでしょうか。

さらに、特許出願明細書に記載しなかった数値等、特許出願に関するヒアリングを弁理士と行った際に、「これはノウハウでしょうから明細書に記載するのはやめましょう。」とされた技術も営業秘密として管理するべきかと思います。

特に、特許技術に関連する技術情報(ノウハウ)は、ライセンスを意識するのであれば営業秘密として管理することは重要かと思います。
特許権と共にその技術をより確実に実施するためのノウハウも一緒にライセンスすることは一般的ですから。

また、特許は、存続期間が出願日から20年です。
この20年という期間は、長いようで短い気もします。この20年を過ぎると特許権は消滅し、その技術は誰でも使える技術となります。
特許出願と製品販売が同時にできている場合は少ないと思います。
例えば、特許出願から2~3年後に製品販売、略それと同時に特許権の取得。
その製品の市場優位性が分かるのにさらに1~2年とすると、特許権を取得していることによる利益は15年、審査の長期化等が生じるとそれよりも短いかもしれません。
その特許権が基礎技術に近いものであるならば、その技術を使った製品販売まで相当の時間を要するかもしれません。

一方、技術を営業秘密として適切に管理すると、独占排他権は半永久的に独占できるかもしれません。
例えば、コカ・コーラの製法やケンタッキーフライドチキンの製法等がとても分かりやすい典型例でしょうか。
このように、技術を営業秘密とするか特許出願するかの判断は、企業の事業スパンも考慮に入れるべきかと思います。

あまりまとまっていない気もしますが、技術情報を営業秘密とするか特許出願するかは、非常に難しい判断かもしれません。
この判断としてよくない判断は、営業秘密管理や特許出願を目的が明確でないまま漫然と行うことでしょうか。

私は知財業界においてこのような漫然とした判断が多々あるように感じます。
何のために特許出願を行うのか?自社実施のため?、他社排除のため?、社員のモチベーションアップのため?
営業秘密管理や特許出願はコストもかかり、マンパワーも要します。
営業秘密管理、特許出願の何れを選択する場合でも、最も重要なことはその“目的”は何かということではないでしょうか?

2017年11月6日月曜日

特許と営業秘密の違い

「特許法と営業秘密の違い」のページを新たに作成しました。

技術情報の管理の手法として、「特許出願による特許権の取得」と、「営業秘密として管理」するという2つの手法があると考えます。

そして、特許と営業秘密は多くの点で異なります。
大きな違いは特許はその技術が公に公開されることである一方、営業秘密はその技術が公には公開されないことであると考えられますが、その他、多くの点で違いがあると考えます。

その違いを項目立て示しています。
技術情報の管理の一助にして頂ければと思います。


2017年8月25日金曜日

特許権の侵害は刑事事件化されず、営業秘密の侵害は刑事事件化される理由

特許権の侵害は刑事事件になることはまずありません。
一方、営業秘密の侵害に関しては、刑事事件となる場合があります。
この違いは何でしょうか?

これに関して、あるセミナーで警察関係者の方が警察の視点から説明したものを聞いたことがあります。
特許だけでなく、実案や意匠も同様でしょうが、その理由は、無効審判によって権利そのものが消滅する場合が多々あるためとのことでした。

もし、侵害者(法人含む)に対して警察が立件しても、その後、無効審判によって権利が消滅した場合には、犯罪行為そのものがなくなってしまうため、警察は特許権等の侵害を刑事事件化することに及び腰になるとのことでした。

これはよく分かる理由だと思いました。

商標法違反で刑事事件化される場合でも、商標法違反とされる商標は今後無効とはなり得ないほど有名なブランドのものですしね。


一方で、営業秘密に関しては、その取得行為等は窃盗犯と同様のものであると警察は考えているようです。
営業秘密に関しては、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たしていれば、その後、営業秘密が無効となることはありません。
すなわち、営業秘密に関しては、特許権等とは異なり、事後的にその犯罪行為そのものがなくなることはありません。

特許権等は、技術を独占し他社を排除できる“強い権利”であるからこそ“無効審判”の制度が設けられているのですが、この無効審判があるために、刑事事件化され難いようです。
一方、営業秘密は、“強い権利”となりえるものではなく、“無効”という概念そのものがないため、刑事事件化され易いようです。

営業秘密が技術情報である場合、特許権侵害と営業秘密侵害はその行為は同様であるとも思われます。
にもかかわらず、刑事事件化されるか否かの違いが非常に大きく、私自身はなんだか釈然としません。
そもそも、特許権侵害と営業秘密侵害の刑事罰を同列に考えてはいけないのでしょうか?

2017年8月23日水曜日

ラーメンレシピは誰のもの?

営業秘密はだれのものでしょう?
先日、弁護士ドットコムの記事に「「ラーメン店」レシピは営業秘密? クビになった考案者がやめさせることはできるか」というものがありました。

この記事の結論を引用すると次のようなものです。
「問題のラーメンのレシピについて、ラーメン店のオーナーが秘密として管理して使っているのであれば、既に解雇された従業員が考案したレシピであってもオーナーの営業秘密として保護される可能性があります。この場合、元従業員は、自分が考案したレシピの使用や開示の差し止め、また使用や開示により発生した損害の賠償請求はできません。むしろ、オーナーがこれらを行うことができます。」
この結論については、まったく異論はありません。
そう、現在の法律において営業秘密はそれを管理する企業のものであって、それを開発した開発者のものではありません。

そして、営業秘密については、その営業秘密の開発者に対する法的保護は何らありません。
一方、特許、意匠、実用新案では、その開発者に対して、法的保護が与えられます(特許法35条等)。
このように、技術開発等を行い特許出願等を行えば、その開発者は法的保護のもと、それに対する利益を得ることが認められていますが、いったん営業秘密とされると開発者は法的保護をうけることができません。


ちなみに、特許庁における職務発明ガイドラインのQ&AのQ21「職務発明について使用者等が特許を受ける権利を取得した場合、特許出願せず に営業秘密又はノウハウとしたときであっても、発明者である従業者等に対して 相当の利益を付与する必要はありますか。」という質問があります。
これに対しては、【参考】として判例を挙げて「職務発明について使用者等が特許を受ける権利を取得した場合、特許出願せずに営業秘密又はノウハウとしたときであっても、発明者に対して相当の利益を付与する必要があ り得ると考えられます」とのように特許庁では回答しています。
しかしながら、これは法的な裏付けがあってのことではないため、企業は営業秘密の開発者に対して、利益を与える法的な義務はありません。

また、特許と営業秘密、この2つに対する法的な責任としては、共に民事的責任及び刑事的責任が法律で定められています。
しかしながら、特許権侵害において刑事的責任が問われた事件は聞いたことがありません。
さらに、特許侵害では個人の責任が問われることもほとんどないかと思います。

すなわち、転職者自身が開発に携わり、前職企業が権利者の“特許”に関する技術を転職先で使用しても、その転職先企業が民事的責任を負うことになっても転職者が民事的責任を負うことはないでしょう。
一方、転職者自信が開発に携わり、前職企業が“営業秘密”として管理している技術を転職先で使用すると、特許権侵害とは全く異なり、その転職先企業と共に転借者が民事的責任を負う可能性もあり、さらには刑事的責任を負う可能性もあります。

私は、特許権の取得も営業秘密としての管理も、共に「技術管理」及び「情報管理」の手法の一つであると思います。技術を特許とするか営業秘密とするかによって、現行法及び現行法の運用ではこのように大きな違いがあります。

果たして、これでいいのでしょうか?

2017年7月7日金曜日

特許出願件数の減少から考える営業秘密

下記グラフは、日本における特許出願件数の推移と国内企業の研究開発費の推移を示したものです。
特許出願件数は、特許庁の統計資料を参照し、国内企業の研究開発費は経済産業省の「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向 ― 主要指標と調査データ ― 」を参照しています。


国内の特許出願件数は、2001年の約44万件をピークに下降しており、リーマンショックの煽りを受け2009年には約35万件にまで減っています。
その後も緩やかに減少し続け、2016年には32万件にまで減少しています。
このように、特許出願件数はピークから実に約73%まで減少しています。

例えば、斜陽産業とも考えられている新聞の発行部数は2000年には約5370万部であったものが、2016年には4330万部に減少していますが、この減少率は約80%であり、特許出願件数の減少率よりも小さい割合です。(参考:http://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.php)
そして、2001年に比べて、明細書1件当たりの単価は下がっているので、国内案件の総売り上げではピークから73%減少どころではないと思われます。

ま実際には外国出願は増えているのでしょうから、国外を含めた特許出願の総売り上げはそこまで落ちていないのかもしれませんが・・・。
いづれにせよ特許事務所勤務としては好ましくない数値ですね。

一方で、日本企業の研究開発費に関しては、1995年からリーマンショックの2009年までは右肩上がりです。2009年には減少しているものの、2014,2015年には既にリーマンショック前までの値に回復しています。

これをどう考えるか?

特許出願件数の減少の理由は、企業の研究開発費の推移とは関係ないということです。
企業における研究開発は活発に行われているので、企業(特に大企業)が単に特許出願を押さえているということなのでしょう。
その理由は、コスト削減や、特許出願する技術の選別、技術の秘匿化等が考えられます。
逆を考えると、少々乱暴ではありますが、特許出願件数がピークであった2001年における特許出願件数の約30%に相当する技術が現在では秘匿化されているとも考えられます。
企業は何をどの程度秘匿化しているのかは分かるわけがありませんが、以前に比べて秘匿化している技術の量は多くなっているのではないでしょうか?

では、この秘匿化された技術、そう営業秘密とされた技術は、各企業で適切に管理されているのでしょうか?
営業秘密を従業員の皆さんに理解してもらっているのでしょうか?
オープン&クローズ戦略という言葉が流行り出しているように、今後「技術の秘匿化」は進んでいくと思われます。
そうであるならば、営業秘密という概念の重要性も増す一方で有ると考えます。